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12-38 親子の再会

 ◆◇◆


 常群に依頼を出してからきっかり1ヶ月が経った4月の頭。

 世間では新年度のスタートと共に本格的に実稼働し始めた東都再建、新開発計画の動きが大々的に取り上げられると共に、多種多様な業種に跨って官民一体となって動き出した日本中が活力に沸いているようであった。

 新たな学年に進級した学生たちもまた、そうした世間の忙しなさの合間で各々の新しい環境に向けて活発になり始めていることが、行き交う人々の人の流れからも見て取れるようだと、黄泉路は常群に指定された駅前の広場から周囲を眺めていた。

 学ランを身に着けていることから学生のようにも見える為、周囲から浮くこともなく、不自然にならない程度の変装として伊達眼鏡とマスクで顔を隠していることも相まって、行き交う人々はメディアで大々的に取り上げられ、既に世界規模で顔が知られている少年がそこに居るなどとは露ほども思っていない様子であった。


「よ、またせたな」

「常群」


 駅の出入口から歩いてきた明るい髪色の青年が気さくに手を挙げて近づいてくれば、それが待ち人だと気づいた黄泉路もまた片手をあげて応じる。


「こっからちょっと歩くけど、タクシーなんかよりは悪目立ちしなくていいだろ?」

「大丈夫」

「んじゃ、行こうぜ出雲」

「うん」


 揃って――とはいえ行き先を知っているのは常群であるため、常群がややリードする形だが――歩き出したふたりは駅前の広場を抜け、アーチのかかった天蓋付きの商店街へと足を進める。

 時刻はまだ8時過ぎと、通勤通学で行き交う人も絶えない時間であることもあってそれなりの人ごみの中を歩きながら、黄泉路は常群へと声をかける。


「本当に1ヶ月で調べてくるなんてね」

「ん? まぁな。元々そんなに大変な調べごとじゃなかったし」


 お前を探すよりマシだったぜ、などと、冗談か本気か分からない言葉を返す常群に、黄泉路はリアクションに困るなぁと苦笑を浮かべた。


「でも、調べるにあたって色々苦労かけたのは確かだよね」

「埋め合わせっつーなら別に構わねぇよ。俺にとっても(・・・・・・)必要な事だ(・・・・・)

「……聞いてもいい?」

「おうよ」


 控えめに問いかける黄泉路に、常群は何てことはないという態度のまま、ちらりと隣を歩く黄泉路へと視線を向け、


「今となっちゃあの日お前を引き留めたから、なんてのは負い目に換算しちゃいないけどさ。それでもまぁ、なんつーか、途中で投げ出したら後味悪いじゃん」


 誤魔化すというよりは、詳細な言語化に詰まったような物言いに、黄泉路は半ば首を傾げつつも、そういうものだろうかと納得する。

 元より、黄泉路は常群を疑ったことはない。

 4年の間隔を空けて偶然再会した時から、さらに2年も費やして、自身の将来の道筋すら大いに捻じ曲げてまで探しに来てくれた親友を、今更疑う理由が無いと言った方が正確だろう。

 そんな親友が言葉に迷う内心を無理に聞き出そうとするほど黄泉路は野暮ではなかった。


「ほら、見えてきたぜ」


 商店街を抜け、大通りに沿って歩くうちにビルの合間に覗く白い外壁の巨大な建物――ビルと比べれば高さこそない物の、敷地面積という意味では間違いなく周囲と隔絶している事が分かる横への大きさだ――を示した常群の指を追って向けた先にあった大病院が視界に映る。

 信号を渡って歩くこと数分。敷地沿いの道を歩きながら、国立病院らしい施設へ目を向けていれば、常群はすっと日差しを遮る様に目の上あたりで手をかざして目を凝らす様に上層階を見据える。


