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旧文明が紡ぐ異世界物語  作者: 蒼空 蒼々
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1-3

300メートル程離れた場所が魔物との遭遇地点であったのだろう。

焼け焦げた樹木や、折れた剣などが見つかった。


「皆さんのおかげで私はアスベル様に出会うことができたのです」


そうユウナは呟きながら遭遇地点を見渡す。

辺りは酷い有様だった。


ユウナは涙を堪えているのであろう。ぐっと唇を引き結びながら、一人目の亡骸の元へ歩み寄って行く。


「フレッド……。私の護衛を4年間も務めてくれました」


フレッドと呼ばれた男は、両腕が無く、脇腹には大きく噛み切られた跡があった。


ユウナは目を閉じ黙祷を捧げる。

右手は胸に当て、左手を相手に向かって手を伸ばすように差し出す。

王国の神殿で見られる様式だなとアスベルは思った。


目を閉じ、祈りを捧げるユウナの横顔を見てアスベルは綺麗だと不謹慎なことを考えながら、自分も軽く目を閉じる。


(力量差がどれだけあっても、護るべき者があり、逃げずに戦い通したあんたは立派だ)


「さぁ、それでは埋葬しましょうか」


祈りを終えたユウナがアスベルへと声をかける。

その際ユウナは、首からかけられた胸元の金属プレートを回収していた。


「このプレートは形見になるんです」


そのプレートはギルドなり、国家なりどこかの組織に所属する者が身に付ける身分証明書のようなものである。

アスベルも以前持っていたことがあった。


『地の精霊よ。どうか私に力をお貸し下さい』


そしてユウナは言葉に自分の魔力を乗せて言霊とし、周囲のマナに存在する地の精霊へと呼び掛ける。

魔法は大気に遍く存在するマナと呼ばれるエネルギーを介して、そのマナに存在していると言われる精霊に呼び掛けを行い、自らのイメージを伝えるものである。


だから精霊に呼び掛ける言葉に決まったものはなく、最も自分らしい言葉で呼び掛ければ良いと言われている。


その時により多くの魔力を乗せて言霊を唱えれば、より具体的で巨大なイメージを伝えることができるので効果も大きくなる。


また精霊は全部で八種類いるといわれている。

火、水、風、地、雷、氷、光、闇

の八種類であり、火水風地を基本属性、雷氷光闇を特殊属性という。

というのもどの精霊と相性が良いかは、本人の性格が関係すると言われているが、基本属性は大多数の人間が相性の良い悪いはあれども使うことができるからである。

逆に特殊属性は使えない場合はまったく使えないことが多く、使える人間は極僅かだと言われている。


ユウナは地の精霊に言霊を唱えると、フレッドの亡骸は一人でに地面に埋まっていく。

地の精霊にイメージを伝え、フレッドを地面に埋葬したのである。


「安らかに眠って下さい」


そして傍に落ちていた剣を突き立てる。


「本当は国に帰してあげたいのですけど、この森は危険ですし、改めて迎えにくることも難しいです」


そこでユウナはアスベルの方を見て、


「だから私がしっかりと心に刻んで国へ持ち帰り、ご家族の方にその勇姿を伝えます」


決意を込めた、意思の強さを感じる瞳でそう告げるとユウナは次の亡骸の元へ向かう。


その後ろをアスベルは周囲を警戒し、意識を張り巡らせながらついていくのであった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



その後、埋葬を終え歩みを再開した二人はお互いのことを話しながらヴォルト大森林の最深部を目指す。


その中で、ユウナの年齢は17歳であること。

大森林の最深部にあるとされる大神殿で精霊の加護を得ようとしていたこと。

ユウナは基本属性は全て使えるが中でも水属性が得意らしいこと。などが分かった。


「この大森林の最深部には雷の大精霊様が棲んでいるといわれています」


「へー。そうなのか」


相槌をうちながらアスベルは考えていた。


(なぜそのことを知っているんだ?特殊属性の大精霊がいる神殿の情報はトップシークレットのはずだが)


基本属性の大精霊のいる神殿は広く一般に知られており、観光名所にもなっているぐらい有名なものなので驚かないが、特殊属性の大精霊の神殿の情報は国のトップシークレットとなっており、まず知るはずのない情報であった。

しかも、ある事情からアスベルはユウナの言っていることが正しいことを知っている。


そのまましばらく進むと目の前に木を門の形に組んである人工物が見えてきた。

二人は知らないがそれはかつて“鳥居”と呼ばれていたものそのものである。


「あれが雷の大精霊様がいらっしゃる神殿でしょうか?」


「きっとそうじゃないか」


アスベルはここが正しく雷の大精霊の神殿であると知っていたがはっきりとは口にしなかった。


鳥居をくぐり砂利が敷き詰められた道を進むと木造の建物が見えてきた。


(さて。どうするかな)


(まぁ、アイツの対応に任せるか)


アスベルは内心考えながらも、結局はその場の流れに任せることにした。


「きっとここで祈りを捧げるのですね」


ユウナが立ち止まった場所の前には木の箱が置いてあり、目の前に木造の建物の入口のようなものが見えるが少し小さい気がする。

またすぐ真上には鈴がぶら下がっている。鈴から太い紐が垂れ下がっていたが、ユウナは使い方が分からずそのままだ。


「では私は祈りを捧げますので、アスベル様もご自分の用事を果たして下さいね」


そういうと先程も見せた王国式の祈りを捧げる格好で一心に祈り始める。


(さて、アイツはどうするかな?)


アスベルの用事は目の前の建物の小さな入口の向こう側にあったので、大人しくユウナの後ろで待っていることにした。


すると五分程が経過した頃だろうか。


【ねぇ、いつまでそうしているつもり?】


ふいに声が聞こえた。


「え?」


ユウナにも聞こえたらしくキョロキョロと周りを見回している。


「アスベルさん、何か言いましたか?」


「いーや。言ってねえよ」


【私よ。あと、そこで祈りを捧げていても意味ないからね】


もう一度先程よりもはっきりと声が聞こえ、ユウナは建物の入口を見やる。


するとそこにはユウナと同い年ぐらいだろうか。勝気そうな紫黒の瞳に同じ色の長い髪を持ったとても神秘的な雰囲気を持つ美しい少女が、入口前の段差にその細く長い脚を組んで座っていた。


服装は見たことがない不思議な服装で、上半身はそうでもないが、下半身の露出が激しいひどくアンバランスな服装だった。

二人は知る由もないが、それはかつて“ブレザー”と呼ばれた女子学生用の制服とほぼ同じであった。


【私は雷の始原精霊ヴォルト。とりあえず歓迎だけはするわ。ようこそ私の神殿へ】


そう言ってヴォルトはユウナへ不敵に笑いかけた。





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