表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/21

交戦開始(エンゲージ)

【旧日本国:東京】


ドドドドドッ!

ダダダンッ!ダダダンッ!

廃墟となった、旧日本国の首都に、銃声が鳴り響く。


「チッ!.....思っていたよりもキツな...これは」

「同感だ」

俺とカズヤは、目の前にいる三体の”dead”に銃弾を浴びせた後、乗り捨てられた車の後ろに隠れた。

「見ろよアレ.....」

気味の悪い物を見る目でカズヤが呟く。

その視線の先には....。

「ガァァァ......」

再び立ち上がり、こちらに向かってくる”dead”の姿があった。


「あれだけ鉛弾を浴びせたのに、立ち上がるなんて.....本当に化物だな」

カズヤがそう呟く。

「やはりあいつらを殺すには.....頭を撃ち抜くしか無いようだな」


そう....奴らの弱点は、俺たち人間と同じく頭部...正確には、その中身にである“脳”が弱点である。

元が人間のために頭部が弱点らしく、そこを撃ち抜けば、一発で倒せるのだ。


だが、目標の一点のみを、正確に打ち抜くのは...訓練された俺たちでも難しい。

(正直言って...どこに脳みそがあるか、解らないような見た目のやつだっているし..)


「だがなハルト....正直言ってきついぞ、これ」

(悲しいが、カズヤの言う通りだ)


ただ単に、頭を打ち抜くなら簡単だが......”dead”は元人間というのが嘘のように、ありえない動き方をする。

一度標的を見つければ、個体差はあるが時速40km(100m10秒台の陸上選手以上)で追ってくる.....銃を持っていても怖い相手だ。

(...だから絶対に、走って逃げることはできない...最悪だ)

今の俺たちは、移動するための“足”がない。

なのでこうして、向かってくる“dead”と交戦しながら、移動するしかないのだ。

(ああ...最悪だ)

そんなことを思っていると。


「.....二人とも、絶対に動かないで」

無線機からマヤの声がする。

「ん?なんだって?マヤ….」

聞き返そうと無線機に口を近づけた時。

チュンッ!

目の前を一発の銃弾が通過していった。

「ガッ!」

その直後に聞こえる“deaad”の悲鳴。


「なっ....?」

理解するのに時間がかかってしまたが。

(そうか....車体の横から“dead”がこちらを狙っていたのか...)

「助かった...ありがとうなマヤ」

「.....油断しないで....ここは戦場」

ムスッとしたような声が、無線機から返ってくる。

「そうだったな、ここは戦場だ…..」

今一度、気を引き締め直す。


「カズヤも気を引き締めろよ」

「分かってるって....来たぞ!」

バッ!

車の左右から同時に飛び出す。

ダダダンッ!ダダダンッ!

ドドドドドドドドッ!

Mエム16とSCARスカーエイチ-Hの銃口が同時に火を噴く。


「ギャァァァ」

「グギャッ」

車の後ろまで、迫って来ていた“dead”達が悲鳴を上げて倒れる。

「近っか!近すぎだろ、これ!」

ドドドドドドドドッ!

SCAR-Hを連射しながらカズヤが叫ぶ。

「無駄口を叩いている暇があるなら....一体でも多く殺してくれ!」

ダダダンッ!ダダダンッ!

「ガァッ」

「ギャッ」

更に、左右から迫ってきた”dead”の頭を吹き飛ばしながら、俺が叫ぶ。

「ガァァァァッ!」

「....っ!」

(嘘だろ!?)

なぜか後ろから“dead”が俺に襲いかかってきた。


(くっ..ダメだ....今から振り向いて撃っても、絶対に間に合わない....これだから、”dead”と戦うのは嫌なんだよ...)

迫る”dead”の殺意、その口の中には鋭利な牙が見えた...気がした

(...ああ、ここで死ぬのか俺は)


そう思ったとたん、走馬灯のようなものが見えた.....その時!

ドゴンッ!

「ギャッ.....」

真後ろにいる“dead”の頭が吹き飛んだ。

「?」

何が起こったのか理解できない。


「大丈夫?ハルト」

ショットガンを真っ直ぐに構えた姿勢で、こちらを見ているアスカがいた。

「.....アスカ」

うまく、言葉が出てこない。

「おーい!しっかりしろ、ハルトー!」

俺の顔の前でヒラヒラと手を振っているアスカ。

「ああ、もう大丈夫だ...」

手で顔を覆いながら答える。


「それにしても、危なかったねハルト.....死んじゃうかと思ったよ」

笑みを浮かべるアスカ。

(なんで笑っているんだ?こいつは)

「.....助かったよ、アスカ」

とりあえずお礼を言う。

「....別にいいよ、気にしないで」

(?....妙に何かを隠したような言い方だな)


「なぁ、アスカ?助けてもらって置いて何なんだが.....なにか隠して...」

「別に、何も隠してないよ?」

そう言って向こうを向いてしまった。

「....アスカ?」

不思議に思い、もう一度口を開こうとしたとき。


「アスカ~そっちに行った奴、もう殺した?」

そう言いながら、カグラがこっちに向かってくる。

「....アスカ」

「...ごめん」

ああ、そういうことか....。

(不思議だったんだよ....どうして後ろから”dead”に襲われたのか)

その理由が今、分かった。

「あれ?なんでハルト座ってんの.....戦えよ!」

俺を睨みながら、カグラがそんなことを言っている。


....つまり、こいつら二人が取り逃がした”dead”が偶然そこにいた俺に、襲いかかってきたわけで...。

その結果、俺が走馬灯を見るくらい、危険な目に遭った.....そういうことだ。

「......」

「.....アスカ」

無言のアスカを抗議の眼差しで見つめる。

「.....ゴメンネ」

向こうを向いたまま、アスカが小さな声でそう呟いた。

(珍しく、素直に誤ったな)


「?」

不思議そうな顔で、俺とアスカを交互に見ているカグラ。

三人の間に妙な空気が流れる。

そんな空気をブチ破ったのは......。

「おいハルト!無事なら早く戦え!」

そう叫ぶカズヤの声だった。


「フッ.....そうだな、行くぞアスカ!」

「アハハ、そうだねハルト!」

俺とアスカがお互いに声を掛け合い、カズヤたちの援護に向かう。

そんな俺たちの後ろには....。

「?」

未だに、不思議そうな顔をしている、カグラがいた。


「悪い、遅くなった」

ダダダンッ!