「ほら、大体あの辺だ。たしか西棟の上層階だったからな」


 受付やロビー、診察室、治療設備が揃う、横方向に只管低く、他と比べて高さの無い本棟を挟むようにそそり立った2本の別棟。その内の片方を示す言葉に、黄泉路は小さく頷きながら目を凝らす。

 多くの窓がカーテンによって遮られていて中の様子は分からない。その中の一つに母がいるのかと考えても、黄泉路の探知はまだまだ会ったことのある能力者の様なわかりやすさがなければそこに人がいるかどうか程度しか分からない事もあり、自分の母親の所在までは掴めそうにない。


「……」

「ま、今回は忍び込むわけじゃないし、気楽にいこうぜ」

「――そうだね」


 仮に、忍び込むとしたらと自然と思考が病院そのものの構造に向き始めた事を察したように常群が冗談交じりに声を掛ければ、黄泉路もやや物騒な方向にズレていた思考を自覚して小さく頷いた。

 正面から堂々と。駐車場入り口を抜けて正面玄関から入ると、常群は慣れた様子で受付で面会の申請手続きを済ませる。

 事前に根回しをしていた事もあってあっさりと面会許可が下りたふたりは来客用の認識票を手に西棟のエレベーターへと向かう。


「不審がられると思ったけど」

「ま、その辺りは根回しの成果って所だな。今の俺達は小母さんの甥って事になってるから。親族でも弾くなんてのは逆に不自然だろ?」

「病院はあくまで通常営業だからってこと」

「そゆこと」


 軽やかな電子音が鳴り、ふたりだけを乗せたエレベーターが目的の階層へ到着したことを示せば、箱を降りたふたりを出迎えたのはロビーを行きかっていた大勢の人の喧騒とは打って変わった静寂であった。

 ラバー地の床が独特の反発で靴裏を受け止め、白を基調にした壁面に柔らかな暖色が散りばめられたエントランスに人影はない。

 病棟に入る為の自動ドアの脇に設置された認証パネルに認識票を読ませて扉を潜ると、静寂は更に強くなるように感じられた。


「えーっと。あった。この部屋だ」

「……」


 どうやらそれぞれの個室がかなり広く作られたフロアらしく、病棟というにも拘らず通路に面した扉の数は少ない。

 その中でも、通路の最奥に位置する部屋の前で立ち止まった常群に促され、黄泉路は無言のまま扉の前に立つ。

 扉の向こうに母がいる。

 あの日、父に追い出され、逃げる様に飛び出して以来、会おうとも考えてこなかった母親が。

 黄泉路にそれを考えるだけの心の余裕があったかはさておき、これまで探そうとすらしてこなかった――必要としてこなかったにも拘らず、今更どの面を下げて会えばいいのか。

 目前まで来て思わずそう考えてしまった黄泉路は扉をノックしようとした手を止める。


「何気負ってんだよ。ほら」

「え、あっ」


 躊躇う黄泉路の内心をあえて無視する様に、何も問題ないとばかりに扉を軽く叩いた常群がスライド式のそれをからからと軽い音を立てて開いてしまう。

 あっさりと開かれた扉の奥、室内から蛍光灯とも陽光ともつかない光が照らし、僅かにまぶし気に目を細めた黄泉路と、部屋の中にいた人物の目が合った。


「――出雲……?」


 ベッドに腰かける様にして、窓の外を眺めていたらしい女性の声が黄泉路の名を呼ぶ。

 目を見開いて驚きをありありと浮かべた顔は黄泉路の記憶にある姿からまた少し老けたようだったが、それでも以前に会った時と変わらず、健康そうな姿に黄泉路は内心ホッとしていると、常群に背を小突かれてようやく一歩を踏み出した。


