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近づいてきたのは、君のほう。〜過保護すぎる幼馴染は溺愛中〜

新発見をしたのは、君のほう。

掲載日:2026/08/15

「近づいてきたのは、君のほう。―過保護すぎる幼馴染は溺愛中―」シリーズ第37弾です。(短編シリーズ)

王都防衛騎士団所属のノインと、村娘オルガ。

二人の人生に寄り添う形で進んでいく恋の物語を描いています。

※本編の時間軸は「嫉妬をさせるのは、君のほう。」の後の話です。


 新居に越してきても、ノインの仕事は変わらない。


 通勤方法が馬になっただけ。

 出入りが裏口になっただけ。


 午前中に新しいチェストが寝室に運び込まれ、オルガは早速引き出しに布を敷いて、防虫のために香草も入れた。


 一番上に自分の衣服。

 普段着と肌着類が少ししかない。


「…………」


 すくない……。


 二段目にノインのものを畳んで入れていく。

 普段着と、騎士団の制服……こっちも数は多くない。


 三段目に他の物を入れていき、四段目に冬に使うものを……布とか、と……。


 思ったのに。


 全部入れても、十分すぎて妙に気分が落ち込んでしまった。


 チェストの上の部分によく使いそうな毛布や布を畳んで置く。ランプもそこに。


「はぁ……」


 しばらくそのまま動かずにいたけど。


「よし!」


 立ち上がった。


(帰ってきたらノインの採寸をさせてもらって、冬服を作り始めよう!)


 このチェストだって、そのうちいっぱいになる……きっと。



 買ってもらった自分の机の上には、市場で買ってきた布が広げられている。

 厚手の茶色の布と、少し柔らかい灰色の布。冬服にするためのもの。


 その横に炭の小さな欠片を置いてあるが、オルガは手に麻の紐を持って帰宅したノインを待ち受けていた。


「おかえり」

「……はい。ただいま」


 紐の端を引っ張って、長さを確認してから。


「ノイン」

「……はい?」


 制服を脱いでいたノインが怪訝そうにした。


 シャツとズボン姿になって、普段着になろうとしているそこへ。


「こっち来て」

「はい」


 あっさりとノインが近づいてくる。


 居間の広い位置の床を指差す。


「そこ立って」


 ノインはそちらを一瞥すると、そこに立った。


 背筋が自然と伸びて、肩がまっすぐ揃う。


(おお……かっこいい……)


 あっ、違う違う! そうじゃなくて。


「動かないでね」

「わかりました」


 紐を持って近づいて、肩幅を測ろうとして両手を伸ばす。


 片方の肩に紐の端を当ててから、反対側まで引く。


「うん」


 長さを覚えて、紐の位置を指で押さえる。


 一度離れて、机の横の板に炭で印をつけた。


「次は腕ね。少し上げてくれる?」

「こうですか」


 腕が上がる。


 肩の付け根から手首まで、紐をそわせて……。


「長い」

「? ながい?」


 脚が長いのはわかってたけど、腕も長い……。


「前の服、袖がちょっと短かったんじゃない?」

「そうでしょうか……」


 はて? とばかりに不思議そうにしている。


(ほんと、興味ないことはどうでもいいんだな……)


 腕は測ったので次だ。


 ノインの周りを一歩、ぐるりと回った。


「胸まわりね」


 ノインが自然に腕を軽く広げてくれた。


 背中側から紐を回してから、オルガは背中に触れた瞬間に呟く。


「硬い」

「鍛えてますから」


 それは、まあ……そうなんだけど。


「でも細い」


 紐を前で合わせながら、眉間に皺を寄せた。


「ここ、細い」


 ノインの腰のあたりを軽く叩いた。


「騎士ってもっと太いと思ってたんだけど……」

「人によります」


 それもそうだけど。


 印をつけてから、ノインの前に立つ。今度は腰だ。


「うーん」


 紐を回して、前で合わせる。


「ほらあ」


 ノインを、見上げた。


「細いよ」

「そうですか」


 肩はあるのに、急に細くなる。


(服作るのむずかしい体型なんだよね……)


