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3-20 夜鷹の蛇5

 暁の間へと出ると、黄泉路の背後で微かな物音と共に隠し扉が閉まり、そこには何食わぬ顔で床の間が存在していた。

 もはや見慣れた光景を一瞥して、部屋の外へと向かうカガリの背を追う。

 廊下はしんと静まり返り、宿泊客の気配は確認できない。

 それもそのはず、基本的には一般客は優先して上層階に割り当てるようにしており、一般客としても眺めのいい上階の方を好む為、客の少ないオフシーズンであれば休日であっても1階まで一般客で埋まる事もない。

 加えて暁の間は1階の一番奥の部屋であるため、散策と称して徘徊する一般客も訪れにくい場所である。

 結果、東館の1階は三肢鴉の関係者しか立ち寄る事のない空間となっており、カガリの横へと並び立った黄泉路も警戒心を持たずに歩く事ができていた。

 そのまま1階の通路を通って従業員用のスペースが多く配置されている西館の方へと移り、従業員用に宛がわれた休憩室へと入る。

 机にはすでに賄いが用意されており、黄泉路とカガリはどちらからともなく皿にご飯を乗せて食事の準備を始め、数分と経たずにこの日の昼食が机の上に並べられた。


 「んじゃ、いただきますっと」

 「いただきます」


 漬物と汁物、一般客への昼食の材料のあまりで作られた山菜中心の昼食を食べながら、黄泉路はちらりとカガリへと視線を向ける。

 その視線に気づいたカガリはわかってるという風に汁物で口の中のご飯を流し込み、小さく息を吐いた。


 「よし、じゃあさっきの話の続きだけどな。俺の体感とか、他の奴からチラッと聞いた話だから確証はない、ってのを前提にて聞いてくれ」

 「わかりました」


 箸をおき、黄泉路は真剣な眼差しでカガリを見つめる。

 カガリはそんな黄泉路の態度を大仰だと言わんばかりに小さく苦笑を浮かべて汁物を啜った。


 「そんなにたいした話じゃねぇから、お前もそんな改まらなくていい。メシ食いながら聞いてくれ」

 「あ、はい」

 「まず、能力に系統があるってのはリーダーから聞いてるよな」


 確認、という風に行儀悪く箸を持った手で人差し指を立てるカガリに、黄泉路は無言でうなずく。


 「系統っつーのはあくまで、発現する内容の区分になるわけだが、俺たち能力者はそのほかに【常時発動型】と【反応起動型】の2種類があると思ってる」

 「【常時発動型】と【反応起動型】……ですか?」

 「そうだ。んで、この場合俺の方法が参考にならないってのもそれが理由でな。俺は“トリガー”を引いたら能力が発動する【反応起動型】で……」


 そういいつつ、カガリは立てた人差し指の先をじっと見据える。

 黄泉路は見据えるその瞳の奥で揺れる炎を見た。

 まるでカガリの視界の中では全てが燃えてしまっているような。そんな錯覚を覚えた黄泉路は思わず息を呑む。

 黄泉路が瞬きも忘れてカガリの瞳の奥の炎にすべての意識が向かってしまう。

 刹那、何の前触れもなく、カガリが見つめた指の先に赤々とした炎が花開く。

 その光景に、幾度も目にしているはずにも拘らず黄泉路は感嘆の息を漏らす。


 「こんな風にな。俺は能力を使うとき、能力を意識して扱おうとするが、お前の場合――」

 「常に再生し続けてる……【常時発動型】って事ですか……?」

 「そういうこった。元々発動に際して設定されたトリガーを引く事で初めて機能する能力と、常に垂れ流しに近い状態で機能してる能力とじゃ扱い方が違って当然だ」

 「……そう、ですか」


 少しでもきっかけになれば、そう思っていただけに落胆が意図せず顔に表れてしまっていた黄泉路に、カガリは指先の炎をふっとかき消しながら苦笑する。


 「そう落ち込むなって。元々能力なんてものはその能力者にしかわからねぇもんだ。同じ再生能力者だっつってもその発動キーは全然違ったりするしな」

 「そ、そうなんですか?」

 「ああ。俺が思うに、能力ってモンはそいつ自身がどうしたいのかによって決まるんじゃねぇかってな」

 「どうしたいのか……」


 言われて初めて、黄泉路は自分の能力について、自分自身がしっかりと向き合った事はなかった事に気づかされた。

 今まではただ偶発的に能力に目覚め、死にたくない。ただその一心でしかなかった。

 知らず知らずのうちに能力に頼りきりになり、知ろうとすらしていなかった事に気づかされた黄泉路は目から鱗が落ちる思いであった。


 「ま、そんな感じで、能力については自分自身で手探りするしかねぇと俺は思うんだが、いい参考にはなるだろ。今日の訓練は俺権限で休みにしてやるから、食い終わったら飯持って標の所にでも顔出してみろよ」

 「え、標ちゃん、ですか?」

 「ああ。あいつの能力もどっちかって言えばお前と同じ【常時発動型】だからな。制御の感覚とか、何意識してるとか、参考までに聞いてみりゃいいさ」

 「は、はい」


 説明は終わったとばかりに食事を再開させるカガリを眺めつつ、黄泉路はカガリの言う“自身がどうしたいのか”という言葉を頭の中で反芻させていた。

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