12-7 夜の姫君の交渉
葉隠の能力によって人目を避けて現れた財閥令嬢という大物に目を白黒させる黄泉路と常群。だが、黄泉路は思いがけず口から出たらしい常群の言葉が気にかかった。
「――っ。唯陽さんがなんでここにいるのかもそうだけど……」
ちらり、と、唯陽を抱きとめたままの姿勢で首だけで常群へと視線を向ければ、常群は一瞬目を逸らしかけ、すぐに誤魔化す必要もないと判断したらしく、やや困り気味な顔で釈明を口にする。
「いやー。実はな。そこのお嬢様、今の俺の支援者なんだわ」
「もう、私と常群さんは協力者、そうではありませんの?」
「あっはっは……」
一歩引いた立場での関りを口にする常群を訂正するように、唯陽は黄泉路に抱き着いたままの姿勢から顔だけを常群の方へと出して唇を尖らせる。
それに困ったように目を逸らす常群というやり取りが、どうにも近しい距離にあるように感じられ、黄泉路はますますわからないという風に首を傾げてしまう。
「どうしてふたりが……?」
「ほら、やみっきー。あいつのケツ持ちしてるのどこか知ってるだろ?」
「あっ……」
「俺が仲介屋に頼んで紹介してもらったときにはアイツもう終夜に囲われてたからさ。協力関係になったらそっちともご縁が出来ちまったってわけさ」
「やみっきーさんに黄泉路さんを探して頂いている中で、常群さんというご友人ともご縁が出来ましたので、それでしたらと直接お会いしましたの」
黄泉路から離れ、ころころと笑う唯陽は依然あった頃よりもだいぶ強かになった。そう感じさせるやり取りに黄泉路はどうしたものかと、今までのやり取りを文字通り一線引いた通路の側から眺めていた葉隠へと目を向ける。
「お久しぶりですね。葉隠さん。お元気そうで」
「ええ。其方も。活躍は聞いてます」
「それで……どうしてふたりがここに? というか、どうしてふたりが一緒にいるんですか?」
黄泉路に問われた葉隠は予想していた――というよりは、当然あるだろう疑問に対して緩く首を振る。
葉隠の視線が、説明しろとばかりに唯陽に向けられ、黄泉路もまた自身の正面に立つ唯陽へと視線が向く。
「私が説明するのが筋でしょうね。上がっても?」
「常群」
「ああ。どーぞお嬢様。男ばっかりの狭苦しい部屋ですが」
「あらあら。私の家が出資してるお店ですのよ?」
「冗談ですよ」
改めて唯陽が部屋の中へと招かれれば、追って葉隠も座敷へと上がる。
後ろ手で襖が閉められるのを確認し、常群と黄泉路が同じ側へと腰を下ろせば、対面の席へとついた唯陽は座敷の隅で気持ちよさそうに眠っている歩深を見て一瞬驚いたものの、すぐに気を取り直して黄泉路へと真っ直ぐ顔を向ける。
「元々、こちらに居る久遠寺さん――黄泉路さんには葉隠さん、というお名前の方が聞き馴染みが良いでしょうか。……久遠寺さんのことは、黄泉路さんとお知り合いになったあの一件以降、実家を通じて交流がございました」
「……葉隠――久遠寺さん、は、たしか実家は」
「葉隠で構いませんよ。ええ。京都で呉服店を営んでいます。ホテルでの宿泊に私の実家の名前を使ったことで、終夜さんに私の実家がバレまして」
「とはいえ、直接的な交流を持てたのは政府の能力者対策が激化して、葉隠さんや黄泉路さんが身を寄せてらっしゃった団体が摘発された、その頃からですわ」
「元々、実家とは折り合いが悪くてあまり寄り付いていなかったのですが、寄る辺がなくなってしまったので事が沈静化するまではおとなしくしていようと思った矢先でしたね」
「それから、私と久遠寺さんとで少しずつお話をさせていただいて、お互いに利があるという点を共有出来ましたので、こうして時々お力を貸していただいているのです」
