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その2 これが世界の選択か……はぁ

 そうこうしていると石造りの教会が見えてきた。脇には小川があり、水草が流れている。

 入口はアーチ型で、飾り気のないくすんだガラスがはまり込んでいる。

 そんなこじんまりとした教会を軽く見上げていると、神父さまが出迎えてくれた。二人で挨拶をしながら頭を下げる。

 

「よく来たね、ミカミくん、シャンくん」

 

 このメガネ神父さま、男の子だろうと女の子だろうとくん付けで呼ぶ。年齢は聞いたことないが三十歳程度に見える。父さんよりは年下だ。

 

「ちょっと神父さま、女の子に向かってくん付けで呼ぶのはどうかと思いますよ?」

 

 どうやら、シャンにとってはどうでもよくなかったらしい。

 アハハと、笑いながら奥へ入るように神父さまが俺たちを促した。

 

「一応確認しておくけど、祝福を受けに来たんですよね?」

「いや、ミカミくんと結婚しに来ました!」

「まだ言うか!」

 

 手を開き固めた状態で頭を小突きたい衝動に駆られるが、我慢だ。

 母さんに教えられた、女の子には手を上げてはいけないと。

 父さんに聞いた、女の子は守りやさしくしなければいけないと。

 行商人が語っていた、そういう人間は王都では『ふぇみにすと』と呼ばれ尊敬される存在だと。

 

「ははは……前から思っていましたが、仲がよろしいようで」

 

 神父さまが流すように笑っている。さすがに本気にはしないようだ。本気にされたら困るが。

 あまり大きくない礼拝堂を抜けて中庭に案内された。中庭には泉があり湧き出た水がサラサラと流れている。どうやらここから流れたものが外の小川にも注いでいるようだ。

 ここまで来るのは初めてだな。

 

「それじゃあ、一人づつ奥の泉の前に立ってください。それだけで、神の祝福は授けられます」

「こういうときは、レディファースト。ミカミくんは後ね、私からいきます」

 

 シャンが元気よく前に出る。いや俺が先に……。完全に出遅れてしまった。

『れでぃふぁーすと』……今度行商人が来たら、意味を聞いておこう。 

 

「っっ!?」

 

 淡い光を放つ玉が複数浮かび上がると、泉の前に立ったシャンの周りを回り始めた。その様子にシャンも戸惑いを見せる。

 

「大丈夫、心を落ち着けさせて」

 

 シャンがひと呼吸するとそのうち一つの玉がシャンの胸に吸い込まれていった。それと同時に他の玉もスーっと消える。

 

「無事に授かったようですね。声が聞こえたはずです。それが、シャンくんの祝福ですよ」

 

 シャンが手を開いたり閉じたりして自分の手のひらを見つめる。

 

「“風の読み手”……」

 

 そう呟くと少しだけ空気がフワッとしたような気がした。気のせいではないのだろうなと思う。

 

「ありがとうございます!」

 

 俺でも神父さまでもない方を向いてシャンが御礼を述べた。そこに神様がいるのか? 緊張してきたな。

 

「えへへ~次はミカミくんの番だね!」

 

 行く時よりも足が軽いように見える。だいぶ舞い上がっているようだ。

 シャンの頭の上に手を乗っけて二度ほど手をポンポンとやりながら、すれ違う。

 

「今度は、俺か……」

 

 泉の前に立つ。周りからはなんの気配もしない。

 ……。

 …………。

 ………………。

 そして何も起こらない。

 ゆっくりと神父さまの方を見ると、困ったような顔をしている。

 

「まさか、ミカミくん私より先に……」

「いや、そんなことはないぞ……」

 

 ふはは……なんだよこれ。みんな持ってるものじゃなかったのか?

 どうすればいいか分からない。神父さまは、なにやら瞑想をしている……。

 

「神父さま……?」

「ミカミくん、君はもしかして祝福を持っているんじゃないですか?」

 

 ゆっくりと目を開けた神父さまが真剣な眼差しでこちらを見てきた。

 

「…………」

 

 思い当たることはあるが、異世界の自分の夢を見ることが祝福とでも言うのだろうか……?

 

「生まれつき祝福を持っている者も居ると聞きます。……神はこうおっしゃいました。“世界を視る”ことができるのは、次で最後だと」

「最後……それはどういう……」

 

 “世界を視る”……夢で見てきた世界が見れなくなるということか? 剣神と呼ばれる自分が見れなくなる? 

 が、それ以上に祝福を授けられなかったことにショックを受けた。

 いや、今持っているものが、次で無くなるという解釈になるのか?

