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病院

 進が目を開けると、見慣れない白い天井が頭上を広がっていた。すると進の母親である天道小夜が進の顔を覗き込む。

 「進、おはよう」

 「――おはよう。お母さん、ここはどこ?」

 「病院よ。進、大丈夫?」

進は驚きの表情を見せた。

 「――大丈夫だけど、なんで僕は病院にいるの?」

 「覚えてないの? 鴻上さんの家の近くの森の隕石落下現場で倒れてたのよ」

 「――隕石?」

 進は昨日のことを思い出そうとした。鴻上の家に学校の配布物を届けた後に自転車に乗って家に帰ろうとしたときに何かが森に落ちていくところまでは思い出せたが、それからあとのことが思い出せなかった。

 「森に隕石が落ちたらしいの。隕石の落下場所で倒れてる進を執事の月影さんが見つけてくれて救急車を呼んでくれたの」

 小夜はベッドの脇のナースコールを押す。するとすぐに看護師がドアをノックして入ってきた。

 「進君起きましたか? 先生呼んできますね!」

 看護師は部屋を出て行った。

 進は身体を起こす。部屋には進が使っているベッドしかなく、一人部屋だった。正面の壁にある掛け時計は朝の8時を指していた。12時間以上寝ていたのだ。


 レントゲン検査やCTスキャンをしたが、進の身体には異常は見つからなかった。医者によれば、進は転んでしまい頭を地面にぶつけた衝撃で一時的に記憶を失っているらしい。脳障害が見受けられないので入院することなく、帰宅していいとのことだったが念の為、進は1日入院することになった。


 「そういえば竹刀袋が重かったけど、お父さん(小夜の父親)がおもりをいれたのかしら?」

 「……おもり?」

 「お母さんも小さい頃にお父さんに竹刀袋におもりを入れられたのよ。でも、最初からあんなに重かったかしら?――あっ、そろそろ夕飯の支度しに帰るけど何かあったら電話するのよ。明日迎えに来るからね」

 「うん」

 小夜は部屋を出た。時計は16時をさしていた。

 進はベッドを出て、壁に立て掛けられた竹刀が入った竹刀袋持つ。確かに重い。竹刀袋の蓋を開けると2Lのペットボトル1本分以上はあると思われる竹刀の柄を右手で持ち竹刀袋から取り出す。すると金属の銀でコーティングされたような竹刀が現れた。

 「なんだこれ!?」

 驚いた進は銀色の竹刀(?)を手放してしまった。すると床に落ちた瞬間、光を発した。進は、両手で目を塞いだ。目を開けると 中結(切先から約30cmくらいのところを細い革できつく縛る部分)のところで2つに折れた竹刀が転がっていた。色は元通りになっている。

 「あれ? 銀色じゃないぞ?」

と言葉を発した瞬間、進は足元に違和感を感じた。

 「うわあああああ!?」

 進の足にスライムのような形をした銀色の生き物が接触していた。恐る恐る指で突くと、指を伝わって声が聞こえてきた。

 「そんなに驚かないでよ!」

 進は辺りを見渡すが病室には進と謎の生物しかいなかった。

 「接触しないと会話できないんだ」

 進の中には好奇心と恐怖心が入り混じっていた。

 「……君は一体何なの?」

 「僕は君たちの言葉で言う宇宙人や未確認生命体に当たるのかな? 他の星から来たんだ」

 「地球に何しに来たの?」

 「この星には偶然来たんだ。僕の仲間を助けたいんだ!」

 「助けてってどういうことなの?」

 「じゃあ、僕を君の頭にくっつけてくれるかな?」

 銀色の生命体を両手で持ち上げて、恐る恐る額にくっつける。

 「これから僕が体験したことを君の頭の中に流すね」

 「え!?」

 すると、進の中に映像が流れこんできた。


 目の前の生命体は同種の生命体の仲間たちとある星で暮らしていた。星の表面の金属を食べては、仲間と遊んでは、寝てを繰り返す生活をしていた。ある日、大きな宇宙船がやってきた、その中から出てきた二足歩行型の宇宙人たちがこの星の生命体を捕獲し始めた。武器がなく抵抗する手段がないこの星の生命体だったが、隙を作り出すことに成功し、宇宙人が1人乗ることが出来るくらいの小型宇宙艇1隻を奪うことに成功する。目の前の生命体は操作方法がわからず、いろいろなボタンを押していると小型宇宙艇がワープしてしまい地球に来た。というところで映像は止まった。


 「今のは何なの?」

 戸惑う進は後退りする形でベッドに座り、銀色の生命体を脚の上に置く。

 「今のは僕がこの星にくるまでの経験したことだ。僕の種族は触れている生命に記憶や言葉を送ることが出来る。僕は相手の記憶や考えたことを受け取ることも出来るから、触れている間は君は言葉を発さなくてもいいんだ。」

 「へー、すごいね。君は仲間を救うためにどうするの?」

 「昨日森で君を助けた人を探したい」

 「僕を助けた人?」

 「本当に覚えていないのかい?」

 「僕は……昨日のことを思い出せないんだ……」

 「そうか、じゃあ、さっきと同じように僕が見たものを君に見せるよ」

 「お願い」

 再び額にくっつけると、銀色の生命体が見た森での出来事が進の頭に流れ込む。

 「昨日こんなことがあったのか……」

 「この『ダン』っていう人はなんで記憶を消したんだ? この人を探してどうするんだい?」

 「なんで君の記憶を消したのか僕にはわからないけど、君のことを爆発から守ったのは事実だろう? 僕の仲間も助けてくれるはずさ」

 「……なるほど」

 突然ドアをノックする音が聞こえた。進はとっさに時計を見ると18時をさしていた。夕食を配りに来たのだと進は悟った。

 「ちょっと隠れててね」

 掛け布団で謎の生き物を隠す。

 女性が部屋に入ってきた。

 「今晩の夕食です。食べ終わったら、廊下の配膳車に食器を片付けて下さいね」

 「はい」

 女性は部屋を出て行った。

 「君は何を食べるの?」

 「金属しか食べない」

 「じゃあ、食べ終わるまで待ってくれるかな?」

 「いいとも」

 ご飯、鯖の味噌煮、ほうれん草のおひたし、味噌汁、牛乳といった質素な献立であった。5分も経たないうちに食べ終わると、すばやくベットから出る。病室を出て辺りを見渡すと、配膳車は見つかった。食器を配膳車の棚に置くと、病室に戻る。急いで歯を磨く。「あの映像が本当なのか?」とふと思った。しかし、昨日のことが思い出せないのは事実であり、目の前には他の星から来たという見たこともない生命体はいるんで、進はとりあえず信じることにした。

 掛け布団をめくりあの生物がいるのを確認すると、ベッドの上に座り先ほどと同じように脚の上に銀色の生物を置いた。

 「君の星は地球からどのくらい離れているの?」

 「わからない。かなり遠いよ」

 人間は月までしか行っていないということをテレビで見たのを思い出した。

 「地球人には助けられないから、やっぱり宇宙刑事に頼むしかないのかな。」

と言ったとき、進は眠気を感じた。

 「そろそろ寝たいんだけど、見つかると大変だから寝てる間は竹刀袋に入っててもらっていい?」

 「いいよ」

 「ところで、君の名前は?」

 「名前……はないんだ」

 「名前がないから――じゃあ『ナナシ』ってのはどう?」

 「『ナナシ』か……いいよ」

 「じゃあ、ナナシ、おやすみなさい」

 「おやすみなさい、進」

 竹刀袋をベッドの下に置き、進は寝た。

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