三人目の仲間
【学園戦艦:屋上】
「....ここにも居ないか」
チーム最後の一人を探すために、俺たち三人は学園内を歩き回り、最後に屋上にたどり着いた。
「一体どこにいるんだよ?」
聞いても無駄だとは思ったが、二人に聞いてみる。
「さぁ....どこかしら?」
探し疲れた様子のシズカ。
「なぁ?もう諦めて、三人で訓練しちまおうぜ、なぁ、なぁ~!」
搜索に飽きたのか、アスカがごね出した。
(マズイな、短気なアスカがイライラしている)
カチャカチャ….。
しかも、ショットガンをいじっている....これは今にも撃ちたくてしょうがない!のサインだ。
(マズイな、アスカをなんとかしないと...)
「なぁ、シズカ?」
笑顔でシズカの方を見る。
「何?ハルトくん」
「ここは効率を考えて分かれて探さないか?….俺一人とシズカ・アスカ組で」
「別にいいけど....なんで私達だけ二人組?」
不思議に思ったのか、
「そんなの決まってるだろ?今のアスカを一人にしたら、間違いなく“彼女”を見つけ次第ショットガンで撃つに決まってる…そのくらい彼女は危険だ!」
(なんて口が裂けても言えないな)
「いや、理由はだな....っつ!」
カチャリ....。
背後で物騒な音がした、この背中に当たっているものは.....銃口だな。
両手を挙げ、恐る恐る振り向くと....。
「んー.....なんか今馬鹿にされたような気がしたな?....ハ・ル・ト?」
案の定、アスカが笑顔で俺に銃口を突きつけていた。
「まっ...まさかアスカのことを馬鹿にするなんて...そんな事あるわけないだろ!」
「そーか、私の気のせいか」
ニヤリ。
(よかった流石の彼女もわかってくれたようだ....ん?今笑ったような....)
ドゴンッ!
「かはっ!!」
銃声と共に、背中にものすごい衝撃が走った。
(嘘だろ?....撃ちましたよ彼女?至近距離からショットガンで仲間の背中を....)
一応、この学園の校則で校内では発砲禁止になっている。
(いや...それ以前に仲間に向けて銃撃つとか....本当に危険....だ)
飛びそうになる意識の中で俺は見た。
「ちょっとアスカさんダメでしょ!....学校で発砲なんかしたら!」
シズカが注意している...俺を撃ったことではなく、校内で発砲したことについて。
「あはは!ごめんごめん....でもここって屋上でしょ?校内じゃないから、いいかなって思ったんだけどなぁ~」
そして、アスカは全く反省していない...
(シズカ....少しは俺のことを心配してくれ、今日だけで二回も撃たれたんだぞ俺?)
「....」
二人とも、無言で周囲を見回している。
(なんで二人ともキョロキョロしてるんだ?)
「ねぇ?ハルト....もう一発撃っていい?」
カチャリ.....そう言うと、再び銃口をこちらに向ける音が聞こえてくる。
「おい....冗談だろアスカ?」
「うん、冗談」
笑顔で引き金に指を掛けるアスカ。
「なっ!待てアスカ」
「死ね、ハルト~」
ダーン....遠くで銃声が聞こえた。
「.....?」
おかしい...いつまでたっても体に衝撃がこない?
恐る恐る目を開けると、目の前にあるはずのアスカのショットガンが、フェンスの所まで吹き飛ばされていた。
「痛てて....こうすればすぐに見つかると思った….」
手をさすりながらアスカが言う。
「ええ、“彼女”を見つけるにはこのやり方が一番ね!」
(ああ、そういうことか....つまり俺は“彼女”に命を救われたのか)
向かいの校舎、その屋上の入口に“彼女”は立っていた。
ライフルのスコープを覗きながら、銃口はまっすぐこっちに向かっている。
「.....目標の武器を破壊、再度攻撃の意思は見えず」
そう呟くと、銃を下ろしこちらに手を振ってきた。
夜桜マヤ......俺の命の恩人であり、寡黙な美少女だ。
黒髪に耳に白いヘッドホンを付けているのが特徴、小柄で人形のような少女だ。
チームの索敵狙撃であり遠距離狙撃の名手。
狙撃だけなら学園第一位の実力者である。
...ちなみに胸は貧
使用武器は、旧ロシア製のSVDという狙撃銃だ。
セミオート式の狙撃銃であり、頑丈で信頼性が高く、最大有効射程800mという数ある狙撃銃の中でも優秀な狙撃銃の一つである。
使用弾薬は7.62x54mmR弾。
マヤは、この狙撃銃に自身の手で改造を施しSVDCと名づけている。
通称”マヤスペシャル”と呼ばれていて、1000m超の遠距離射撃でも、的を外すことがないほどの狙撃銃になっているらしい。
(ただ単にマヤの射撃技術がいいだけなのでは?と思うのは俺だけか?)
「助かったよマヤ....危うく仲間に殺されるところだった...」
起き上がり、礼を言う。
「....気にしないで....仲間を守るのは当然のこと」
そう言って、真っ直ぐに俺を見つめる。
普段から顔の表情が乏しいために勘違いされやすいが、俺が知っている限り、チームの中で一番に仲間のことを大切に思っている良い子だ。
(後は、その気持ちをうまく言葉にできるといいんだけどな)
「えっと....マヤちゃん?ちょっといいかしら?」
頃合を見計らっていたのか、シズカが話しかける。
「......構わない」
「今日の放課後みんなで訓練しようと思ってるの…この後時間いいかしら?」
「....」
考えるような素振りをするマヤ。
「...了解した....チームでの連携は大切」
真剣な顔でそう答えるマヤ。
「そう!よかった、それじゃあ早速、訓練室に行きましょう」
シズカが手を合わせて喜んでいる。
(やれやれ、これでやっと全員揃ったな)
「ああそうだな、それじゃあさっそく訓練室に...」
キーンコーンカーンコーン。
校内放送のチャイムが聞こえてくる。
「生徒諸君に連絡!緊急事態が発生した!詳しいことは集合時に話す、全校生徒は速やかに第一体育館に集合せよ。繰り返す...」
「!」
「この放送は...」
「なんだろうね?ハルトくん」
なにか嫌な予感がしたのだろう、不安そうな顔でシズカが俺を見る。
「さぁな、ただ.....面倒くさそうなことだけは分かる」
「確かにね、でもなんか面白そう、行こうハルト!」
言葉とは裏腹に、楽しそうな顔のアスカ。
「....油断は禁物....どんな時でも気を抜いてはいけない」
そんなアスカをマヤが注意する。
「はいはい、相変わらずマヤは硬いな~」
アスカがマヤの頭を撫でる。
「......あなたこそ、相変わらず柔らかすぎる....少しは緊張感を持って欲しい」
頭を撫でられながら、マヤがアスカを睨みつける。
「んー?なんだってマヤ?」
目つきが鋭くなるアスカ。
「......もう一度、言う?」
二人の間に不穏な空気が流れ始めた。
(マズイな...このままだと、二人が喧嘩しかねない)
そう思い、何か言おうと口を開いたとき。
「二人とも!そこまで!体育館に行きましょう」
シズカが二人を注意してくれた。
「了解」
「....了解」
(二人とも渋々了解してくれたな....相変わらずの仲の良さだ)
「さぁ、ハルトくんも行きましょう?」
「ああ、そうだな行くか」
とりあえず放送の指示に従い俺たち四人は体育館へ向かった。
....その時の俺たちは考えもしていなかった...まさか俺たちが、あんなことになるなんて。