M16を撃ちながら、カズヤの隣に並ぶ。

「遅すぎるぞ、ハルト!」

ドドドドドッ!

SCAR-Hを連射しながらカズヤが怒鳴る。

「だから悪かったって....それで、状況は?」

「いや、それが....思ったよりは、大したことないな」

笑みを浮かべながら、そんなことを言っているカズヤ......余裕の笑みのつもりだろうか?


「ここら一帯にいる“dead”は、ほぼ全て殲滅しから問題ないだろう...ただ」

言葉を濁すカズヤ。

「ただ......なんだよ?」

「.....さっき、サクヤから無線で連絡があった」

「?」

サクヤから連絡?

(まさかっ!...サクヤたちに何かあったのか!)

そう思い、口に出そうとした瞬間。


「.....先に言っておくが、サクヤもマヤも無事だぞ?」

俺の心を読み取ったのか、カズヤが言った。

「....じゃあ、なんだよ?」

相変わらず人の心を読むのがうまいな...こいつは。

「“新種”を発見したそうだ」

「なんだ、別に良い連絡じゃないか?」

怖い顔をしているから、何かと思えば.....いつもの、悪いイタズラだな。


「......」

無言で俺を見つめている、カズヤ。

「カズヤ?」

「....ハルト、心して聞いてくれ」

「ああ、はいはい...」

再び、怖い顔になるカズヤ....もうその手は食わないぞ?


「その発見した“新種”なんだが......」

「.....」

一応、真剣な顔でカズヤの話を聞く。

「......長い銀髪の少女だそうだ」

「!」

カズヤの言葉に驚きのあまり、声が出せない。


”新種のdead”に”銀髪の少女“

この二つの事実によって、導き出される答えは....。


「まさか.....“ナナ”なのか?」

「それは分からない.....確認のために、シズカさんとレイカを向かわせた」

カズヤが淡々と言う。

「そうか.......」

もし本当に“新種のdead”がナナだった場合...シズカは撃つことができるだろうか?


....答えは。

「間違いなく……シズカはナナを撃てないだろうな」

「.....」

黙って俺の言葉を聞いているカズヤ。

「カズヤ.....お前も知っていると思うが......シズカは俺たちの誰よりも優しい」

「.....」

「だがな、優しすぎるんだ....知ってるか?ナナがまだ生きていた頃、俺よりもシズカの方が仲良かったんだぜ?」

「.....」

「それだけじゃない......ナナもシズカの事を...実の姉のように、したっていたんだ」

「.....」

ドゴッ!

「?」

一瞬、なにが起きたか分からなかった....が、気がついた時には、地面に倒れている俺と、俺をを睨んでいるカズヤという構図が出来上がっていた。

「ぐっ....カズヤ、てめぇ」

そうか、俺はカズヤに殴られたのか....あの時と一緒だな。


「さっきから聞いていれば.....何言ってんだ?ハルトよ」

右手をさすりながら、俺を見下ろすカズヤ。

「何って....」

(.....そういえば、何話しているんだ.....俺は?)

「分からないなら、教えてやる....」

そう言うと、倒れている俺の、目の前にしゃがみこむカズヤ。


「お前が言っていた事はだな......過去の下らない思い出話だ!」

ドゴッ!

「ぐあっ!」

しゃがんだ体勢から放たれた、カズヤの右拳が俺の顔面を貫いた。

「....自分が何をすべきか、もう気がついただろう?」

諭すような顔でカズヤが聞いてくる。

「...っ....ああ、お前のおかげで...気がついたよ.....ありがとな、カズヤ!」

ドゴッ!

立ち上がり、振り返る瞬間にカズヤの顔面を殴る。

「っ!.....そうかい、それはよかったよ.....ハルト」

俺に殴られた、右の頬に手を当てながら、カズヤが笑顔で言った。

「フッ......」

「ハハハッ....」

お互いに笑い合う。

....そうだ、俺が話したことは全て、下らない昔話だ。

...俺たちは“現在”を生きている、今とるべき行動はたった一つ。

「自分の目で見て、真実を確かめ....答えを出す...そうだろ?カズヤ」

「……」

満足そうに頷いているカズヤ。

(なんだかんだ言っても、持つべきは“悪友”ということなのか...)

「ありがとうな....カズヤ」

たまには、素直に感謝の気持ちを言葉にしてみる。


「.....」

だが、返ってきたのは...。

「....なんか気持ち悪いな..今日のお前」

....気味の悪い物を見るような、カズヤの視線と言葉だった。


【同時刻:東京タワー前】

「そんな....」

サクヤからの連絡を聞いたシズカは、自分の持ち場を放り出し、その場所に向かっていた。


そして...そこで見たものは。


「ナナ....ちゃん?」

もう死んだはずの、懐かしい友人がそこにいた。

「ナナちゃん....なの?」

「....」

彼女は無言でただ立っている。

「ねぇ.....本当にナナちゃんなの?」

「.....」

「...っ..答えてよ!」

思わず声を荒げてしまうシズカ。


「.....」

それでも無言のままの少女。

「......ナナちゃん」

思わず涙を流し、その場に座り込んでしまうシズカ。


【同時刻:位置情報:不明】

「......」

その様子をモニター越しに見つめる人影が一つ。

どこかの研究施設だろうか....様々な実験道具が、所狭しと並んでいる。


その中心では、研究員らしき女性が座っていた。

「フム....想定していなかった方が来てしまったが......まぁいい」

そう言うと“白衣を着た女性”はマイクを掴み...。


「実験開始だよ、ナナ.....存分に殺りたまえ」

そう言うと、女性は再びモニターに目を戻した。


【旧日本国;東京タワー前】

「....」

ゆっくりとシズカに近づいていく少女.....“ナナ”。

「...ナナちゃん?」

座り込んでいる、シズカの目の前に来たナナ。

「....フフフ」

ナナは笑っていた....その手にナイフを隠して。

「ナナちゃん....ナナちゃんなんだよね?」

「...」

シズカの耳元に口を持っていくナナ。

「?」

不思議そうな顔をしているシズカの耳元で、ナナは呟いた。

「...ねぇ、シズカ.....死んで?」

「えっ....」

シズカが叫ぶと同時に、ナナの手に握られたナイフが振り下ろされる。

「どうして?...ナナちゃん....」

そう呟くシズカの首筋に、真っ直ぐに向かうナイフの切っ先。

鋼鉄のナイフが、首の肉を抉り取ろうとする.....。


その瞬間!