「久しぶり、母さん」

「出雲、出雲……!」


 ベッドから立ち上がった母、奈江が、入院という名の軟禁生活によって多少衰えたのだろう、緩やかな歩調で歩み寄ってくる。

 そのまま黄泉路を強く胸に抱える様に抱きしめれば、黄泉路は漸く緊張が解れた様に母の背に手を回して抱き返す。

 大丈夫、ここにいると伝える様にゆっくりと背を叩けば、奈江は黄泉路を抱きしめたまま、涙が浮かんできてしまったらしい声音で嗚咽交じりに黄泉路の耳元で繰り返す。


「ごめんなさい、ごめんなさいね」

「……」

「あの日引き留めてあげられなくて、ごめんなさい」


 繰り返される謝罪は過日の後悔の吐露。

 譲が黄泉路を追い出そうとした時に引き留めてあげられなかったことへがずっと心に残り続けていたのだとわかる言葉に、黄泉路は背に回した手で大丈夫だと繰り返す様に示し、


「ううん。母さんの所為じゃないから」

「出雲……」


 泣きじゃくる母親を、慰める様に、許す様に。そのままの姿勢でいた黄泉路が落ち着くのを待っていると、暫くして漸く感情の整理が付いた奈江が緩やかに黄泉路の背に回した腕を解く。


「ごめんなさいね、情けない所を見せちゃって」

「気にしてないよ。母さんが元気そうで良かった」


 泣き終えた後で目元が赤いものの、柔らかく笑みを浮かべた母の姿に黄泉路もまた淡く微笑んで応える。

 久々の心温まる親子のやり取り、それを一歩引いた日差しの届かない通路の側から眺めていた常群がそっとふたりきりにしようと扉に手を掛けると、それに気づいた奈江が黄泉路越しに常群へと顔を向けた。


「幸也くんも入って」

「あ、いや俺は」

「出雲を連れてきてくれたのよね。ちゃんとお礼が言いたいの」

「……はいッス」


 常群も、奈江からそう言われてしまえば入室しないわけにもいかず、根回しをして人目を憚らず面会が出来るとは言っても扉をいつまでも開けっ放しにするわけにもいかない為、常群は扉に手を掛けたまま一歩踏み出し、後ろ手で扉を閉めて病室に入る。


「ふたりとも、そこに座って。今コーヒーを淹れちゃうから」


 改めて室内を見回せば、病室はいち入院患者へのものとするならば上質すぎるものであった。

 一般家庭に過ぎない道敷家からすると不釣り合いなVIP向けの個室は広々としており、見ようによってはホテルの一室の様にすら見える。

 唯一、病室であると主張する様な病床の傍に設えられた面会者向けの上質なソファに腰かけて室内にそれとなく目を向けていた黄泉路達をよそに、奈江は手慣れた様子で電気ケトルでインスタントコーヒーを淹れてテーブルへと置く。


「改めて、幸也くん。いつも穂憂がお世話になっています。今日も、出雲を連れてきてくれて本当に嬉しいわ、ありがとう」

「いや、俺は出来ることをやってるだけなんで」


 対面に座った奈江が深々と頭を下げる感謝は、穂憂の兄代わりをしてくれたことや、今になってもまだ穂憂や黄泉路の為に奔走してくれている事、またこうして黄泉路を連れてきてくれたことへのもの。

 常群がそれを受けて照れ臭さと居心地の悪さに半笑いしていると、奈江はこれ以上言葉を重ねるのもかえって困らせるだろうと黄泉路へと向き直る。


「出雲のことは、東都の後からだけど、ニュースで見てたわ。会えなくても、元気でいるってだけで嬉しかった」

「母さん……」

「ずっと後悔してたの。あの時、出雲が飛び出していくのを止めてあげられなかったこと」


 溜息の様に吐き出された、あの日に置いてきてしまった奈江の心境に黄泉路と常群は押し黙る。


「出雲は、幸也くんからどこまで聞いているの?」

「……父さんと母さんが離婚した、ってことくらいなら」

「そう……。出雲が出て行ったすぐ後、穂憂が帰ってきて譲さんと言い合いになってね。ことがことだったから、仲直りもできなくて」

「……」

「私も、出雲が出ていくのを引き留めてあげられなかった事を後悔してたし、譲さんの理由を教えてくれない態度も許せなくて。それで段々家の中がギクシャクしてね。穂憂も段々家を空ける時間が多くなっちゃって……」