「終夜のお嬢様ですから、どこに目があるかわかりませんので、ええ。私が能力でひっそりと移動を手伝ったりする。その代わりに私としても活動する為のあれこれを手助けしてもらっているという、協力関係ですね」
「なるほど……」
唯陽の説明に合いの手を入れるように補足してくれる葉隠により、黄泉路はふたりの関係性を理解する。
同時に、葉隠の能力は確かにお忍びで動き回ることを好む唯陽にはうってつけだろうと納得するが、すぐ隣からにじみ出た不機嫌そうな気配にちらりと視線を常群へと向けた。
「常群?」
「……そんじゃ。次はどうしてお嬢様がここに、今日この場所に来たか教えてもらっても?」
常群の態度は、言外に自分がどういう気持ちでこの対面を望んでいたかわかっているだろう、という不満を押し固めたようなもの。
「ええ。その点につきましては誠に申し訳なく。本来でしたら常群さんに仲介して頂いて改めて黄泉路さんにご挨拶をと思っていたのですが、そうもいかない事情が差し迫ってしまっておりまして」
「事情?」
そもそも、どうして唯陽が自身を探していたのかもわからないが、常群との間になんらかの協定があったらしいそれを無視してまでこの場にやってきたという事情に黄泉路が首を傾げれば、唯陽は常群へと確認するような視線を向ける。
「……はぁ。わかったよ。ったく、出雲、お前も乗せられてるんじゃねぇよ。仕方ないから今はお嬢様の話を聞くとしようか」
「常群、ごめんね」
「いいよ、元から俺だけで独占できるわけじゃねぇんだし。話とかなきゃならないこともまだあるが、別に差し迫ったもんじゃねぇしな」
「ありがと」
常群は渋々、仕方がないと首を振れば、唯陽は少しばかり申し訳なさそうな視線を常群へと向けたのち、すっと姿勢を正して黄泉路へと向き直る。
「ことの起こりは、私の許婚との政略結婚の話です。これについては、黄泉路さんは多少なりご存じかと思いますが……」
「うん。あの時の、だよね?」
「はい……その節は随分と早とちりをしてしまいまして。お恥ずかしい限りですが、その、私の婚約者候補のことについてはどこまでご存じで?」
「ううん。それについてはほとんど何も。その相手がどうしたの?」
「お相手の名前は月浦瑛士さん。月浦、という名はさすがにご存じでしょうか」
「月浦重工?」
「はい、その月浦重工――もとは月浦兵器工廠として戦前に広いシェアを誇っていた重工業系企業ですが、そこのご子息と私の間に進められていた縁談、それを、私は一度白紙とまではいかずとも、無期限の中断に押し下げましたの」
胸元で手を合わせ、細く繊細なチェーンに繋がれたロケットを手で押さえるように握る唯陽の表情は儚げで、大切な思い出を抱く様な仕草に黄泉路が言葉を発せないでいれば、唯陽は静かな一呼吸を置いた後に手を放して再び口を開く。
「そうして、一度は凍結されたお話だったのですが、つい最近その話が水面下で進められているという情報を得ました」
「それは――司さんの?」
「いえ。お父様は関与しておりません。今は東都テロの影響や政府の掲げる能力者融和政策への参画や国内外の業界重鎮や要人への対応に注力しておりますもの。このような些末事にお父様が手間をかける余裕はございませんわ。……だから、でしょうね。進めているのは主に私の家の分家筋。月浦からのアプローチがあったことまでは掴んでいますので、おそらくは瑛士さんが私と結ばれた後の益を提示されたのでしょう」
「唯陽さんがそこまで把握してるなら、司さんに相談は……?」
「当然、お父様もこの件については把握はしてらっしゃるでしょう。ですが、これはあくまで家の中のこと。月浦が関与しているとはいえ、大本は私の婚姻にかかわること。であれば、我を通すのならばこれくらいの難事は自身の手腕で切り抜けろ、父はそうお考えだと思います」