パンッ!

キィンッ!

「....っ!」

一発の銃弾が、ナナの手に握られたナイフを弾き飛ばした。


「ふぅ...なんとか間に合ったよだね....大丈夫かい?シズカくん」

「大丈夫?シズカ」

たった今、己の仲間を殺そうとした相手に、銃口を向けながら、レイカとカグラが聞く。

「ナナちゃん…..どうして」

半ば呆然としているシズカ。

「どうしようレイカ.....シズカったら、我を失ってるみたいだけど....」

「.....仕方のないことだ....」

そう言うとシズカの顎を掴み...。


強引にその唇を自分の唇と重ね合わせた。


「ん?....んん~!」

ジタバタと両手を振ってもがくシズカ。

「プハッ.....思っていたよりも、可愛い反応だなシズカくん?」

ペロリと舌で唇を舐める。

「は....はわわ」

その隣では、シズカのとった行動に驚きながらも、ナナに対する警戒を解いてはいないカグラがいた。


「....」

驚きのあまり、言葉が出てこないシズカ。

「フフフ......これで少しは冷静になれたかい?」

「あ.....え、ええ......レイカさん」

とりあえず、返事をするのが精一杯のシズカ。

「.....前から思ってたけど.....やっぱりレイカって....そっち系なんだ」

顔を赤く染めながら、カグラが呟いた。

「れっ....レイカさん!....一体何を!?」

顔を真っ赤にしたシズカが叫ぶ。

「わっ....私の.....初めては....ハルトくんにって...思ってたのに!」


思わず、泣きだしながら、レイカに向かって文句を言い放つ。

「そうか....やはり初めては、ハルトくんに捧げるつもりだったのか....」

小さな声でそう呟く。

「安心したまえ、.......女の子同士ならノーカウントだよ?」

そう言って、笑顔を見せるレイカ。

「....いくらノーカウントでも......やって良いことと、悪いことがあるでしょう!」

先ほどの、泣いていた姿はどこへ行ったのか、声を荒げ怒りだすシズカ。

「フフフ....やっと、いつものシズカくんに戻ったようだね」

「!」

ハッとなるシズカ。

「.....君の過去については、何も聞かないよ?.....ただ」

そう言ってシズカの顔を両手で掴む。

「.....っ」

思わず身を引くシズカ。


「君のそんな顔を......私は見たくない」

真剣な顔のレイカ。

「何があったのかは、知らないが...君は君だろう?...雨音シズカくん?」

「レイカさん...」

「安心していいよ....君のことは、私が守るから」

「....」


見つめ合う二人......その隣では。

「.....」

「.....」

ナナとカグラがお互いに睨み合っていた。


「レイカさん....ごめんなさい...私...」

「.....」

そっとシズカの唇に己の指を当てるレイカ。

「別に、何か言う必要はないよ....今、何をやるべきか....わかったね?」

問うような視線をシズカに向ける。

「ええ...レイカさん、私はもう、迷わない!」

そう言って、カグラと対峙しているナナの方を向く。

「......」

視線に気がついたのかシズカの方を向くナナ。

「ナナちゃん.....あなたが本当に、昔のナナちゃんなのかは...分からないわ.....でもっ!」

カチャッ!

Pピー90の銃口を真っ直ぐナナに向ける。


「私は戦う......あなたとっ!」


ダダダダダダダッ!

P90の銃口から発射された、鋼鉄の弾丸がナナに向かって飛んで行った。


「!.....この銃声は....」

カズヤが呟く。

「P90....シズカだな....近いぞ、急ごう!」

「ああ!」

そう言うと、俺とカズヤはシズカ達の元に急いだ。


「なっ......」

驚きの声を上げるシズカ。

なぜなら、シズカの放った銃弾をナナが避けたのだ。

「そんな...この距離で銃弾を避けるなんて....」


毎分約900発の弾丸を発射することが可能なP、90の初速は720m/s.....つまり一秒で約720mもの距離を飛んでいくことができるということだ。

常人ならP90を撃たれてから、避けることは絶対に不可能なことだ...。


「残念でした~...そんなのじゃあ.....絶対に当たらないよ?」

だがナナは......撃たれた瞬間に、後方に飛んで銃弾を回避した。

「....嘘でしょ?」

カグラが呟く。

「どうやら彼女は.....我々の想像を、遥かに超える戦闘能力の持ち主のようだな」


カチャッ!

MP7を構えるレイカ。

「......」

無言でこちらを見ているナナ。

「.....ナナちゃん」

彼女の名を呟く。

「………フフフ」

「!」

(笑った?)


「ねぇ....気のせいかもしれないけどさ....今、笑った?あいつ」

カグラが二人に質問する。

「....私もそのように見えたが?」

「うん.....そんなように見えたけど....どうして」

困惑する三人。

現状....ナナは、銃を持った女性三人に狙われている...。

(普通なら...恐怖で震えるか...もしくは、死を覚悟して、捨て身の特攻でもしてくるものだが...)


そこまで考えたところで....。

(相手は怪物...考えるのは無駄か)

そう思い、考えるのをやめる、レイカ。


そんな三人を見てナナは.....。

「フフフ……アハハ」

ついに、声を上げて笑い出す。

「....」

ガチャッ.....ドゴンッ!

