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7-25 支部長会合4

 ◆◇◆


「一度政府の招聘を拒んだことで御心紗希は目を付けられている。当然今回研究に成果が上がった事は政府も掴んでいる。これはこちらの諜報部が政府内部に探りを入れて動きを確認している」


 リーダーの声が重苦しく響けば、浮足立った支部長や随伴員も直ぐに耳を傾ける姿勢へと戻る。

 その切り替えの早さにこそ三肢鴉においてリーダーが持つカリスマ性が証明されていた。

 黄泉路もまた、念話から意識を会議へと戻して一言一句聞き逃すまいと耳を澄ませば、静まり返った円卓にリーダーの声がするりと入り込んでくる。


「また、こちらに政府の動きが抜けてきている以上、孤独同盟(アライアンス)をはじめとした大小無数の――今まで闇に潜んでいた能力者に縁ある組織が動くだろう」


 それはかつてない動乱、決して衆目に晒される事の無かった者たちによる戦争の始まりを意味していた。


「厳しい戦いになるだろう。だが、これまで三肢鴉を支えてきた諸君ならば達成しうるものと私は確信している」


 リーダーが語り終えると、スタッフによって各々の席に今回の作戦に必要な資料が配られてゆく。

 黄泉路も前に置かれた資料を手に取り目を通し始めれば、紗希が拠点を置くのは北陸の山間、それこそ一番近い人里から車で1、2時間はあるだろうという山奥である事が分かる。

 人気はある様にはとても見えず、添付された空撮でもそう言われなければ気づけないほどに鬱蒼と茂る周囲の森と同化した極小規模の民家の集合地――それが『戌成村(いぬなりむら)』であった。

 正式には無人島とされている孤島の地下で思う事ではないだろうが、黄泉路は本当にこんな場所に人が住んでいられるのだろうかと訝しんでしまう。


「ほぉー……こりゃまた見事に隠されてまんなぁ」

「資料ではこの村は大戦時覚醒者が寄り合って暮らしてるみたいですね」


 隣席同士で声を潜める様に交わされる言葉が耳に入り、気になった単語があったものの、この場に気安く問いかけられる相手が居ない事から黄泉路はちらりと背後に控えた標を見やる。


「(標ちゃん)」

『どーしましたぁー?』

「(その、大戦時覚醒者、っていうのは?)」

『あー。よみちんは知らないんでしたか』


 どうやらそれは能力者界隈においてはそれなりに知られた話であるらしく、標は隠し立てすることなく教えてくれた。


『基本的には読んで字のごとく、です。ほら、私たちが生まれるずっと前に、世界大戦なんて大ごとがあったでしょう?』

「(あ、もしかして……)」

『ですです。私たち能力者が今まで通説として覚醒する条件としてきた命の危機、これ、所謂大戦時覚醒者の受け売りがほとんど影響してるんですよ。調べた限りでもあの頃は今よりも一般的に死の距離が近かったですしぃ』

「(死の距離が近い、か……)」

『元特攻隊の人なんかもなんやかんやで帰ってきた人結構いたみたいですよ。死んだって言われてる人の中にも、実は特攻じゃ死ななかったけど向こうに捕まって特異性(スキル)を解剖されるために獄中死したなんていう話もありますし』

「(それは……)」


 想像よりも数段上の悲惨さに、黄泉路は思わず唾を呑み資料へと再び目を落とした。

 人口にして30人に満たず、御心紗希を除けば最年少が76歳という時点でこの村が所謂限界集落である事が伺える。

 能力者である事を隠すために大戦時覚醒者達が身を寄せ合って作られた隠れ里――そう評すべき場所で、御心紗希は何を思ったのだろうか。


「皆、資料には目を通せたと思う。これより具体的な計画の説明と各々の役割を発表していく」


 折を見て言葉を発したリーダーの声が再び室内を伝播すれば、それまで細々と交わされていた声が波を引くように消える。

 静寂が戻り、今後の詳細についてリーダーが語りだせば、各々が背後に控えた随伴員にメモを取らせ、時に質問し、時に役割の入れ替えを提案したりと、先ほどまでとは別種の一体感ある喧騒に包まれる。

 この会議で置いてけぼりになる訳にはいかないと神経を集中させる黄泉路が精神的な理由による疲れを感じ始め、会議が3時間の長丁場の末に決着を迎える方向へと落ち着いて行く。


「では、今話し合った通り、翌日からの戌成村周辺の警邏を“葉隠(はがくれ)”に」

「おうよ!」

「以降、“掛園(かけぞの)”“福好(ふくよし)”“夜鷹”“小里井(こざとい)”でローテーションを組み、それ以外の支部は後方支援と諜報対策、物資調達に動いてもらう。異論はあるか?」


 沈黙が下りる。

 皆一様に納得していると示す無言をサングラス越しに見渡したリーダーが最終的な決定を下す、その一言を告げようと口を開こうとした時だった。


「――ひとつ、提案があります」


 その場にそぐわない少年の言葉が響く。

 他の支部の随伴員達の中から聞こえてきた声に、リーダーは開きかけた口を一度閉じ、改めて其方へとしっかりと視線を向けて問いを発した。


朝軒廻(・・・)か。何だ?」


 黄泉路の背後、夜鷹の面々に並んで立っていた朝軒廻が一歩前へ出れば、先ほどまでとはまた違った静寂が広がった。

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