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問いの二 覆うは白、隠すは本質

見えないことは知られぬこと。 そこに人は、どんな闇を隠すのだろうか。


「ミイラが流行っている?」


いつもの居酒屋。 手元のお通しに箸をつける。 目の前の強面な警察官がブツブツと愚痴をこぼすのを聴きながら。


「おう。 ていっても、本物の干からびた遺体が流行ってるってことじゃないぞ?」

「……佐野、場所を考えてくれ」


一応食事の席だ。 そんな話をされていい気分にもならないし、食欲も薄れると言うものだ。


「おお、わりぃ。 でだな、流行っているってのは要するに、ミイラの外っ面なわけよ」

「外見と言うことか? ……なんだ、まさか包帯で全身ぐるぐる巻きの人が増えているとか?」


僕は冗談交じりにそう言った。 しかし、僕の冗談は不本意ながら当たったようで。 佐野はテーブルを叩きながら力説を始めた。



「そーなんだよ! まぁな、日中はそういう輩は少ねぇのさ。 しかしな、夜になるとおかしな奴らが現れるだろう? この前なんてよ、コンビニの前に4人組で顔面を包帯でぐるぐる巻きにしてるやつらがいやがってよぉ! ったく、職質しても我らはミイラ。 とかふざけた答えしかよこさねぇし」



そう言って、酒を一気に飲み干す。 …佐野の鋭い目つきから凄みが薄れている。 見れば、目の下のクマもいつも以上に濃い気がする。 察するに、それなりの大事なのだろう。 しかし、ミイラとはなんとも………


「大丈夫さ。 流行りはいつか終わるものだろう?」

「だったら今すぐ終わらせてくれ…… もう三徹だぞ?」

「僕に言うな。 それに三徹ならこんな所で飲んでないで少しでも休めばいいだろう」

「これが飲まずにやってられるか!」


そう言って、酒を追加する。 まぁ、面倒事を抱え込まされて酒まで我慢は流石に酷かもしれない。 佐野が机を指でせかせかと叩く様子を見ながら、ふと疑問に思い聞いてみた。




「流行ってるって言うのは。 やっぱりテレビとかの影響か? 芸能人やモデルとかが言い出したとか」


僕の質問に佐野は机を叩く指を止め、代わりと言わんばかりにため息をついた。


「テレビなのは間違いねぇんだが。 …流行りの大元は一般人さ」

「……宗教か何かなのか?」

「いや違うんだが。 まぁ、今の事態を見りゃ宗教とさして変わらねぇな。 でも違う、そいつ曰く時代の最先端、らしいぞ。ったく、面白半分で始めたんだろうが、本当迷惑だ!」


流行りとは気ままなものだな。 僕は一人そう思った。 何気ない出来事が周りに多大な影響を与えるのだから。 いつ起こるかも分からないし、どんな影響を与えるのかも。 面白半分で楽しむ人もいれば、こうしてストレスを与えられる人も生み出すのだから。



「ったくよぉ。 誰が喜ぶんだよこんなことして!」

「まぁいるんじゃないのか? 現実に、流行りは出来ているんだし」

「たく、やるなら後処理も自分でやれってんだ!」


佐野はそう言って、店員が持ってきた酒を即座に受け取り一気に飲み込んだ。






♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎




(まったく、強くもないのに勢いで飲み過ぎなんだ)


酔い潰れた佐野を送り、一人歩く。 いつもよりペースが早かったことを考えると、今抱えてる案件と言うのは大変なのだろう。 まぁ、あんな話されても僕には何も出来ないのだけれど。 特に取り柄のない、写真が好きな自称写真家。 力になれることなど…… あまりない。



ミイラの格好をした人が現れ、それが周りに影響を与えた。 内容は少し変わっているが、物事の流れとしてはありきたりなものだ。僕の目が役に立つことはない。 ……そう言えば、あれから連絡などはない。 今頃何をしているのだろう…… 彼女なら、こんなくだらない事でも飛びつきそうなものだけれど。



「ねぇねぇ! なーんでそんな格好してるの?」


……不意に、通り過ぎようとしたコンビニの方から聞こえてきたのは。 久しぶりなのに、聞き覚えのある声。 狙ったのかと思いたくなる。僕が彼女のことを考えた事も、佐野からその話を聞いたことも。 まるで僕の今日の出来事を全て予想済み、と言うように。







見慣れた彼女は、顔の部分が真っ白な人に問い詰めていた。



「ねぇねぇ! ミイラなの? それとも仮装? それともボケなの? ボケなら言うよ? ぜんっぜん面白くないよ!」


「…何をやってるんだ、神城さん………」



そう思いながらも。 足先を帰路ではなく、周りも気にせず大声を出す彼女に向けている僕も。 一体、何をしているのだろうと言いたくなるほど、お人好しなのだろうか。











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