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REVIVE! ~迎坂黄泉路の超能力戦線~  作者: 門間円
第7章

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7-18 兎と子猫と破城槌5

 獅子奮迅とも言える勇未子の猛攻に対し、その体躯からは想像もできない程に機敏に――より正確に言うならば的確にすべての行動を前倒しにする事によって――対処する廻の攻防が4合、5合と続いてゆけば、目を奪われていた観戦席も安定した立ち回りに安堵が広がっていた。


「……うちの勇未子が大人げなくて申し訳ない」

『いえいえー。一応合意の上での対戦ってことですしぃー。そこんとこ、代打任せたよみちんどうなんですぅ?』


 本部側の審判である葛城が自身の部下である勇未子が2対1とはいえ子供相手に傍目から見て恐らく本気で襲い掛かっている姿に謝罪を口にすれば、標は楽しそうに手をパタパタとさせた後に黄泉路へと水を向ける。

 本来であればあの場に立っていたはずの黄泉路は、普段の態度からすれば幾許か淡泊ともいえる落ち着いた声音で標に応える。


「廻君から“大丈夫”だとは聞いてましたけど、実際に見るのは初めてなので驚いてます……」

『わかり味が深い回答ありがとうございましたー。では続いてミケちゃん。この試合どう見ます?』

「現状、優勢なのは夜鷹だと思う。勇未子は、油断は抜けたけど、手の内を晒しすぎてる」

『なーるほどー。ミケちゃん的にはめぐっち&姫ちゃんはまだ何か手を隠してるって思うわけですねー』

「むしろ、まだ手を晒してない可能性(・・・・・・・・・・)も考慮すべき」

『え、それはどーゆー……?』

「言ったら、フェアじゃない」

『えー。気ーにーなーるー!』


 淡々とした短い言葉ながら、夜鷹側の審判として引っ張り出された美花の言葉は他の支部長達の耳によく残る。

 東日本における戦闘特化支部、その一翼として名の売れた美花の発言故の説得力でもあり、当初は期待の新星と本部の強豪の模擬戦を期待していた面々も、もはやその意識は強化ガラス越しの年若いふたりがどう戦うのかという期待感に切り替わっていた。


『そーいえば。よみちん、よくOK出したよねー。めぐっちと姫ちゃん関係では割と過保護な印象あったけどー』

「ああ……うん。それはね」


 標に問われ、黄泉路はちらりと昨晩の――廻によって喧嘩を仲裁された後の事を思い返しながらゆるやかに口を開いた。




 ◆◇◆


 嬉々月勇未子との初遭遇を終えた直後。

 あれよあれよと言う間に話を纏められてしまい、納得いかないという表情を引きずったまま大浴場までやってきた黄泉路であったが、苛立ちの元凶から引き離されて一旦落ち着いてしまえば思考に浮かぶのは柄にもない事をしたという後悔だけであった。


「ねぇ、廻君」

「どうしました?」

「あいつ……嬉々月、さんは。どうしてあんなに僕に突っかかってきたのか、わかる?」


 肩を並べ広い湯舟にふたりきり。湯気に溶ける様な問いが響けば、廻は小さく潜めた様な声で笑う。


「僕、何かおかしなこと言ったかな……?」

「ああいえ、違うんです。ただ」

「ただ?」

「兄さんと嬉々月さん、相性悪いなぁって……」


 くすくすと、まるでいつもそうで(・・・・・・)あるかのように(・・・・・・・)目を細める廻に、黄泉路は口を尖らせる。


「それもいつか(・・・)の話?」

「そんな所です」

「はぁ……」


 黄泉路が湯舟に身を沈めれば、ため息が気泡へと変わってぶくぶくと音を立てる。

 普段の黄泉路らしからぬ態度を横目でみた廻は緩やかに、言葉を選ぶように口を開いた。


「まだ納得してないのは承知の上で、僕の説得、聞く気はあります?」

「……」

「――明日の模擬戦。僕にやらせてもらえませんか?」

「っ!?」


 ざばっ。と、水音が跳ねる。それは黄泉路が驚きのあまり身を起こした事で、口元まで浸かっていた体を肩まで引き上げたことによる驚きの音でもあった。

 言葉を飲み込みかねる黄泉路に、廻は落ち着く様に一呼吸おいてから言葉を続ける。


「黄泉兄さんは嬉々月さんと戦いたくない。理由がない。それは僕も同意です」

「じゃあ何で」

「僕が同意するのは、兄さんと嬉々月さんを今ぶつけたくない。という所です」


 どこか遠くを見据える様な廻の視線の先を、黄泉路は追う事が出来ない。

 故に、どういった切り口で胸の内に沸き上がる問いを形にすべきかと迷ううちに、廻の声が浴室に響く。


「兄さんと嬉々月さんは相性が悪い。それはもう、最悪に近いレベルです」

「それは……」

「性格相性はどちらかといえばオマケ、表面的なものなんでしょう。兄さんと嬉々月さんは、能力が徹底的にかみ合わない(・・・・・・・・・・)


 先ほども聞いた、そう言いかけた黄泉路の言葉は、続く廻の台詞によって別の音へと変わる。


「……それが、僕の代わりに廻君が戦うって言いだした理由?」


 廻の言葉を整理するように、再び首辺りまで湯に身体を沈めた黄泉路は思考を巡らせる。

 確かに、能力はその当人が本当に求めたものが発現しやすいという話は聞いた覚えがあり、廻の言う、性格相性が悪いというのがそこに繋がるのだとすれば無視できる話ではない。


「だからと言って、廻君だって戦う必要はないし、向こうは僕が出ることが前提だと思ってるよ?」

「ええ。ですからあの交渉の時点で仕込みをしておきました」

「仕込み?」


 廻がにやりと、外見相応の悪戯っぽい笑みを浮かべて告げた交渉の際の文言の穴を突く作戦には、さすがの黄泉路も閉口してしまう。

 それは果たしてアリなのかと小さく唸る黄泉路を他所に、廻はリラックスした様子で事もなげに告げる。


「まぁまぁ。後の事は僕に任せてください」

「……不安だよ」


 黄泉路の口から洩れたため息は廻が戦うということその物へのものか。はたまた詐欺師めいた弁舌に対してか。

 どちらにせよ心配性な兄貴分に対して、廻は薄く、楽し気に笑うのだった。

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