「随分とスパルタだね。以前話した時の印象とは違う気がするけども」
「あの後、少しばかり教育方針が変わりましたのよ。私もいつまでも護られるだけの籠の鳥でいるわけにはまいりませんもの」
今では、少しばかりの事業も任せていただいているのですよ、と、ころころと笑う唯陽に、黄泉路は目の前の少女が逞しくなったという印象が正しかったことを実感する。
「私と婚約を望む月浦、その経歴は先ほどお話ししたかと思いますが、かの企業の本来は兵器の製造、販売に特化した軍事産業でした。けれど、戦後になるとそうした産業を商売のタネにし続けることは難しく、技術を転用できる重工業へと方針を変えた月浦は今では国内有数の大企業となり、世界各地に工場を持つまでになっています。ですが、本来の伝手が消えたわけではなく、むしろ、世間の裏で地下に深く、根を張るように世界各国の軍事産業に手を伸ばし、多大な利益を上げている一大部署として残っているのです。」
「月浦兵器工廠がいまだに現役だというのは、ええ、まぁ、私たちの間ではそれなりに有名な話です。迎坂さんもそのあたりは聞き覚えがあるのでは?」
「……詳しくは知りませんでしたけど、そんな話は朧気には」
「まぁ、主な産業は戦車等の大型兵器ですからね」
国内でそのようなものと真正面からぶつかることはまずないので、知らなくても無理はないとフォローする葉隠の隣で、唯陽は僅かに迷う様に視線を下げ、それでもと黄泉路に言葉を向ける。
「その、月浦が開発した新型兵器。それを抑える依頼を、黄泉路さんやそのお仲間にお願いしたいのです」
「――それは」
「ええ。これだけでは情報が不足していますよね。ご説明いたしますわ」
こほん、と。小さく咳払いし、順序を組み立てる様に唯陽は語りだす。
「終夜と月浦、二つの大きなコミュテニィが婚姻によって結びつくメリットは数知れませんが、その中でも終夜にとってメリットがあったのは、月浦の持つ巨大な軍需市場への太いパイプ。そして、月浦にとってのメリットは終夜の幅広い展開力と莫大な財力。互いの利益の為は政略結婚の常、ですが、黄泉路さん、私たち終夜が軍事産業への参入を目論むその目玉は何か、お分かりになりますか?」
「――もしかして、能力?」
「はい。終夜は独自開発した覚醒器、というのでしたっけ。能力者を人為的に生み出す技術によって要人警護の際のSPの質や、対能力者用に開発された反能力素材――能力拘束具による能力犯罪者収容をメインに展開する、その海外展開の為の足掛かりといて月浦のコネを欲していました。しかし、月浦が開発を推し進めているのは、彼らの既存技術の延長、相手が能力者であろうと関係がないだけの力を持った兵器群なのです」
「つまり、結びついても互いの目的としている技術はかみ合わない?」
「はい。私たちがあくまで、能力者という人材を肯定的に、これからの社会で当然そうなるだろうという前提を踏まえて社会の軋轢を考慮した路線であるのに対し、月浦はあくまで戦争、戦時にこそ能力者という兵器を圧倒できる武力を売りつけようとしている。――まぁ、その辺りは家同士、会社同士の利害の話ですので、ここでは一旦、そうした前提があるとだけご理解くださいまし」
「? うん、わかった」
ここからが本題なのですが、と、前置きした唯陽は黄泉路に今回訪れた目的を口にする。
「これから1月後に開催される、次世代防衛設備展示会。そこで行われる月浦重工のデモンストレーションに出ていただきたいのです」
「次世代、防衛設備……?」