 確かに、黄泉路の父、譲が黄泉路を追い出した際の態度は唐突で……とはいえ、黄泉路としても、4年も行方不明だった息子が一切変わらない姿で戻ってきて不審に思うのも無理はないというのも分かってしまう。


「それで離婚したの?」

「原因のひとつね」

「それじゃあ、他の原因って……?」

「穂憂がいない間にね。譲さんとちゃんと話し合ってみたのよ。どうして出雲を追い出したのか」

「!」


 思いがけない言葉に黄泉路が僅かに驚いたように目を見開く。


「あの人も、別に悪気があったわけではないのよ。……話を聞いた後だと、ああするしかないって譲さんが思うのも無理はないことだったとも思えるの。だから、無理にとは言わないけど、出雲もあの人を恨まないであげて」


 そんな黄泉路の様子に、言い含める様な調子で声を掛けた奈江はコーヒーに口をつけ、黄泉路が内心を整理する時間を取る様に口を閉ざした。

 ややあって、黄泉路はゆっくりと口を開く。


「母さんがそういうからには、理由があるっていうのは分かった。でも、その理由を聞かないと納得は出来ない、かな」

「でしょうね」


 しっかりと言葉を咀嚼して、考えを口にする黄泉路に、奈江は静かに頷く。


「理由は、今言えないこと?」


 覚悟をしているような、沙汰を待つ罪人の様な殊勝さにも似た雰囲気を纏う母に、黄泉路は小さく息を吸って問う。

 黄泉路にしてみれば、確かに気にはなることではある。だが、どうしても――それこそ、母を精神的に追い詰めてまで聞き出そうという気はなかった。

 だからこそ、言いたくなければここで話を切り上げてもいいのだという意味で選択権を渡した黄泉路に対し、奈江は静かに答えることを選択した。


「……出雲と穂憂を守るためだった」

「僕と、憂を?」


 思いがけない言葉に首をかしげる黄泉路に、奈江は黒々としたカップの中の水面に目を落としながらぽつぽつと語り出した。


「あの日電話口にいた男……我部(・・)が、出雲に目をつけてしまったと、譲さんから聞いたのよ。出雲を留め置いていても、私達では守れない。それに、出雲と一緒に居れば穂憂まで目をつけられてしまうかもしれない。そう聞いて、あの時、出雲を少しでも遠くにやるにはああするしかなかったって、納得してしまったの」

「――!」


 よく知る名前――それも、悪い方向に跳びぬけて――が母の口から飛び出したこともそうだが、その口ぶりがまるで両親が我部と既知であったかのようなものであったことも、黄泉路を驚かせ咄嗟の言葉を奪うものだった。


「その後も話し合って、私と譲さんは別れて暮らすことにしたの。穂憂は、譲さんに預けることも出来なかったから私と一緒に暮らすことにしてね」

「それが離婚の理由……」

「結局、どこで目をつけられたのか、いつの間にか穂憂はあの男の手の内に入ってしまったけれど」

「……それは」


 自嘲する様な奈江の声に、ある程度穂憂側の事情に詳しい常群が居た堪れなさそうに口を挟むが、ふるふると首を横に振って奈江は続ける。


「譲さんと別れてから暫くして、我部が私が住んでいたアパートに来て言ったの。“管理下に入るなら、出雲を無理に追い回さない”。“穂憂にも雇用以上の干渉はしない”って」

「なんだそれ……!」


 明らかな脅迫。それも、黄泉路に至ってはあれからも政府に狙われる機会もあれば、一度は所属していた拠り所を壊されていることからも、守るつもりのない空手形であることは明白であった。

