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指の間から水は零れて、



 出会ったのは数百年前。

再会したのは数十年前。

そしてなにをどうトチ狂ったのか、彼がわたしを監禁したのがつい一週間前。


 することもなく、一人がけのソファに座っていたら八重やえがいつの間にか前に突っ立っていた。




「やっぱり、とても綺麗ね。」



 ふふふと上品に笑って、わたしの長い髪を一房手に取りながら、彼はそう言った。

生憎と、わたしはこの髪が好きではない。

知ってか知らずか、彼は幸せそうに上に頬を寄せる。



「好きよ、白色。」



「残念ながら、わたしは同性愛者ではないよ。」



「もう、意地が悪いわね。」



 困ったように笑う。

肩口からこぼれた艶やかな朱色の髪を後ろにはらって、彼はわたしを腕で囲った。

すぐ横につかれた手をのかそうとするもそれはできなかった。

すらりと細長い手だが、鬼の万力。たかが人間では敵わないようだ。



「今日は、いい天気だったかい?」


「えぇ、とても良い晴天。でも、あなたが知っている良い天気ほどではないんでしょうね。」



 工場から出る煙がまだ空を汚していなかった頃。

青空を見上げるときに邪魔する電線もない、空には鳥は飛ぶが飛行機は飛んでいない。

夜は空を焼くほどの電気などというものもなかった時代。

そんな時代を生きたこともあったけれど、そんなに鮮明には覚えていない。


 というか、そんな言い方をするのはどういう意味があるんだ。

年寄りだと言いたいのだろうか。



「父様が、綺麗な空を見たいと言っていたの。」



「・・・そうか。」




 人間と妖怪では寿命も違うから、きっと覚えていることの量も違うんだろう。

わたしとは違って、鮮明に覚えていたに違いない。


 忘れることが出来ないのは、可哀想だな。



「ねぇ白色、」



「何だい?」



「白色は置いていかないよね。白色は死なないものね。」



「あぁ、そうだね。」





 死ぬことができるきみは、わたしを置いていくのだろうけれどね。







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