「はい。いわば、次世代兵器の展覧会ですわ。終夜や月浦は無論のこと、東都テロを受けて世界各国からも注目の集まる、今後の日本の防衛を担う次世代防衛兵器、および、諸外国に販売予定の新型兵装。そうしたものを衆目や関係者にプレゼンする場に、月浦は極秘に開発されていた対能力者兵器を持ち込むという話を掴みましたの」
「それで、僕が発表の場に僕が出る意味って?」
「……現在の月浦と終夜のパワーバランスは、経済力と影響力の観点から終夜が優勢であることに間違いはありませんが、それも内部に内通者がいる状況では安泰とは言えません。もし仮に、月浦の兵器が私たちの掲げる能力者産業に対して優位性を持つようなことがあれば、それを理由に分家たちは嬉々として私と瑛士さんの婚姻を推し進めようとするでしょう。黄泉路さんは今、東都の英雄という肩書を背負わされています。その黄泉路さんが月浦の新造兵器を衆目環境で打ち倒すことができたなら、能力者というのはこれほどの可能性を持つ存在なのだと示す、絶好の機会となり、私もそれを理由に分家を黙らせ、月浦との交渉を再び有利に運ぶことができるのです」
ですからどうか、お力添えを頂けないでしょうか。
そう締めくくった唯陽に対し、黄泉路は難しい顔で黙り込んでしまう。
これはただの人助け――以前唯陽をホテルから連れ出した時とはわけが違う。
加えて、以前の時であれば人助けであることも加えて元々目的としていた三肢鴉の作戦の一環でもあった為、唯陽を助けることそのものが自分たちの利にもなっていた。
判断に困っている黄泉路に対し、黙って聞いていた常群が口を挟む。
「お嬢様さ。いくら出雲がお人好しだからっつって、利益提示もせず協力しろはさすがにねぇんじゃねぇ?」
「……そうですわね、私、黄泉路さんとこうしてまた会えたことが嬉しくて、少しばかり焦っていたようですわ」
「ふぅん」
照れるように髪をいじる唯陽の仕草を半目で見据える常群に、黄泉路はこのふたりの関係性はただの雇用関係とするには近いよなぁという感想が浮かび、しかしすぐに、唯陽が改めて交渉の為に条件提示する様子を見せたことですぐに意識を唯陽の方へと戻す。
「改めて、私から黄泉路さんへ、今回の件に助力頂いた場合のメリットをご提示しますわ。まず、無事に月浦の新兵器を打倒した場合、私の自由に動かせる金額という但し書きこそつきますが、終夜財閥令嬢として、現在再起へ向かっている三肢鴉に出資いたします」
「っ!?」
三肢鴉の元メンバーの連絡網は密かに行われ、東都テロの傷跡に対処する政府や対策局にも見つからぬように極めて静かに行われてきたものだ。
その情報をどこで、と考え、自然と視線を向けられた葉隠は肩をすくめて首を横へと振る。
「ふふっ。私、これでも終夜の情報網の一端を任されておりますもの。蛇の道は蛇という様に、政府に組していない能力者との伝手もございますのよ?」
「それは……心強いね」
「スポンサー……パトロンでも構いませんが、それに加えて、私個人として黄泉路さんを応援し、私の持つ情報網も使って黄泉路さんが求める情報を収集する、という約束も付け加えさせていただきます」
「!」
三肢鴉への資金提供、それだけでも十分すぎるほどに魅力的な提案だったが、そこに加えて黄泉路が求めているものをピンポイントで提示されたことで、黄泉路は思わず小さく息を詰める。
その様子に、唯陽は内心で渾身の手ごたえを感じていたものの、涼しい顔を取り繕ったまま黄泉路へと問いかける。
「どういたしますか? この場で判断が難しいのでしたら、後日、改めて常群さん経由で回答を頂くとしてもかまいませんが」
「……わかった。一旦持ち帰って仲間と相談させてほしい」