 それでも、奈江の立場であれば頷かざるを得ない内容だったことは察するに余りあり、黄泉路は思わず唸るような声を上げてしまう。

 常群も、そこまで酷い内容だったとは知らなかったらしく、穂憂はどこまで知っているのかと僅かに目を細めていると、奈江はゆっくりと顔を上げてふたりを見つめ、


「過ぎた事だし、仕方のないことよ」

「母さん……」


 本来であれば、すぐにでも母を連れだそうとも思わないでもない黄泉路だが、理性の部分が母の立場は穂憂の立場や安全を守るための鎖でもあると正しく認識できてしまい、どうする事も出来ない不快感だけが胃の奥に渦巻く様な錯覚を抱いてしまう。


「母さんは、大丈夫なの?」

「大丈夫、こうしてふたりの顔が見られただけで十分よ」


 自由に出歩けないこと以外は生活に不満はないと、努めて明るく振舞う奈江に、黄泉路は何も言えなくなってしまう。


「そうだ。出雲、会いに来たのは、何か理由があったからじゃないの?」

「え」

「ただ会いに来たかったってだけでも嬉しいけど、出雲の今の状況だと、理由もないのに態々幸也くんを巻き込んでまで危ないことはしないでしょう?」

「……うん。そうだね」


 さすがによくわかっていると、久しぶりにも関わらず内心を当てる様な母に、黄泉路は敵わないなと困ったように笑いながら口を開く。


「テレビ、見てたなら知ってるかもしれないけど。つい最近戦った子がね」


 掻い摘んで、黄泉路は黒帝院刹那という少女と相対した最後のやりとりを口にする。


「――それがどうしても気になって……昔のことなら、母さんならわかるかなって思って」

「……そう」


 静かに眼を閉じ、話を聞いていた奈江は、ややあって小さく息を吐く。

 それは決意したようでも、観念したようにも見えて、再び目を開いて真っ直ぐに黄泉路を見つめた奈江は答える。


「確かに、知ってるわ」

「! それじゃあ――」

「今更、この話をしなければならないなんて。やっぱり運命なのかしらね」

「母さん……?」


 尋常ならざる言い回しに困惑する黄泉路を他所に、奈江は黄泉路に問いかける。


「出雲、能力に目覚めたのはいつだったかしら」

「……高校1年の時、穂憂の誕生日」

いいえ(・・・)

「?」

「出雲、貴方は」


 静かに、秘めていたものを打ち明ける様に、奈江は言葉を溜めてから、黄泉路自身が忘れ去っていた事実を口に出す。


産まれた時から能力者(・・・・・・・・・・)だった(・・・)

「!?」


 驚き、眼を見開く黄泉路の視線を受け、奈江はその眼差しを居た堪れなさそうに沈黙していた常群(・・)へと向ける。


幸也くんも(・・・・・)覚えてるはずよ(・・・・・・・)

「……え?」


 思いがけない言葉に固まる黄泉路は、思わず隣に座った親友へと目を向ける。


「常、群……?」


 自分の記憶にない幼少期、その隣に常にいた親友は、確かに覚えている可能性はあった。

 だが、これまで一言もそれについて触れてこなかった常群は何も知らないだろうと自己完結していた黄泉路にとって、奈江の一言は衝撃的だった。

 真偽を問う様な黄泉路の眼差しに耐えかねるように、常群はちらりと奈江へと視線を向け、やがて深く息を吐きだしながら首を縦に振って肯定する。


「!」

「……小母さん。良いんすね?」

「ええ。もう、私にはどうしようもないことだから」


 自身を置き去りに飛び交う常群と奈江のやりとりに混乱する黄泉路だったが、身体ごと向き直って真っ直ぐに見つめてくる常群を前に自然と聞きの姿勢になった。


「お前と初めて会ったのは3歳くらいの時だったよな」


 懐かしむような常群の言葉が、忘れ去ってしまった過去の扉を緩やかに押し開く様に黄泉路の耳を叩いた。

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