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7-26 支部長会合5

 部屋中の注目が集まる中、歳相応の少年ならば一声発するだけでも緊張のあまり震えてしまう様な重圧を感じていないが如く、朝軒廻という少年は口を開く。


「今作戦の僕達の参加を認めてください」


 何百、何千とシミュレートしてきたかの如き流暢さで紡ぎ出された言葉が大気を伝い、各々の耳に意味を届けるにつれて、随伴員はおろか支部長達すらも困惑や驚きと言った具合に表情を変化させてゆく。

 中でも一番驚いていたのは何を隠そう、廻の保護者でもあり、廻が暫定で三肢鴉に本格的に所属した場合に配属になるであろう夜鷹、その支部長代理として出席している黄泉路であった。


「ちょっ、廻君!?」

「ごめんなさい、黄泉兄さん。でも必要なこと(・・・・・)なんです」


 驚いて振り返った黄泉路に廻は困ったような表情で、しかし譲るつもりはないという意志の篭った瞳を向けて告げると、その視線をリーダーの方へと向ける。


「……理由を聞こう」


 室内に溢れていた動揺がその一言だけで細波が引くように収まる。

 経緯を見守る流れが出来上がるのを待ってから、廻は改めて口を開く。


この僕が(・・・・)必要だと考えているからです」


 朝軒廻――【未来を(エンハンス)視る者(・ヴィジョン)】の能力者(スキルホルダー)

 この場において廻の発言、その意図を正しく理解しているのは、直接関わりのあった黄泉路をはじめとする夜鷹の面々、そして、


「なるほどな」


 黄泉路に朝軒廻にまつわる依頼を持ち込んだリーダーだけだ。

 サングラス越しの視線と、廻の視線が直線でぶつかる。


「ちょっと待ってください」


 半ば納得とも言える雰囲気を醸し出していたリーダーの沈黙を破る様に異議を申し立てたのは、会合が始まってすぐに御心紗希の功績について尋ねた女性支部長であった。

 外見から見える年齢は30代の半ばほど。控えめな化粧が施された顔は普段ならば人のよさそうな笑みでも浮かべる姿が至極似合うだろうが、現在は眉を寄せて険しい顔を作っている事もあって幾分か厳しい印象を与えていた。


「何だ、掛園紫(かけぞのしの)

「今作戦の危険度はリーダーが先ほどご自身で説明したでしょう。私はその子が参加するのは反対です」

「それは僕が子供だからですか?」

「勿論です。君、まだ小学生くらいでしょう? そんな子供を危険に晒すのは反対です」


 掛園の言い分はおおよそ正論である。

 如何に武力行使も辞さない反政府勢力(レジスタンス)と言えど、元はと言えば能力者という属性(・・・・・・・・)に対する差別や非人道的扱いへのカウンターである。

 そうした根底理念にあるのは誰しも平等で安全な当たり前の生活(・・・・・・・)への願望であり、子供を戦場になる可能性が高い場所に送り込むというのはそれらの理念と根本的に反していた。

 居並ぶ構成員の中にも掛園の言に理解を示す者が多いのも、三肢鴉という組織が身内に対して健全な感情で動いている事が見て取れる。

 平時であれば嬉しい思いやり、だが、この場において退く訳にはいかない廻にとってはありがた迷惑でしかない。


「夜鷹の支部長代理、貴方はどうお考えですか?」

「僕も、廻君が前線に出るというのならば反対です」


 反論をしようにも、最大の味方足りえる夜鷹の面々をして廻や姫更が前線に出る事に反対である時点でこの場における味方は居ないと言っていい。


「ですが、バックアップとしての参加であれば彼らほどに優秀な仲間を、僕は知りません」


 だからこそ、黄泉路の発した廻寄りの中立的な発言に今まで黙って聞いていた姫更は驚いたように目を瞠る。


「では朝軒廻。今一度聞こう。どのような形で作戦に従事したいと考えている」

「もちろん、至近距離での御心先生の警護、有事の際の御心先生の避難を」


 どれだけの重役であるかを気にする素振りなどおくびにも出さずに述べた廻の発言に、掛園は今度こそ席を立つ。


「やはり危険です! 万が一、ええ、無論そこまで到達させる気などありませんが、それでも万が一です。敵勢力が御心博士の喉元にまで迫った場合に対応しなければならない人員が子供だけなど――」

「いいじゃねぇか」

「なっ――!?」


 入り口の方から、自らの言葉を遮る様に投げかけられた言葉に掛園はバッと其方へと顔を向け、室内の面々も釣られて其方へと視線を向けた。

 首の横で一つに纏めて前へと流していた柔らかな色合いの茶髪がその動作に合わせて後ろへと流れるのも気にせずに、掛園は今しがた入室したらしい女性へと咎める様な声を投げかける。


「何のつもりです、嬉々月さん(・・・・・)


 開ききった扉に肩を預け、今しがた起きましたと言わんばかりに乱れた金髪をガシガシと掻いた勇未子は面倒くさそうに欠伸をする。

 それが過敏になった掛園の神経を逆なでしている自覚は果たしてあるのだろうか。傍から見ていても気分のいいものではない両者の間の空気を緩和させるように、勇未子の上司とも言える葛木が円卓の席から口を挟む。


「まぁまぁ、掛園くん。気持ちは分かるけれど、正しいと思う主張ならばこそ、落ち着いて主張しなければ伝わらないものだよ。……まずは、勇未子の主張を聞いてみませんか?」

「……わかりました」


 さすがに熱が入りすぎていた自覚はあるのか、掛園は少しばかり乱れた髪を整えながら席に座り直した。

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