「ええ。ですが回答は出来れば今週中に。こちらも調整がございますし、万が一黄泉路さんがご協力いただけない場合の二の矢をつがえなければなりませんもの」
本命は黄泉路であると強調しつつ、ころころと笑う唯陽に、黄泉路は手強いなぁという感想を抱きつつ、席を立った唯陽に合わせて立ち上がる。
「それでは、長々とお邪魔させていただいて申し訳ありませんし、私はそろそろお暇させて頂きますね」
「唯陽さん」
「黄泉路さん。また、お会いできるのを楽しみにしておりますわ」
「どうして僕だったの?」
東都の英雄という肩書が必要だという言は確かに説得力はあるものの、常群や、それ以前に葉隠と接触した時期から考えると、英雄云々は後付けにしか思えない。そう問いかける黄泉路に、唯陽は照れるように仄かに顔を赤らめ、困ったように顔を逸らす。
「――だからです」
「え……?」
「私が、黄泉路さんをお慕いしているから、ですわ」
「!?」
「もう、女性にこのような恥をかかせないでくださいまし」
「ご、ごめん!?」
見惚れるような――異国人の血筋が持つ日本人にはない翡翠の様な瞳を細め、赤らんだ顔に手を当てる唯陽の仕草から放たれた衝撃的な言葉に思わず黄泉路が狼狽していると、
「終夜さん。おふざけもその辺りに。ええ。本心であることは確かなのでしょうが」
「あら。それほどわかりやすかったでしょうか?」
「迎坂さんのように純情な殿方には毒でしょうね。ええ。常群さんはご存じのようでしたが」
「え、ええ!?」
「ふ、はは。いいじゃん出雲、逆玉の輿だぜ?」
「常群お前さぁ!?」
畳みかけるような葉隠と唯陽のやり取りと、巻き込まれた常群の笑いをかみ殺したような顔。
黄泉路の音を上げるような悲鳴じみた声に堪え切れなくなった笑い声を漏らす常群とのやりとりを見ていた唯陽は、すすっと襖の方へと向かい、葉隠と共に通路へと出て行ってしまう。
「それでは。また」
「あっ、はい。また改めて連絡します」
「ええ。いつか、ふたりきりでお話もしたいですわね」
「え、えーっと……」
「そちらもすぐにとは申しませんわ。ただ、お気持ちは伝えたとおりですし、私はいつでも歓迎していると心に留めてくださいまし」
「は、はい」
最後まで攻勢を弱めることなく、葉隠の能力によってふっと景色に滲んで姿の見えなくなった唯陽たちを見送った黄泉路は疲れたように襖を閉めて肩を落とす。
「嵐みたいだった……」
「さすがの英雄様でも、東都を壊滅させた人型砂嵐は対処できても女の相手は難しいか?」
「やめてよ常群……」
「はっはっは。悪い悪い。でもまぁ、良い時間だし、そっちも整理したいだろうから今日はここらでお開きにしとくか」
「うん。そうしてくれると助かるよ」
「何はともあれ、また何もなくても連絡くれよ。その方が俺も嬉しいしさ」
「わかった。とりあえず、唯陽さんのことと、刹那ちゃんのことは帰ったら仲間と相談してみる。――歩深ちゃん。起きて。帰るよ」
未だ寝息を立てていた歩深を揺り起こせば、ぼんやりとした頭を働かせる様に瞼をこすりながら体を起こした歩深がボーッとした声で黄泉路に応じる。
「お話、終わった?」
「うん。今から帰るところだけど、大丈夫そう?」
「大丈夫、歩深はできる子なので」
「それじゃあ。常群、また」
「おう。またな」
会計を済ませ、表へと出た3人を冬の冷たい風が撫でる。
空を見上げればすっかりと暗く、雲ひとつなく澄んだ闇にいくつもの星が瞬いているのが見えた。
白い息を吐きながら手を振る黄泉路に応え、黄泉路と歩深はふっとその場から転移で姿を消す。
その名残、黄泉路と歩深の吐き出した小さな白い息が風に攫われるのを見届けた常群もまた、夜の街へと歩き出し、その姿はやがて人の往来の中へと紛れて消えていくのだった。