カグラが無言で、ナナに向けてヴェープル12モロトを撃つ。

「アハハッ」

だが....今度は横に飛び回避するナナ。

「チッ....ダメだ.....全く当たらない」

ムスッとした表情のカグラが言う。


「フム.....私には何がそんなに面白くて笑っているのか、さっぱり分からないが...」

ダダダダダダッ!

MP7を連射するレイカ。


「アハハッ!....無駄無駄!」

雨のように飛んでくる9mm弾丸を笑いながら避けるナナ。

「そういえば、言い忘れていたね」

「何?」

頭上に疑問符を浮かべる、ナナ。

「...私は、他人から笑われるのが嫌いでね」

そう言って不敵な笑み浮かべる。

「.....?」

「だから、君を倒させてもらうよ......シズカくん!今だ!」


「ええ!レイカさん!」

ダダダダダダダッ!

「!」

レイカの合図と共に、腰位置で構えたP90を撃つ、シズカ。

その射線はレイカのMP7と交差する.....”十字砲火じゅうじほうか”の形になる。


十字砲火とは....。

連射性能が高い、火器を使用した戦法の一つで、二つの火器から放たれる火線が交差するところから“クロスファイヤ”とも呼ばれるものだ。


主に、防御において大きな効果を発揮する戦法で、相互支援原則に従った武器の配置例の代表格であり、相互にお互いを支援しあうことで攻撃側が防御側陣地へ到達することを困難にしているのだ。


今回の場合は、ナナ個人に対して使われたので、防御と攻撃の両方が同時にでき....その威力は絶大だ。


「相手がいくら怪物でもこれなら….」

そう呟くシズカ......だが。

「アハハッ!」

ナナ、は銃弾が自分に当たる直前、上に飛び回避する。

「くっ..なんて跳躍力だ....人ではないな」

ガチャッ!

文句を言いながらも、上空でシズカに向けてMP7を構える、レイカ。

ダダダダダダッ!

ナナに向かって、MP7を撃つが.....。

「フフ....どこ狙ってるの?」

「...くっ」

(...当たらない!)

レイカがMP7を撃った時には既に、ナナは重力に従い落下し始めていた。

射撃において、最も難しいとされるのが....“落下している物体を打つこと”であり、いかにレイカであろうとも、その事実に変わりはなかった。

(ならば....着地の瞬間を狙うまで)

レイカが、そう考えた矢先。


「フフッ」

微笑むナナ。

「何がそんなに、面白いのだ?」

ナナが見せた笑みに、思わず問いかけてしまう、レイカ。

「フフッ...どうせ、私が着地した瞬間を、狙おうとか思ってるんでしょ?」

「....」


「....甘い甘い」

そういって、ナナは空中で大きく体をそらせると...。

「えいっ!」

無理矢理に、自分の着地地点を変更した。

「っ....シズカくん!」

「あっ......」

ナナの予想外の動きに対応が遅れるシズカ。


「バイバイ....シズカ」

そう言うとナナは、背中に隠し持っていた、M16を空中で構え....引き金を引いた。

ダダダンッ!

三発の銃弾がシズカに向かって飛んでいく。

「シズカくんっ!」

(私の名前を叫ぶレイカさんの声が聞こえる。)


今のシズカには、世界がスローモーションのように遅く見えた。

(ああ....私、死んじゃうんだ...)

ゆっくりとだが、確実に自分に向かって飛んでくる銃弾。

回避は間に合わない.....確実な死。

(せめて最後に....ハルトくんに言いたかったな...)

ついに、目の前に迫る銃弾。


(.....“大好き”って....)


目を閉じ....ナナの放った凶弾が、自分の体を貫く.....最後の時を待つ。

...そして。


ドスドスドスッ!

銃弾が、肉体に当たる音がする。

不思議と痛みはない……死ぬ時は痛みを感じないものなのだろうか?

そんな疑問が頭の中に浮かぶ。


(....もうそろそろ、天国についたかな?)

そんなことを思いつつ、ゆっくりと目を開けるシズカ。

...そこに見たものは。

「....ハルトくん?」

自分に抱きついている、ハルトの横顔だった。


「ごめんな......シズカ....少し遅れた」

「?」

....どうして、ハルトくんが私と一緒にいるの?

疑問に思い、周りを見回す。


「.....っ」

驚きの表情を浮かべている、レイカちゃんとカグラちゃん。

その横には....いつ来たのだろう?....カズヤくんの姿まである。

「.....」

再び、視線をハルトくんに戻す。

「....」

笑顔を見せるハルト。

....だが。


その口からは...赤い血が流れていた。


「....!」

瞬間、全てを理解する。

(私はまだ生きている!)

そう思うと同時に、一つの疑問が頭をよぎった。

(なら、さっきの銃弾は?)


「....ハルトくんっ!」

その答えを、頭で考えるより先に、彼の名前を叫んでいた。

「....シズカ」

そう呟き、私に寄りかかるハルト。

「ハルトくん!ハルトくん!.........いやぁぁぁぁぁー!!」

ハルトの体を受け止め、シズカが叫ぶ。


「.....」

そんな二人を見つめているナナ。

「おい.....レイカ」

ナナを睨みながら、ガズヤがレイカを呼ぶ。

「何だい....カズヤ」

レイカもまた、殺気を込めた視線をナナに送っている。

「....彼女が”新種のdead“でいいんだよな?」

「ああ...間違いないよ」

「そうか....なら」

ガチャッ!

不敵な笑みを浮かべ、SCAR-Hを構えるカズヤ。


「......殺しても、いいんだよなぁ!」


怒号一発。

ドドドドドドドドドドッ!

