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0-1 終焉へのプロローグ2


「次のニュースです。御代台(みしろだい)の高層マンションで起きた火災についての続報です。捜査当初は火の不始末と見られてきた一昨日未明の火災ですが、能力者(ホルダー)による放火の可能性が高いと見て捜査を進めていく方針で――」


 街頭に映るディスプレイから流れてくる女性のアナウンサーが読み上げるニュースが風に乗って耳を抜ける。

 その内容にちらりと物騒だなぁという感慨が頭をもたげるものの、隣で今夜のアニメの話を熱烈に繰り広げる友人へと意識を戻した少年の頭の中からは、ニュースの事など泡沫の様に消え去ってしまう。

 一学期も終わりに近づき、高校に入って初めての期末試験を終えたばかりの軽い足取りで歩く、極々普通の学生の姿だった。

 初夏から本格的な夏へと移り変わる季節の眩いばかりの日差しをほんの少し鬱陶しいと感じる傍ら、少年――道敷(みちしき)出雲(いずも)の表情は明るかった。

 少年の域を出ないやや幼い顔立ち、その頬を生暖かい風が撫で、それに併せて黒髪が揺れる。

 手にした学生鞄の重さに思わず放り出してしまおうかなどと考え、結局拾わねばならないという現実に辟易してあきらめるくらいには、出雲はどこにでも居る普通の男子高校生だった。


「でさー、今期はマジ豊作なんだって、ほら、去年やってた“罪色の檻”ってあったじゃん。今日の夜はあれの三期がはじまるんだよー。作画も気合入ってるしなんと言っても監督が――」

「ごめん、常群(つねむら)、今日はここで」

「んだよー出雲、ノリ悪ぃなー」


 熱く語る常群と呼ばれた少年を、丁度繁華街の入り口に差し掛かるあたりで立ち止まった出雲が遮れば、常群は不愉快だと全身で主張するようにおどけて見せた。

 出雲は手馴れた様子でそんな常群を無視して顔の前で両手を合わせて苦笑する事で応える。


「今日は妹の誕生日だから、ちょっと買い物してかないと」

「……あー。(うき)ちゃんのか。お前妹の事大好きだもんなー。このシスコンロリコンペド野郎。結局俺との関係なんてお遊びだったのねー」

「お遊びも何も、普通の友達じゃないか。シスコンは甘んじて受けるけど後二つは常群に言われたくないよ」

「ちぇー。良いですよー。どうせ俺の恋愛対象は二次元の8歳以上16歳以下ですよーだ」


 不貞腐れた風に大仰に肩をすくめて見せる常群に、出雲は小さく息を吐いてやれやれと首を振った。


「わかったよ、また今度しっかり付き合ってあげるから……ええっと、その、“罪深き叔父”っての」

「――ちげぇよ!!なんだよその昼ドラみてぇなドロドロした中年男性が小学校低学年女子を手篭めにしてそれを目撃した母親が叔父を殺害してみたいなタイトルはー!!」

「誰もそこまで具体的な事は言ってないんだけど……」


 自らの妄想ではぁはぁと息を荒げて、少し表情が妖しくなりかけていた友人の肩をたたき、出雲は困ったように笑う。

 いつも通り、何も変わることのない平穏な一幕。

 誰しもが信じて疑わない日常。……それは、出雲にとっても同じであった。

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