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問いの二 覆うは白、隠すは本質 9



見た目が好きと言っていた。優しい所が好きと言っていた。 頼り甲斐があるところもいいと言っていた。 でも奴は、あなたを傷つけた。 俺ならそんなことはしない。 尽きることのない愛情を、あなたに注ぐのに。





♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎






「ふぅ……」



運び込ませたのはいいが。 この女の処理はどうしようか。 俺の、なにより姉さんの邪魔をしようとしている。 そんな奴をこのまま解放する訳にはいかない。



「殺すか」


そうだ、それがいい。 あの男の時と同じように、殺して隠せばいい。 そうすれば姉さんは、また普通に暮らすことができる。傷つくこともない。





「……女の子は。 もうちょっと丁寧に、扱えってんだ」

「……なんだ。 気がついてたんですか」

「ええ。 あんだけ乱暴に扱われれればね。 ったく…… とても友情の深いお友達をお持ちなんだねぇ。 あいつらも、あんたの愛する女と同族、ってことかい?」




……癪に障る話し方をする。 気に入らない、どうしようか。 殺すか、やはり殺そう。生かしておいていいことなどないだろう。 俺は手に持った小型のナイフを女に向けた。




「……っ! 無理だよ!」

「……何が?」



「あの女が! 何もかも、隠したまま! 生き続けるなんてね、不可能だよ。 たとえおんなじ見た目のやつを増やしても…… 隠したものは消えやしない。 そんなにこの世は優しくないんだよ!」



……何を言っている? 全ては順調にいっている。 もう少し、あと少しだ。 自分の身を隠したい、消してしまいたいと思う奴はいるのだ。


そんな人たちに、俺は言ってやった。 たとえ黒く塗られてしまっても、真っ白に塗り替えればいいと。 そうすれば、見えない。見えなければ、分からないと。



「……我らはミイラ。 はっ、もう一種の宗教じゃないか。 仲間意識を高めさせるためか、そうすれば隠しやすいもんねぇ!」



……本当に、苛立たせる女だ。 黙らせよう、その姿を消してあげよう。 大丈夫、綺麗に消してあげよう。




姉さんを傷つけた、あの男と同じように。







「神城!!」



扉から聞こえた、息を荒げた男の声。 ああ…… あなたか。 …残念だ、あなたとは友達になれると思ったのに。



俺は手に持ったナイフを女に振り下ろした。






♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎






「………っ!」


金本が振り下ろしたナイフが神城の右肩に突き刺さる。


「……ったぃぃ!」


神城は体をひねり、なんとか急所を避けたのだろう。 それでも肩からは…… 血を流している。



瞬間、考えるよりも早く僕の体は動き出した。





「………うぉぉぉぉぉ!」


金本に向けて体をぶつける。 倒れこみ、馬乗りになって。




その。 他人から奪った顔を殴りつけた。




「っぐ!」


「おまえは、お前は! ……っくそ!」


「しゃ、しんやさん……」





「お前はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」




手に痛みを感じながら。 僕は、金本を何度も殴った。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎





「……。 神城さん、平気か」


「……ふっ。 写真屋さんこそ、顔が死んでるよ」


そう言って、神城は痛みをこらえるように笑った。 横目に、倒れている金本を見た。 少し唸り声が聞こえる、意識はまだあるのだろう。


神城は右肩を抑えながら立ち上がり、ため息をついた。






「…しっかし。 いくら、好きな人のためとはいえ。 あーんな姿のまま日常を過ごさせようなんて。 無謀、無知、正気じゃないね」


「……それでも。やらなきゃいけなかったんだよ」



僕の言葉に、神城は不思議そうな顔をする。…多分、気づいていないのだ。 彼女があの姿になったのも、この男がこんなことをしているのも。 そして…… この男が、誰なのかも。





「……あの人は、十分、傷ついた。 な、のに、まだ! 傷付けるの、か!」


倒れたまま、金本はそう言った。 どこまでも、彼女のことを想う。 その気持ちは、とても純粋なものだ。 それでも、彼の行いを許す理由にはならない。



「……十分傷ついた、だって?」


神城はそう言った。 怒りをあらわにしながら。



「傷つくことに終わりはないよ。 生きる限り痛みは常につきまとう。 それが生きてる証明さ。 傷つかずに生きたい? 甘ったれるな、それならその身を終わらせればいいさ」



容赦ない言葉をぶつける。 彼の全てを否定する言葉が、この空間に沈黙を作った。






プルルル、プルルル。



沈黙を破った、僕のスマホの着信音。 取り出して画面を見る。 ……佐野からだった。 僕は一度神城を見て、電話を取る。




「もしもし」



「おう、写真屋! おめぇどこ行ってんだ! こっちは大変なんだぞ!」


「……少し、待ってくれ」


僕はそう言って、画面のスピーカーと書かれたボタンを押した。



「…すまない。 続けてくれ」



「…? おう、でな! お前が出てったあと、奥さんが庭に埋めてるって言い出してな? なんのことか分からず本部に応援頼んで掘ってみたらよぉ…… 出てきたぜ。多分だが、 男の遺体が」



「……多分?」



神城が疑問を抱く。 …これで、認めるしかない。 彼女とこの男の、歪みの正体を。



「でもな、奇妙でよ。 遺体の顔、首から上がよぉ…… 皮がねぇんだ。 こりゃリアル人体模型だぜ」



それも、分かっていた。 その人の顔は今…… 横たわる男が持っているのだから。




「……彼女は、どうしている」



僕の問いかけに、受話器越しにため息が聞こえた。 佐野自身、急な展開についていけてはないのだろう。



「自首したよ。 私が、殺しましたって」







瞬間。 金本が起き上がる。 僕と神城は咄嗟に身構えだが、彼の視線は僕らに向いてはいなかった。



「姉さん」



顔に残る血を拭うことなく、金本は部屋から飛び出して行った。





「ちょ! あんた逃げるな……」


「神城さん! 好きに、させてくれ。 彼には、彼女が全てなんだよ……」


「写真屋さん……」




隠していた全てが、崩れるように壊れていく。 もう、彼にどうすることも出来ないだろう。







♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎






ねぇさん、ねぇさん、ねぇさん!



俺に、任せてと言ったのに! 姉さんはただ、幸せになってくれればいいんだ!

警察に脅された? 俺を何度も殴った男に酷いことを言われた? 傷つけられた?



だったら俺が消してあげるから! 全部全部、綺麗に、真っ白にーー






キキィィ‼︎



「あっ……」










姉さん、姉さん、姉さん。



見た目が好きと言っていた。優しい所が好きと言っていた。 頼り甲斐があるところもいいと言っていた。 そう言って、笑っていた。 そんなあなたが愛しくて、その側にいるあいつが憎くて。 でもね、大丈夫だよ。もうあいつはいない、僕が代わりにその隣に居続けるから。





……なんでだろう。 姉さんの笑った顔、うまく思い出せない。 目を、開けているのが酷く辛い。 ああ…… 会いたいなぁ。



俺は姉さんを愛しています。 だからそう……あなたには。







たとえどんな形でも。 笑っていてほしいんだ。








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