SCAR-Hの銃口から鋼鉄の弾丸が発射された。



【同時刻:位置情報:不明】

「....予想外の結果になってしまったな」

モニターの画面を見ながら、白衣を着た女性が呟いた。

「予定では....暁ハルトと雨音シズカの二人と戦わせるハズだったのだが.....」

そう言ってモニターに視線を戻す。


「まぁいいか....予定どうり、暁ハルトは殺すことができたし......“これ”の性能テストにもなった」

その手の中には、紫色の液体が入ったカプセルがあった。

「フフフ....これさえあれば...私は」


「....“私は世界を手に入れられる”.....かい?」

「!」

声が聞こえ、驚いて後ろを振り向く。

....そこには。

「や~や~!久しぶりだね~!.....“カノン”くん?」

部屋の入口に立ち、笑みを浮かべるアズサ校長の姿があった。

「....お久しぶりですね....“アズサ先輩”」

そう呟く白衣の女性.....白井カノン(しらいかのん)


「何年ぶりかな?君とこうして話すのは?」

「......二年ぶりですよ....あなたが“あの事件”を起こして以来ですから....」

そう答える,

カノン博士。

「“事件”ね~......あれは事故だったんだけどね」

そう言いながら、部屋の中を見回す。

「でも驚いたよ....まさか君が、私の研究を続けていたなんてね....ちゃんと許可は取ってあるのかな?」


「いいえ.....私の独断です......だから」

パチンッ!

そう言って指を鳴らす。

「.....」

指の合図と共に、部屋の奥から二人の人間が姿を現す。

「あれ?君たちは....亡くなったはずの....警備員くん達じゃないか!」

驚きの声を上げる、アズサ校長。


「....自分の学園の、警備員の名前も知らないんですか?」

呆れた様子のカノン博士。

「いや~....悪いとは思ってるんだけどね...覚えてないんだよね~....ごめんね....化けて出ないでね」

そう言って、両手を合わせ、二人の方を見るが.....。

「....」

二人は、ただ無言でこちらを見ているだけだった。


「.....もしかして、この二人にも使ったの?....“アレ”」

「ええ....もちろん、使いましたよ」

アズサ校長の問いに対して、笑顔で答えるカノン博士。

「あなたが作った.....あの、“謎のウィルス”を媒体して作り出した....”万能薬パンドラ”をね!」


「.......万能薬パンドラ..ね」

そう呟くと、悲しそうな顔でカノン博士を見つめるアズサ校長。

「流石ですよ、アズサ先輩!....未だに謎の多いウィルスを進化させて、本当に死者の蘇生ができるようになる...夢のような薬を作り上げるなんてっ!」

興奮のあまり、顔を赤く染ながら話しているカノン博士。


「....そうかい...でも、そこ薬には、致命的な弱点があるんだよ...」

「ええ、もちろん知っています...新型のウィルスを使ったとしても、完全な死者の蘇生は不可能だった....でも!」

両手を広げ、天を仰ぐカノン博士。

「優秀な兵隊を作ることはできる!....そう、あいつら“dead”と同じように、ほぼ不死身な肉体と高い戦闘能力を持った兵士をね!」


「.....」

アズサ校長は、そんな彼女を....ただ黙って見つめていた。

まるで、昔の自分を見ているかのような気分で。

「彼女を見てください!あなたの教え子たちを相手にしても、圧倒的している....素晴らしい」

うっとりとした表情で、モニターを見つめるカノン博士。


「ねぇ...カノンくん」

「分かりますか?アズサ先輩.....この薬で兵士を量産すれば、私たちに敵はいなくなる」

「カノン、私の話を.....」

アズサ校長の言葉を遮って、カノン博士が言い放つ。

「アズサ先輩......私と一緒に来てください.....二人で世界を手に入れましょう!」

手を差し出す、カノン博士。


「.....」

一瞬。

...アズサ校長がカノン博士の、手を取るような仕草をしたが。

「....ごめんね......それは無理な話だ」

そう言って、アズサ校長は顔を背けてしまった。

「.....そうですか」

パチンッ!

悲しそうに呟くと、また指を鳴らすカノン博士。

「.....」

指の合図に呼応するように、二人の警備員がアズサ校長の前と後ろに立つ。


「なら、あなたは必要ない......どうやって、この部屋まで侵入してきたのかは知りませんが....私の秘密を見られたからには......教え子もろとも死んでもらいます!」

パチンッ!

「.....」

合図と同時に、アズサ校長に襲いかかる、二人の元警備員。


「やっぱり、そうなるよね」

やれやれといった様子のアズサ校長。

「無駄ですよ?いくらあなたでも.....ウィルスで強化された二人に勝てるわけがない!」

勝利を確信し、笑みを浮かべる、カノン博士。


....しかし。

「なっ....」

次の瞬間には、笑みが驚きの表情に変わっていた。


「......」

二人の元警備員が同時に襲いかかり、その手に握られたナイフが、アズサ校長に刺さる瞬間!

「....よっと」

そう言って二人の背後に回るアズサ校長。

ドスッ。

「.......!」

驚きの表情を浮かべている、元警備員二人の首筋に鋭い手刀を食らわせる。

「......」

無言のまま、膝から崩れ落ちる元警備員。


「そんな.....バカな」

目の前で起こった事が信じられず、思わず、そう呟いてしまうカノン博士。

「フフフ....一応言っておくけど...これは現実だよ?」

笑みを浮かべるアズサ校長。

「ウィルスで強化された二人を、こんなに簡単に倒すなんて」


「いいね.....もっといってよ」

得意げに笑っている、アズサ校長。

「.....それだけじゃない....あの動き....生身の人間ができるような動きじゃなかった....アズサ先輩....あなたは」

そこまで言って。

「ああ...」

自分で導き出した答えに....絶望する。

「あなたは....まさかっ!」


自分の考えついた答えに、驚愕するカノン博士。

「...そう.....私自身も“あの事故”の時にウィルスに感染してるんだよ」

「....っ....やはりそうですか」

悔しそうに、唇を噛むカノン博士。

「でも分からない.....なぜこの部屋にまで侵入してくることが出来たんですか?」

「さぁ....なんででしょう?」

「.....ここは政府所有の“研究戦艦”それも、関係者以外は絶対に立ち入り禁止の最下層....いくらあなたでも、簡単に入ることなんて、できないはずです!」

問うような視線をアズサ校長に向ける。


「フフフ.....仕方ない、教えてあげよう」

そう言うと、カノン博士に向かって手を差し出す。

「?」

「ウィルスの副作用かな?......私って、年の割には若く見えるんだよね」

そう言うと、カノン博士に向けていた手を引っ込めて。

今度は自分で手を見つめる。


「......」

「だから“親切な友達”に電話して、この場所に入れるようにしてもらったんだよ」

「....そんなことで」

思わず呟いてしまうカノン博士。

(“親切な友達”か.....恐らくは、かなりの権力を持っている“男性だろう”)


