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6-21 アナザースクールライフ2

※胸糞回。読むのつらいよって人の為にあとがきのほうで箇条書きになってます。

 トイレの個室、その扉を一枚隔てた先から響いてきた怒声に、小室は一瞬頭が真っ白になった。


「出てこいっつってんだよ豚ァ! シカトこいてんじゃねぇぞコラァ!!」

「っ、……」


 再び蹴り付けられた扉がぎしりと音を立て、小さく悲鳴を飲み込んだ小室はようやく我に帰って扉の外へと耳を澄ます。

 聞こえてくるのは複数の息遣い。そして、小声にしているつもりなのだろうが、聞き耳を立てれば余裕で全てを拾えてしまうせせら笑いにも似た談笑の声だった。


「ドアぶっ壊されて弁償もしてぇってのかおい」

「い、今出る。出るから!!」

「さっさとしろっつってんだよクソ豚!!」


 普通に考えて、ドアを蹴破った側が弁償すべきであるし、法的に則ってもまず間違いなく扉の外側の人間に過失があるのは明白だ。

 だが、小室からすれば、扉の向こう側の連中ならば自分に弁償させることくらいは平気でやるだろうという確信があった。

 本音を言うならばこの場から消えてしまいたい。だが、唯一の逃げ道である扉の外には既に逃げ場はなく、後は相手の言うとおり、扉を壊されて引きずり出されるか、自分から出て行って少しでも機嫌を損ねないように振舞うかのどちらかであった。

 心が拒否しているからだろう。ただ鍵を開けるというそれだけの行動に、否が応でも時間が掛かってしまう。

 もたもたと鍵を開け、そろりと内開きの扉を引いて外を窺おうと小室が顔を近づけ――


 ガンッ。


「ぐびゃっ!?」


 まるでタイミングをあわせていたかのように扉に突き刺さった三度目の蹴り。それが鍵という支えを失った扉を勢い良く押し開き、外を覗こうと顔を近づけていた小室の鼻先に直撃した。

 たまらず蛙の潰れた様な悲鳴を上げて後ろへと退けば、小室の顔でバウンドして一度は戻りかけた扉が機構通りに緩やかに開いて、小室と外を隔てる仕切りが消える。


「あっはっはっはっはっ、聞いたか今の。ぐぎゃだってよ。うけるわー」

「ははははは、マジで豚みてぇな声だったな。鼻血出てんじゃん。だーいじょーぶー? はははははっ」

「おいおい流血沙汰はまずいんじゃねーのぉー。あ、でも小室ならいっかー」

「「「ははははは!」」」


 複数の嘲笑がトイレ内に反響する。

 痛みと熱に、とにかく抑えなければと反射的に手で鼻を抑えようと手を伸ばし、自身の手に付着した赤く粘る液体が血であることまで理解した小室へと向けられた声に、小室はその場から動けなくなってしまう。


「なーに固まってんだよ。友達(・・)が会いにきてやったのにつれねーなぁ?」

「ど、どうしてここに……だって、ここ、駅、離れて……」


 どうにか搾り出した声は震え、怪我の所為で赤い顔も青ざめさせた小室が問えば、明らかに真っ当な学生ではない金髪の青年が下唇に空いたピアスを揺らして嗤いながら答える。


「ちょっとヤンチャしたらゲーセン出禁になっちゃってさー」

「うぜぇオヤジボコったくらいでサツ呼ぶとかマジ空気よめねーよなあのバイト」

「っつーわけで、あの辺で他に遊べるとこもねーし金もねーしで、さ」


 ちらりと、金髪ピアスの不良の視線が小室の鞄へと向けば、さっと視線の意図をさっした小室の身体が刻み込まれた痛みから拒絶反応を起こして震えだす。


「俺たちとはちがっていいとこのガッコに通って遊ばされる家畜から徴収にまいりましたー」

「「いえーい」」


 あくまでも軽いノリで、当たり前のように小室から鞄を取り上げて中を漁り、目当ての品物(さいふ)を探り当てれば、それも当然のように不要になった鞄を床へと投げ捨てて中身をぶちまけた不良が手の中で遊ばせていた財布を自身のポケットへとねじ込みながら小室の頭をポンと叩く。


「じゃ、貰ってくから。さんきゅーな」


 手が離れ、どこ行こうかなどとわいわいと談笑しながら後にしようとする声が僅かに離れかけ、急場の危機が終わった事で真っ当な思考になった小室は慌てて個室から飛び出して声をかける。


「ま――」


 そのまま立ち去ろうとする不良達の背に声をかけたまではいいが、小室は振り返った不良達の表情に竦んですぐにその行動を後悔した。


「んだようっぜぇ。まだ何かくれんのかよ」

「ち、ちが……」

「じゃあなんだよ。まさか返せなんていわねぇよなぁ?」

「善意の寄付だもんな?」


 ずかずかと風を肩を切るようにして威嚇しつつ大またで歩いてくる不良が小室の両脇を固め、肩を抱くように腕を回す。

 それは決して親愛などではなく、歯向かった獲物を逃がすまいとする態度そのものであった。


「て、定期……財布にはいってるんだ。それ、ないと俺、帰れな――」


 言い終わるよりも早くに正面に立っていた金髪ピアスの蹴りが腹部に突き刺さり、鼻血とよだれが交じり合った液体が床に垂れる。


「う、おぇ……げぇえええ……!」

「うっわーきれーに腹に入ったしやばくねー?」

「テメェのことなんざしるかっての。ま、定期はここまでの出張代として貰っとくわ。これつかってまた遊びくるからそん時までに募金の用意しとけよ」


 胃液を吐き散らした上に蹲る小室の背に足を似せた不良がとどめとばかりに蹴りを入れれば、小室はごろりと床を転がってびくびくと痙攣する。

 そんな憐憫を誘うような姿に満足したのか、今度こそ不良達が談笑しながら去っていく中、小室は必死に痛みが引くまで身を丸めていた。


「……ぁ、く。そ……」


 やがて、痛みが完全に治まった小室はよろよろと立ち上がり、床に散乱した荷物を雑にまとめながら小さく呟く。

 生理的な涙はとうに流し終わり、今流れているのが精神的な苦痛からだということを理解しながらも、小室は涙を拭うことなくぶつぶつと悪態を吐く。


「あいつら、あいつら、あいつら……殺す、マジ、殺してやる……俺をバカにするやつも、見下してるヤツも、絶対殺す、殺す、殺す……!!!」


 ぎらぎらと煮え滾った殺意を吐き出し、まとめ終わった荷物を手に駅を出た小室はゆらゆらと歩き出す。

 小室の異様な姿にぎょっとなる通行人も、ぶつぶつと呟くだけの小室に声をかける勇気はなく、そそくさと小室を避けて通り抜けてゆく。


「は、ははは……俺の事をわかってくれるのは彩華だけだ……彩華だけなんだ。彩華、彩華、彩華……彩華さえ居れば俺は――」


 明確な憎悪と燃え滾るような怒り。仄暗い愉悦が混じって濁りきった瞳に誰一人として気づくものは居なかった。

ふりょうの かつあげ!

こむろは しょじきんと ていきを うばわれた!

こむろの のろい!

めのまえが まっくらになった▼



……大体これであってます。

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