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4-2 依頼2

 提案、そう告げるリーダーに、黄泉路はごくりと喉を鳴らす。

 警戒とまではいかないものの、なにやら心構えをしているらしい黄泉路にリーダーは苦笑する。


 「そう身構える事でもない。 ……迎坂黄泉路、そろそろ依頼を受けてみる気はないか?」


 依頼という言葉の意味を理解しかねた黄泉路は思わず首を傾げてしまう。

 三肢鴉(トライクロウ)には二つの顔があり、能力者の人権を訴える表の活動の他に、政府の能力者を対象とした非合法活動に対する襲撃がある。

 それらの活動を割り振る際に、“依頼”という形の言葉でやり取りされている事実を、黄泉路はこの2ヶ月の間に夜鷹支部の統括をしている果から聞かされていた。

 故に、その言葉の指す意味は理解できるものの、その話題が黄泉路にやってくるとは考えていなかったというのがより正確な表現と言える。


 「……僕に、依頼、ですか?」

 「そうだ。そろそろ三肢鴉の人員として扱っても問題はない程度には慣れただろう?」

 「は、はい……でも、なんで僕なんです?」


 非合法施設を襲撃するということは当然リスクがある。

 そこへ黄泉路の様な実戦経験の無い者を投入するというのが正気の沙汰とは思えず、言外に美花やカガリになぜ話を振らないのかと問い返す。

 その意図を汲んだリーダーは控え室の備え付けられている椅子へと腰掛け、正面の椅子へと腰掛けるように黄泉路を促した。

 どうやら腰を据えて話さないことには始まらないらしいと理解した黄泉路は椅子へと腰を落とす。


 「ここが一番現場に近いというのが最たる理由だ」

 「じゃ、じゃあ、僕じゃなくても?」

 「ああ。拒否権は常にある。依頼というのはそういうものだ」


 何をするにも自由参加。自由意志を尊重するのが三肢鴉の在り方であると言外に告げるリーダーに、黄泉路は多少なり気が軽くなるのを自覚する。

 しかし、やはり支部が現場に一番近いというだけならば、尚更自分でなくても良いのではないかという疑問が芽生える。

 何せ、現在は不在であるカガリや美花を除いたとしてもこの支部には誠という戦力がいるのだ。

 黄泉路のように戦力として数えるには不明瞭な存在を投入するよりよほど確実なのではないかと思ってしまうのも自然の事といえる。


 「えっと、じゃあ、なんで僕なんでしょう?」

 「カガリと美花が不在なのは此方も承知している。皆見とオペレーターは元より現場には出ない後方支援部隊であり、操木はこの支部の守り、後方支援部隊の護衛でもある」

 「……つまり、消去法で僕しかない、と」


 逃げ道を塞ぐ意図は無いのだろうが、そういわれてしまえば黄泉路は納得するしかない。

 とりあえずの理解を示した黄泉路に対し、リーダーは鷹揚に頷く。


 「それに、これはどちらかといえば美花やカガリには向かない。迎坂黄泉路、君にこそ相応しい依頼だと思っている」

 「……どういう事でしょう?」

 「一応はあまり表沙汰にはできない事だ。この先を聞くならば依頼を受ける、と取らせて貰うが、構わないか?」


 少ない情報の中から、黄泉路はこの提案を受けるかどうかを思案する。

 黄泉路の思考を占めるのは、三肢鴉のリーダーが直々に持ってきた依頼でかつ、表には出せない内容だという危険度に対する怯えが半分。

 もう半分は、この2ヶ月間。雑用や手入れの手伝いなどで貢献してきたものの、住まわせてもらうだけではなく、訓練まで時間を割いて行ってくれている夜鷹支部の面々に対する後ろめたさ。

 おそらくは依頼を蹴った所で夜鷹支部の立場に影響はないだろうし、リーダー本人も拒否したければしてもいいと言っている。

 その反面、黄泉路に向いている、黄泉路に持ってきた依頼だと言う言葉に心惹かれるのも事実であった。

 短くない逡巡。その間リーダーは黙って黄泉路が自ら答えを出すのを待つように、表情の伺えないサングラス越しにじっと黄泉路を見据えていた。

 ややあって、黄泉路はしっかりとリーダーの目――サングラスによって直接目を見る事はかなわない為、あくまで目であろう場所、ということにはなるのだが――を見て口を開く。


 「わかりました。その依頼、受けます」

 「……そう言ってくれると思っていた」

 「は、はぁ……」


 最初から断られる事を想定していなかったと言う様なリーダーの態度に黄泉路は仕方ない事とは思いつつも、手のひらで踊らされたような気がしてしまって曖昧な返事を返してしまう。

 そんな黄泉路の態度すらもまるで頓着した風も無く、リーダーは淡々と話を進める。


 「依頼の説明を始めるぞ」

 「は、はい!」


 心なしか空気が張り詰めるような感覚に黄泉路は思わず気を引き締める。

 そんな黄泉路の前に姫更が一枚の封筒を差し出した。

 思わず受け取ってしまった黄泉路は姫更の顔を見て、それから封筒とリーダーを交互に見る。

 リーダーが開ける様に手で促し、黄泉路はようやく封筒の開き口に手をかけた。


 「内容は簡単だ。そこに映っている少年との接触。それが迎坂黄泉路への依頼だ」


 封筒から引き出されたのは資料と思しき数枚の書類と、一人の少年の顔写真であった。

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