アズサ校長が、自分の知らない男に頼み事をしている。

そんな光景を想像してしまい。

少しだけ.....ムッとしてしまう自分がいることに、気がついていない、カノン博士。


「さてと....カノンは“昔みたい”に、後でたっぷりとお仕置きするとして...」

「....っ」

その一言で、カノン博士が青ざめる。

「....カノン、見てごらん?」

「何ですか?」

「...さっき君は、私の教え子たちが死ぬとか言ってたよね?」

モニターを見つめる、アズサ校長。


「...当たり前です、あの子....ナナは、私の最高傑作ですからね」

「.....」

「戦闘能力に運動神経、どれをとっても最高の兵士の仕上がりです....残念ながら、アズサ先輩の教え子に勝ち目なんてあるわけ…..」

「いいから.....見てごらんよ?」

全く、人の話しを聞く気がない様子のアズサ校長。


「.....」

仕方なくモニターを見るカノン博士。

「実は......あの子達を、この任務に当てたのには....ちゃんと意味があるんだよ」

「.....?」

怪訝そうな顔をするカノン博士。

「この任務自体、君が仕込んだ事なのは知ってたよ」

「.....」

(そこまで分かっていて....あえて、泳がされていたのだろうか?)


「でも.....それでもあえて、このメンバーを選んだ.....どうしてだと思う?」

アズサ校長が目を輝かせながら、カノン博士に問う。

「.....解りません」

その返事を聞いて、笑顔になるアズサ校長。

「彼等ならね......証明してくれると思ったんだよ」

「?」


“万能薬”が入った、カプセルを手に取るアズサ校長。

「こんなものに頼らなくても.....人間は“dead”に勝てるってことをね」

満面の笑顔を見せる、アズサ校長。


その横顔を見て、カノン博士が呟く。

「あなたは、昔から.....何も変わらないんですね.....アズサ先輩」

目を細めながら、アズサ校長を見つめるカノン博士。

「アハハッ!それもウィルスの影響かもね」


「.....」

(ああ、思い出した)

アズサ校長の後ろ姿を見て...自分がまだ、研究戦艦に配属されたばかりの頃のことを思い出す。

(この人こそ.....私が憧れていた....柊アズサ先輩だ)

「さぁ....始まるよ、可愛い教え子達の戦いが」

「.....」

食い入るようにモニターを見つめるアズサ校長……その横顔には…..笑みが張り付いていた。


【同時刻:東京タワー周辺】


ナナを追っていった、カズヤ達一行は、東京タワーから離れた場所で、戦闘を繰り広げていた。


ドドドドドドドッ!

SCAR-Hの銃声が鳴り響く。

「くそっ!....当たらない」

「アハハハッ!」

笑いながら銃弾を避けるナナ。

シュンッ!

「うおっ!危ねー!!」

ナナの投げたナイフが、カズヤの顔のすぐ横を飛んでいく。

「.....アハハ」

「くっ.....その気になれば、いつでも殺せるってことか?」


カチャッ!

「舐めるなー!!」

ドドドドドドッ!

「カズヤ!闇雲に撃っても弾の無駄だよ?」

ダダダダダダダダッ!

MP7を連射しながらカズヤの援護に入るレイカ。


カチンッ!

「くそっ!....再装填(リロード)!!」

「まったく....だから言ったのだ」

呆れた様子のレイカが呟く。

「......ハルトが殺られたんだぞ?....冷静でいられるかっ!」

思わず、怒鳴り声を上げてしまうカズヤ。

「....今は相手を倒すことだけを考えるべきだと言っているんだよ?私は」

「わかってるよ.....くそっ!」

カチャッ!

「.....」

無言でこちらを見ているナナにSCAR-Hの銃口を向ける。

「.....」

ガチャッ!

レイカもまた、MP7をナナに向ける。


「.....フフフ」

二人の様子を見て、楽しそうに笑い出すナナ。

「それで?....どうするね、カズヤ?」

「.....ハルトは殺られた....シズカさんは戦える状態じゃない.....マヤとサクヤ、アスカは他の“dead”と交戦中….….」

額に手を当て考える。

(....どうすればいいんだ?)


「どうすんのさ?カズヤ!」

ドゴンッ!ドゴンッ!

ナナに向けて、威嚇射撃をするカグラ。

「そう急かすなって....今考えてるんだから」

「できる限り早く頼むよ?......弾薬にも限りがあるからね」

ダダダダダダダッ!

MP7を連射しながらナナに向かっていくレイカ。


「ちょっ....レイカ!突撃それは私の役目でしょー!」

慌てて、レイカの後に続くカグラ。

「お前ら....そうだよな....」

二人の後ろ姿を見て、呟くカズヤ。

「俺たちだけでやるしかなんだよな......そうだろ?....ハルト」

今は亡き、友の名を呼び....仲間に指示を出す。


「レイカ!カグラ!火力を集中させろ!....三人で一気に倒すぞ!」

「フッ....了解したよ!カズヤ!

「了解!」

ダダダダダダダダダッ!

ドゴンッ!ドゴンッ!

MP7とヴェープル12モロト、二つの銃声が鳴り響く。

「アハハッ.....当たらな~い、当たらな~い!」

...だが、それでもナナを捉えることはできない。


「あの二人でもダメか.....なら“コイツ”はどうだ!」

キンッ!