 いろんな考えが、頭の中を巡って少しフラフラしてくる。

 

「ミカミくん!」

「んあ、問題ないよ」

 

 平静を装ってるけど本当はきつい。

 

「そうですねぇ、フォローになるかどうかは分かりませんが、祝福を受けられない人間も全くいないわけではありません。我が国の多神教とは違い、隣国のトラステアなんかは一神教で単一神サン・ジールの祝福以外は異端とされ、国民の大部分は祝福を受けれないと聞きます」

 

 隣国の話かよと、突っ込みたくはなったがそんな元気もないし神父さまの言葉はまだ続くようだ。

 

「それに神は『“世界を視る”ことができるのが最後』、と言っただけで祝福がなくなると言ったわけではないです。その先に何かあるのではないでしょうか?」

 

 

「これが世界の選択か……はぁ」

 

 帰路に着きながら意味深な言葉を思い返す。

 

「伯母さまに、なんて言おうね……」

 

 浮かれたいであろうシャンが気を使っているのがわかる。

 神父さまにはどうなるか分からないからしばらく祝福のことは黙っていた方がいいと言われたが、母さんにまで黙秘することはできない。なんと説明したものか。

 

「あら、ミカミにシャンちゃんじゃないの」

 

 近所のおばさんと遭遇してしまった。

 

「あんたたち、教会に行ってきたんだろ。どうだったんだい?」

 

 おばさんがにこやかに聞いてくる。気まずい。

 

「えっと私が“風の読み手”っていうのを頂いたんだけど……ミカミくんは……神父さまが秘密だって!」

「“風の読み手”だって? それはいいものを授けられたね! それでミカミは……秘密ってなんだい? 神父さまが言うのなら聞きはしないけどさ」

 

 ……何を話せばいいかわからない。

 

「ま、教えられるようになった頼むよ!」

 

 おばさんは、俺の背中をバシっと叩くとゆっくりと通り過ぎていった。

 

「シャン、俺を一人にしてくれないか?」

「うん……先に帰ってるよ」

 

 こういうときは一人になりたい。

 村の外周を流れる小川まで来て柵にもたれかかる。畑で麦が頭を垂れているのが見えた。もうじき収穫だろうなと思う。

 石を拾って川に投げる。石は弧を描いて落ちると水面で、ドボンという音を立てた。

 すると川のほとりで長く伸びた草がガサガサと音を立てながら揺れた。よく見ると竿の先が草むらから見えてる。釣り人がいたようだ。

 

「すいません!」

 

 怒られる前に立ち去る。

 その後、村の中をぶらぶらしていたのだが誰と顔を合わせても祝福のことを聞かれてしまう。小さい村だ、知り合いでない村人の方が少ない。

 適当なことを言って誤魔化してきたが、限界を迎えたので家に帰ることにした。

 家に着き、母さんに教会であったことをすべて話した。

 母さんは「そう……」、としか言わなかった。父さんはまだ帰ってこないようだ。

 その日の夕食は食べる気が起きなかった。外で暗くなるまで木剣を振り、疲れきったところで汗を拭ってからベッドに入る。

 

 その日は夢は見なかった。夢を見る前に目を覚ますことになったのだ。

 村全体が騒がしい。何か焦燥感に駆られる何を感じる。

 目を覚まさずにはいられなかった。



[side 盗賊団隊長]


 ライン村と街を結ぶ唯一の街道で行商人を襲う。村の衛兵は村に常駐しているので、行商人が居なくなればこの村を行き来する者はしばらく居なくなるからだ。

 隣国の村を焼けだなんてとんでもない命令をもらったものだ。と、目の前で部下たちが行商人を崖に突き落とすのを見ながら思う。あまり高くない崖だったようで悲鳴が途切れると同時に、何かがひしゃげるような音が響いた。

 どうでもいいことだなと左手でヒゲを掻く。

 命令は“ライン村を帝国がやったように見せかけて燃やせ”だ

 これが成功すれば戦争が起きる可能性が高い。そして、戦争で活躍することができれば名前だけの傭兵団としてセーシル連邦に飼われている我々だが、独立できるかも知れない。

 失敗は許されない。万が一のために部下たちには任務の詳細は知らせていない。知っているのは俺と副官のエンリくらいのものだ。

 しかし、ヘンリは優秀なやつだが油断だか満身が過ぎるのが弱点だな……。


「ベルグ隊長~街道封鎖完了です」


 ヘンリが報告に来たが早速やらかしたか……。今の俺たちは盗賊に変装しているのだ。傭兵団の肩書きを言うんじゃない。


「誰が聞いているか分からないんだ。隊長と呼ぶな! 俺たちは、盗賊団だ」


 どこかの兵隊崩れの盗賊団の頭目を隊長とか呼ぶ盗賊もいるかも知れないが、万全は期すべきである。

 ここは深い森の中だ、そこらへんの茂みで誰かが聞き耳を立てていても気づきようがない。もっともこんなところに街道を利用するやつ以外がいるとは思ってはいないが……。


「こんなところで誰が聞いてるって言うんですか? ……すいません、た……お頭!」


 口答えをするへンリに睨みを効かせる。顔に皺が出来る年齢にはなってきたが、まだまだ若いやつに舐められるわけにはいかない。

 この場にいるのは俺とヘンリを含めて一八名だが、各所で待機しているメンバーたちを集めれば総勢一一二名となる。村一つを殲滅するのだ、これくらいの人数は必要だ。


「えーと行商人の始末もしました。しばらくは、この街道を使う者はいないと思われます」

「なら、今夜決行だ。待機してる連中に招集をかけろ」

「了解です」

「だから敬礼するんじゃない!」


 盗賊が敬礼するわけないだろう。こいつのこれは殴っても直らない気がするな。次に似たような任務があれば連れてこない方がいいかも知れない。

 事前情報だと村民二〇九名。全員を殺すのは無理だろうができる限りやる。

 恨むなら、国境の近くに村を作った自分の爺さん達を恨むんだな。

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