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1-1 ロストデイズ

 出雲が施設――能力解剖隔離研究所へと収容されてから少なく見積もっても2ヶ月程が経過し、既にこの場所が何を目的とした施設なのか、薄々と勘付いてきていた。




 ◆◇◆


 目が覚めてまず最初に目にしたのは、恐ろしいほどに真っ白な天井であった。

 たったひとつ、埋め込み式の照明が取り付けられていなければ、どこまでが境界線なのかわからないほどに統一された、色というものをすべて置き去りにしたような室内。

 出雲はそこに設置された、唯一の家具である簡素なパイプベッドに横になっていた。

 出入り口は施錠されている防爆扉の如き分厚く、決して開くことのない扉がひとつと、天に細かな穴と、足元に排水溝らしきものが設置され、扉によって隔離された袋小路がひとつ。

 強いて目を向けるとするならば、袋小路とは逆側に設置された壁にあいたダクトくらいであるが、それにしても出雲の手が入る程の大きさでしかない。

 目覚めた当初は混乱し、手当たり次第に脱出口を探して脱獄映画も真っ青とばかりにあらゆる箇所を見て回った物の、6畳をやや超える程度の小さな室内に袋小路、ベッドのみという状況は、脱出の希望を奪うには十分すぎる環境であった。

 日に2回、決まった周期でダクトから落ちてくる保存食用に固形処理された食事を目途に、出雲は自身が監禁されてからの日数を数えていた。

 袋小路が風呂場であり、天に開いたいくつもの細かな穴がシャワーであると3日目に気づけたのは幸いであっただろう。

 そうしているうちに、1週間ほどたった頃。

 不意に声が聞こえ、他にすることもなく、また、少しでも情報を欲していた出雲は耳を澄ました。

 しかし、すぐに出雲は聞かなければよかったと後悔することとなる。


『いやだぁ!!!』

『やめてくれぇえぇええぇえぇ!!』

『ひ、や、やめ――ぎぁあぁぁあぁあぁぁあぁあぁ!!!!!』


 臓腑を鷲掴みにされるようなその悲鳴は、出雲の背筋を凍らせるには十分すぎる衝撃であった。

 出雲自身も身に覚えのある、死の間際の悲鳴であると、直感的に悟ってしまったのだ。

 たまらず耳を塞ぎ、声が止むのをじっと耐えていると、次第に声は聞こえなくなった。

 だが、それは悲鳴の主がこの世からいなくなったからに他ならない事を、出雲は予感していた。

 それから数週間、出雲は定期的に別の断末魔を聴くこととなった。

 口々に上げられる悲鳴と、理不尽に対する罵声。

 それらを否応にも耳にするうちに、出雲は我部の言葉を思い出した。


『君は能力者(ホルダー)かい?』


 あの確認が、出雲をここへ隔離する理由であったならば。

 ああして悲鳴を上げているのは出雲と同じく、覚醒して連れて来られた能力者なのだろう。

 その予想が確信に変わったのは、出雲が監禁されてから1ヶ月後。

 朝の食事を胃に流し込み終わった時だった。

 あれだけ重厚でびくともしなかった扉が外側から緩やかに開けられる光景に、出雲はじっと扉を凝視して固まってしまう。

 扉から姿を現したのは、全身を白い防護服で包み、手には対比するような黒々とした鉄の塊――一般人ですら、それが銃であるとわかるほどに無骨なアサルトライフル――を握った数名の人だった。

 出雲は銃の事など詳しくないが、それが向けられれば自分はただではすまないことだけはすぐに理解する事が出来た。

 防護服の人物たちが出雲に出るように促し、出雲はそれに従うしかない。

 完璧なまでの力による主従関係の下歩かされた廊下はひたすらに白く、いくつもの扉が並ぶ中に感じる人の気配だけが犇いた静寂に満ちていた。

 怖気を堪えながら防護服の人物たちに挟まれて連れて行かれた先は、壁に大きなガラスがある以外は何もない小部屋であった。

 しかし出雲は、そこで見知った顔と再会する。


「気分はどうかな? 道敷出雲君」


 1ヶ月程前と変わらない姿で、表面上だけの笑みを浮かべた我部がガラス越しに出雲へと声をかけていた。

 その姿は黒いスーツ姿ではなく、白い白衣に身を包み、首から提げた研究員である事を示すネームタグが光に反射して揺れる。


「――ッ!!」


 出雲は咄嗟にガラスへと駆け寄って口を開く。

 しかし、喉から出るはずの声は掠れ、まるで陸に上げられた魚の様にパクパクと口を開閉させるのみであった。


「おや、言葉を忘れてしまったのかい?」


 その様子に、酷く興味深そうに首を傾げてみせる我部の姿が、出雲には無性に癪に障った。

 しかし、それを言葉として、感情として我部にぶつけるよりも早く、我部が出雲に背を向けて立ち並んだ研究員らしい白衣の男女達へと指示を飛ばす。


「これより、験体番号(・・・・)68()()を用いた臨床試験を開始する」

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