ピンを引き抜き”それ”をナナの頭上へ投げる。

「レイカ、カグラ.....目を閉じろ!」

「.....っ!」

カズヤの意図を読み取り、目を閉じる二人。

「?」

不思議そうな顔で、自分に向かって投げられた物を、見つめてしまう、ナナ。

....瞬間。

キュイィィィィィン!

「!」

ナナの目の前で“それ”は、光と音を撒き散らしながら炸裂した。


”M84閃光手榴弾(スタングレネード)”....炸裂すると100万カンデラ以上の閃光と、180デシベルもの爆音を発生させ、対象を一時的に行動不能にすることができる、非致死性手榴弾の一種である。


この手榴弾を、カズヤはナナに向かって投擲していた。

「いくら人間離れしていても......こいつなら!」

そう言いながら、目を開けるカズヤ。

「.....なっ!」

だが.....カズヤが見たものは。

「フフフ、あ~...眩しかった」

そう言って、笑いながらM16の銃口をこちらに向けている.....ナナの姿だった。


一方その頃......。

「.....ハルトくん」

ハルトの頭を自分の膝の上に乗せているシズカ。

「....ハルトくん」

もう一度その名を呼ぶが、返事がない。

「......ハルトくん」

三度目の呼びかけにも全く反応しない....。

「..っ....ハルトくん....」

ついに泣き出すシズカ。


ポタッ...。

その涙が、ハルトの顔にあたり弾ける。

「.....」

(....まいったな)

心の中でそう呟くハルト。


そう....撃たれて死んだハズの暁ハルトは....実は生きていたのだった。

(....まさか.....俺が生きてるなんて、夢にも思ってないよな...この雰囲気は)


ナナの放ったM16の銃弾は、確かに俺の背中に命中した。

....だが幸いなことに、優秀な制服のおかげで、弾丸は肉体には届いていなかっのだ。

(....背中にアザができている程度のダメージだろうな)


「うぅ...ぐすんっ..ハルトくん」

(ああ.....シズカ....止めてくれ)


「....ハルトくん」

(このままだと....どんどんと“実は生きてました”なんて言えない雰囲気になっていく)

「....っ....うぅ」

ポタッ.....。

シズカの涙が頬に当たる。

「......」

(もう、どうなってもいいか.....これ以上、シズカの泣き顔は見たくない)


ついに、覚悟を決めたハルト。


「......シズカ」

消え入るようなこえで、彼女の名前を呼ぶ。

「....!」

驚きの表情で、俺を見るシズカ。

「......ハルトくん?」

「....ごめんな.....別に驚かそうと、思ったわけじゃな.....」

「ハルトくんッ!」

「ぐあっ!」

シズカに、思いっきり抱きつかれた。

(背中に激痛が走る)


「シズカ....ちょっと待ってくれ....痛い」

「うぅ...ハルトくん....良かった」

涙で顔を濡らしたシズカが、嬉しそうに言う。

「ああ、そうだな.......とりあえず手を離してくれないか?」

「ハルトくん.....うぅ」

ギュ~...。

....更に締めつけが強くなってきたような気がする。


「なぁ......シズカ?」

腕を離してくれ.....と言おうと思ったが。

「.....」

俺に抱きつているシズカの腕は....震えていた。

(そんなにも、俺の事を心配してくれたんだな....しばらくはこのままでいいか....)

そんなことを考えながら、目を閉じるハルトだった。


一方その頃...カズヤ達はというと。

「.....っ」

「アハハ.....」

M16の銃口がカズヤに向けられている。


「カズヤ!」

名を叫び、手を伸ばすレイカ。

「..っ....こいつ!」

ガチャッ!

カズヤを助けるために、ナナに銃口を向けるカグラ。


だが....彼女らの行動全てが遅かった。

「アハハッ...バイバイ!」

笑いながら、M16の引き金に指を掛けるナナ。

....そして。


ダーンッ!

「!」

無慈悲にも銃弾は発射された。


....遠くのビルからナナを狙う...マヤの構えている、SVDの銃口から。

「ギャッ....」

短い悲鳴と共に、後方へ吹き飛ばされるナナ。

「.....ヘッドジョット....イン」

無線機から、マヤの声が聞こえてくる。

「助かった......ありがとうな、マヤ」

その場に座り込むカズヤ。


「流石は学園一の狙撃手スナイパー....見事な腕前だな」

関心した様子で、顎に手を当てているレイカ。

「よ、よかった....」

カズヤの危機が去った事に安心して、胸を撫で下ろすカグラ。

「うぅ...さすが...お姉ちゃん...流石です~」

サクヤの泣き声が無線機から聞こえてくる。


「....危なかった.....最後の一発だったから.....仕留められて良かった」

「マジかよ...」

衝撃の事実を聞いた、カズヤの顔が青くなっていく。

(まぁ、結果的に助かったのだから....それで良しとするか)

「....本当に助かったよ....マヤ」

「......」

「マヤ?」

無線機から、マヤの応答がない。

「....どうしたんだよ?マヤ.....」

カズヤが不審に思い、マヤの名前を呼ぶ……その瞬間!


