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第七章:新生

 コン、コン、コン。


「どうぞ」


 ベッドで半身を起こした少年の代わりに、傍らの若い看護師が答えた。

 ガラリと病室の扉がスライドして、医師と、中年の女性と、そして、頬に痣のある高校生くらいの少年が入ってくる。


「お母さんと、お兄ちゃんよ」


 頭を包帯で巻いた少年に看護師は微笑んで示す。


「おかあ、さん。おにい、さん」


 変声期特有の割れを含んだ声で復唱すると、少年は新たに現れた三人に向かって曇りのない笑顔を浮かべた。


悠太ゆうた


 中年女性はベッドに近づいていくと、少年の顔を覗き込むようにして跪く。


「ぼく、ゆうた」


 母親の両の手が包むように息子の頬に触れる。

 少年は邪気のない笑顔で続けた。


「おかあ、さん」


 母親は涙を流しながら繰り返し頷く。


「そう、あなたの母さん」


「かあ、さん?」


 透き通った雫の伝う母親の顔を、少年は不思議なものを目にした風に見入る。


「悠太」


 続いて近づいてきた兄の目にも光るものが滲んでいる。


「おにい、さん」


 頭に白い包帯を巻きネットを被せた少年ははたまた大きな目を見張った。


「ここ、痛いの?」


 指が、兄の頬の痣を示している。


「大丈夫だよ」


 素直な目鼻立ちこそ似通っているものの、少年から青年に転じつつある面差しの兄は、涙を拭うと、確固とした声で言い添える。


「お前を脅してた連中は、もう全員、警察に突き出したから」


 弟のまだ肉の薄い肩に置かれた兄の右手にもまた、白い包帯が巻かれていた。


「余罪がずいぶんあったみたいだから、次に会うとしても、もう全員、成人だ」


 兄の精一杯笑った顔を見上げると、頭に傷を負った少年は再び晴れ晴れとした笑いを取り戻した。


 窓に懸けられたエメラルド色のブラインドを通して、部屋一帯に薄い青緑の明かりがさっと差し込んでくる。


「今のところ、歩行や動作に障害は見られません」


 医師の声が静かに響いた。


「あの高さから転落して、一命を取り留めただけでも奇跡的な話です」


 病室の本来真っ白な壁には、ブラインドの影模様が映し出されている。

 その薄緑と純白の線模様を無心に見入る少年を中心に、母子三人は固く抱き合っている。


「これから少しずつ、元の悠太君を取り戻していきましょう」(了)

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