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5-37 ハートフル24

 美花を抱え子供達と共に実験区画へと向かうと共に、この施設に足を踏み入れてから久々に聞く複数人からなる喧騒が黄泉路たちの耳に届き始めていた。


「皆、無事!?」


 谷内と呼ばれた少女が一足先に室内に駆け込めば、戸が開いた拍子に音が廊下に広がる。


「あ、谷内っ!? どこにいってたの!?」

「その話は後で。皆起きてる? 怪我してない?」

「まだ半分くらい寝たままで、大人も居ないしどうしたらいいのかわからなくて……」

「その事なら心配ないわ。私たち、助かるのよ!」


 目を覚ましていたらしい子供達のもとに黄泉路が顔を出せば、一瞬、血まみれの女性を抱えた姿にはびくりと怯えにも似た表情を浮かべられるものの、その直後に入ってきた陽太たちの姿を見て表情が弛緩する。


「まだ目が覚めてない子もいるみたいだけど、とりあえず僕の話を聞いて欲しい」


 そう呼びかけて子供達の注意を自身へと引き寄せた黄泉路は、先ほど谷内にも行った説明を繰り返した。


「しせつのみんなはどうなるの?」

「それは……たぶん僕のほかの人が対応すると思うけど、たぶん普通に施設を移って貰うことになるんじゃないかな」

「……ばらばらになっちゃうの?」

「僕からも、皆一緒にいられるようにお願いしてみる。それじゃダメかな?」

「……わかった。おにいちゃんのこと、しんじていい?」


 大雑把ながらも、監禁生活が終わりを告げるという事を理解した子供達の表情は明るい。

 先ほどの部屋でそうしたように、まだ起きていない子供達を起こすように指示を出したところで黄泉路の脳内にキンと響く声が届く。


『――みちん! よみちん!!』

「う、わっ!?」

「えっ!? お兄ちゃんどうしたの?」

「や、ごめん、なんでもないよ。ちょっと急な連絡で驚いただけだから」

「れんらくってー?」

「んー。テレパシー?みたいな?」

「すっげー!兄ちゃんテレパシー使えるのか!?」

「僕じゃあないんだけどねー。っと、ちょっと応答するから、皆は起こす方をがんばってもらえるかな?」

「はーい!」


 黄泉路の驚いた声に応じて幾人かの子供が駆け寄ってくるのを宥め、元の作業に戻るように促しつつ標の声に応じる。


『よーみちーん!! みーけーちゃーん!! 応答してぷりーずぅー!』

「(聞こえてるよ、だからもうちょっと音を落として。あと、今美花さんは応答できない)」

『あっ! よかったぁ、やっと繋がったー。ほんっとジャミングが酷くってぇ……って、ミケちゃんが応答できないってどゆこと?』

「(ええっと、話せば長くなるんだけど……ともかく、子供達は救助できたから、回収班を至急向かわせて欲しい。それと、医療班も)」

『医療班? 子供が怪我したの?』

「(いや、怪我したのは美花さん。銃で腹部を撃たれてる。幸い急所は外れてるけど僕じゃ対処できないから、すぐに手術できる場所と人材をお願い)」

『え、うっそ、えっ!? ミケちゃんが怪我!? 銃で!? まって、私が繋がってない間に何があったの!?』

「(それよりもまずは手配をお願い。その後で全部話すから)」

『あ、そ、そうだよね! ごめん今すぐ連絡回す!』


 ぶつっ、と。つながりがたたれるような感覚と共に黄泉路の脳内に静寂が戻る。

 これでひとまずは自身にできることはあらかた終わったと息をついた黄泉路は、ふと、標が気になる事を口にしていた事を思い出す。


「……念話に、ジャミング?」


 思わず独り言をこぼす黄泉路の元へ、谷内が小走りでかけてくる。

 それにつられて目線を上げれば、すでに子供達の大半が目を覚まし、各々に事情を聞いて喜んでいる所であった。


「お兄さん、どうしたの?」

「や、ううん。なんでもないよ。これから君たちを連れ出してくれる人たちが向かってくるから、一緒に外まで歩いていこうか」


 安心させるように柔らかく微笑んでみせれば、谷内もつられたように表情をほころばせる。

 次々に子供達が駆け寄ってくる光景を笑顔で迎え、既に頭に入っている地図を元に、自身が入ってきた入り口へと向かう。

 ぞろぞろと子供が続くさまはさながら笛吹きの童話のようであったが、先ほどの標の言葉と美花の容態に気を取られている黄泉路がその事に思い至ることはなかった。


「もうそろそろ外だから、皆静かにね」

「はーい」


 黄泉路の注意に対し、元気よく反応した年少の子供の口を年長の子が後ろから慌てて塞ぐ。

 そんな微笑ましいやりとりの後、外に出た黄泉路たちを夜の暗がりが迎える。


『おっまたせー! 必要な手配は全部おわったよぉー!』

「(ありがとう、標ちゃん。そういえば、さっきジャミングがどうこうって言ってたけど、あれは?)」

『ああ、そのこと? んっとねー。なんてゆーのかな? 私の能力って大きく別けると精神に干渉するタイプの能力なんだけど、その系統の能力って近くに同系統がいると混線するのよねぇ』

「(同系統――ああ。なるほど。それで地下に降りてからは繋がらなかったんだね)」

『うん? うーん? 勝手に納得しないでよぅー。私にも説明ぷりーずぅー』

「(はいはい。後でね。今ちょうど迎えが来たみたいだから)」

『わかりましたぁ。支部で待ってますから……ちゃんと帰ってきてくださいよね。ミケちゃんとふたりで』

「(うん、それじゃあ)」


 外の空気を肌で感じつつ、黄泉路は公園まで子供達を誘導すると、回収班があわただしく動き出す中、黄泉路は美花ともども木陰に腰を下ろす。

 既に大半が終わっているとはいえ、イレギュラーも大いに発生した今回の依頼だ。気を抜くのはまずかろうという気持ちと、美花が素顔を晒すのは何かあったときにまずいという配慮からであった。

 仮面をつける行為自体はほんの一瞬で終わってしまう。そのため、黄泉路は空いた時間で心蝕者について思考をめぐらせていた。


「(……やっぱり気が動転してたんだなぁ……あの時はあせって放置しちゃってたけど、ジャミングが消えたって事は、共犯者に回収されて逃げちゃったって事なのかな……)」


 明かりもない住宅地の景色に溶け込むようにして存在する孤児院に視線を向け、遅れて医療班として姫更に連れられてやってきた薬研が小走りで駆けつけるまでの間、黄泉路はぼんやりと今回の反省をするのだった。

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