「っ...危ない!.....後ろ!」

無線機から、マヤの叫び声が鳴り響く。

「!」

驚いた全員が振り返る。

そこには....。


「.....」

無言で俺たちを睨む.....ナナの姿があった。

「....そんな...頭を打ち抜いたハズなのに......!」

何かに気づいた様子のマヤが、慌ててスコープを覗き込む。

「......信じられない......弾丸を.....”歯”で受け止めるなんて」

思わずそう呟いてしまうマヤ。


通常のスナイパーライフルの弾速は秒速1000m....狙撃されたと気づいた瞬間には、既に死んでいるような速度だ。

どんなにタイミングよく、歯でキャッチできたとしても.....所詮はヒドロキシアパタイトを主成分とする人間の歯。

歯が弾丸に触れた途端に、粉々に粉砕されてしまうだろう。

それをナナは....弾丸が自身に当たる直前に、歯で受け止めたのだ。


「.....嘘だろ?」

「まさか....ここまで人間離れしているとは...」

カズヤとレイカの二人が呟く。


その顔には......諦めの色が浮かんでいた。


「ねぇ二人とも!.......何諦めてんのさっ!」

二人を励ますカグラ。

「まだ、死んだわけじゃないでしょ!.....戦おうよ!」

「......」

お互いを見合うカズヤとレイカ。

「.......」

そして、無言で無線機を取り出すカズヤ。


「....マヤ...聞こえるか?」

「....聞こえている」

マヤの返事が返ってくる。

「作戦は失敗した.....繰り返す、作戦は失敗した......サクヤを連れて、そこから逃げろ」

「.......」

「なっ.....ちょっと!カズヤ.....」

「....カグラ」

片手を挙げ、カグラの言葉を遮るレイカ。

「レイカ!」

「黙って聞いていろ.....我らのリーダーの指示だ」

鋭い視線を向けるレイカ。


「......本気?」

マヤが問う。

「ああ......本気だ」

「そっ、そんなこと.....絶対にダメで.....うぎゅっ!」

....無線機からサクヤの悲鳴が聞こえた。

「......サクヤは眠らせた」

「そうか....ハルトから聞いてはいたが....本当に妹に厳しい姉だな、マヤ?」

「.....フフ」

珍しく、マヤの笑い声が聞こえる。


「.....ハルトがいない今......カズヤの指示を優先する」

いつもの口調に戻ったマヤが、静かに言い放った。

「ちょっ....マヤっ!」

「.....ハルト達との合流を優先......その後、学園戦艦に帰投する」

カグラの声を遮ってマヤが淡々と言う。

「......カズヤ」

「なんだよ?」

「.......死なないで......サクヤが悲しむ」


プツンッ!

その一言を最後に、無線機が切られる。

「....フッ」

レイカが笑う。

「.......なんだよ?」

「いやなに.....シズカくんの言葉を思い出してね」

「.....どういうこと?」

頭上に疑問符を浮かべ、二人を交互に見るカグラ。

「さっきのマヤくんの言葉は......俗に言う“死亡フラグ”というものだろう?」

「.....そうかもな」

そう言って立ち上がるカズヤ。


「二人とも......弾の残りはどのくらいだ」

真剣な顔で、カグラとレイカに聞く。

「私は......今MP7に入っているのが最後の弾倉マガジンだよ」

レイカが答える。

「あ~私はね.....あと5発くらいかな~.....」

少し悲しそうな顔で、カグラが答える。


「そうか....ちなみに俺はな.....」

「......」

「もう...残弾ゼロ....弾切れだ」

腰に手を当て、堂々と言い放つカズヤ。

一瞬だけ、きょとんとするレイカと、カグラ。


だが、次の瞬間には。

「....プッ」

「?」

「アハハハハハッ!」

とうとう、堪えきれずに笑い出す。


「な......別に笑うことじゃないだろ....」

「いやすまない....つい、ね」

「そうだよ......残弾ゼロって......ほぼ戦力外じゃん!」

再び笑い出す二人。

「....お前らな」

呆れたように呟くカズヤ。

「.....」

そんな三人を見つめているナナ。

「おっと.....彼女がお待ちかねのようだよ.....カズヤ?」

「良かったじゃんカズヤ.....最後に女の子に見つめられて」

軽口を叩く二人。


「そうだな.....女性を、あんまり待たせちゃ悪いもんな....行くぞ!」

「了解!!」

カズヤの掛け声で三人が同時に襲いかかる。

「....ッ.....アハハッ!」

その姿を見て楽しそうに、笑いだすナナ。


....そして。

ダダダダダダダダダッ!

ドゴンッ!ドゴンッ!

MP7とヴェープル12モロトの銃声が鳴り響いた。



「銃声....ハルトくん!」

「ああ....近いな」

俺とシズカの二人は、カズヤ達に合流するため移動していた。

「でも変だな....カズヤの装備している、SCAR-Hの銃声がしない....」

「そうね.....何かあったのかしら..」

心配そうな顔をしているシズカ。


「いや...あいつ(カズヤ)に限って、心配は必要無いだろ」

「もう.....ハルトくんったら」

呆れた顔をしているシズカ。

「....なんだよ?」

「そんなこと言ってると....お友達が居なくなっちゃうよ?」

(うっ...痛いところを...突いてくるな)

「.....別に...元々少ないしな...俺」

「....ハルトくん」

憐れむような、視線を俺に向ける、シズカ。

(うぅ..そんな目で見ないでくれ...)


俺とシズカが、そんな話をしていると....。


ドガンッ!

何かが、目の前の壁を突き破って飛んできた。

「一体.....何なんだ?」

「......っ!」

シズカの顔が青ざめる。

土埃で、よく見えなかったが.....それは。


傷だらけで気を失っている.....レイカの姿だった。


「レイカさん!」

シズカが叫ぶ。

「.....っ.....ぅ」

ゆっくりと目を開けるレイカ。

「....ああ.....シズカくんか....フフ..無様な姿を見せてしまったね...」

話すのも辛そうな、レイカ。


「ひどい怪我.....もう喋らないで」

「......レイカさん」

「!」

驚いた顔で俺を見るレイカ。

「チッ.....なんだ....生きていたのかい?....ハルトくん」

....瀕死の重傷でも舌打ちする元気はあるみたいだな。


「.....それならちょうどいい」

自分が飛ばされて来た方向を指差す。

「....まだ....カズヤもカグラも....戦っている」

「....」

レイカの声が徐々に小さくになっていく。


「二人を....頼ん...だよ?...ハルトくん」

最後の力を振り絞り、それだけを言い残すと、レイカは眠るように目を閉じた。

「.....シズカ」

「大丈夫....気を失っているだけみたい」

その一言に安心する。

「そうか......ならシズカは、ここでレイカと待っててくれ....俺は」

「....ハルトくん」

俺の言葉を遮るシズカ。

「.....気をつけて」

「....ああ.....行ってくる」

そう言って俺は、未だに戦っているであろう、戦友たちの元へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