 筋肉ムキムキってタイプでもないし……。


 背後に回って脚の長さを測るべく、腰の位置から紐を下へと落とした。


 膝の横まで紐が伸びたのを見て反射的に言ってしまう。


「脚なっが」


 ノインが少しだけ首を傾げた。


「長いですか」

「長いよ!」


 これは……。


(作るの大変だなぁ)


 改めて思ってしまう。


 前の時よりも細かく採寸をしているので、頑張ってノインに似合う、着やすいものにしなければ。


 前と同じく、剣を振りやすくするために、腕は動くようにしないといけない。


 炭の印をどんどん増やしているのに。


(ノイン、全然姿勢崩れないなあ)


「まだ動かないでね」

「はい」


 何度も測ってから納得して……。


 妙な違和感をおぼえた。


(んん……?)


***


 夕食の片付けが終わると、ノインが何気ない顔で言った。


「風呂に入りましょう」

「…………」


 食器の片付けをして、皿を拭いていたオルガは「うん」と頷いた。


 借家の時と日々の過ごし方はほとんど変わっていない。

 夕飯を一緒にとったら、それぞれお風呂に入って、お風呂上がりにゆっくりする。


 お風呂は交代で入って、先に上がったオルガはまったりとお茶を飲む。

 そして入れ替わりにお風呂に入っていたノインは、上がってくると剣の手入れをし始める。


 そんな時間が終わると、二人で一緒に寝室に行って眠る。


「沸かしてるよ!」


 バッチリ!


 この家の風呂では、浴槽の横に薪で湯を沸かす鍋が設置してある。


 浴槽にはすでに湯を満たしている。


(先に入るなんて珍しいな)


 でも。


 あったかいお風呂に入って欲しいから、嬉しい。


(採寸に時間かかったし、ゆっくり浸かって休んで欲しいかなぁ)


 にこにこしてると、ノインが嬉しそうに微笑んだ。


「じゃあ一緒に入りましょう」


 …………なんて?


「え?」


 一緒に?


 ちょっと動きを止めて、考える。


 前の借家でも、確かに一緒に入ったことは一度だけある。

 あの時は狭くて、ほとんど身動きも取れなかった。


 単に髪を洗ってくれただけだったし、他人の匂いがついているのが嫌とかいう理由だった……し。


「いいよ」


 二人が入れる浴槽なのだし、今は。


 あっさりと承諾すると、ノインがうっすらと笑う。


 ん?


(なにその、妙な笑みは)



 浴室には薪で沸かした湯気がこもっていた。

 木製の浴槽からは、白い湯気がゆらゆらと立ちのぼっている。


 木の香りと、ほんのり熱い空気。


「ノインはあっち向いててね」

「はい」


 背中合わせになって、オルガはさっさと服を脱ぐ。


「あの」

「ん?」

「君の体を洗ってもいいですか?」


 背後からの問いかけに、オルガは動きを停止した。


「…………」


 ま、まあ。


(見られてるし、触られてるし……い、いっか)


 それくらいは。


 うーん。


(夫婦だし……。なんでもしてあげるって約束したしね!)


 うん!


「いいよ!」


 笑顔で肩越しに返事をすると、ちらっとノインがこちらを見て、上のシャツを脱いだ。


「……ありがとう」

「洗うくらいべつにいいって」


 ああ、でも。


「わ、私はちょっと、ノインの体を洗うのは……難しいかも」


 頭くらいはいいけど。


 ノインが小さく笑う。


「そんなこと、俺はお願いしてないので……気にしないで」

「そう? へへ、そっか」


 肌着を脱ぎ去ってから、改めて浴室の中を見遣る。

 これだけ湯気があるなら……そんなに恥ずかしくないかも。


 前は一度しか沸かせなかったけど、今はそこの鍋で追加でお湯を沸かせるし。


(まあ薪は使っちゃうけど)


 薪だって使えば減るのだし……。


 こんな時でもこんなことを考えてしまう。


 浴槽の縁に腰掛けるように言われて従うと、ノインは桶で湯を汲んでオルガの髪にかけた。


「冷たくないですか?」

「大丈夫だよ」


 両目を閉じているオルガは、髪を濡らされながら肩をすくめる。


 いつも使う石鹸を手のひらでこすり、少しだけできた泡でノインは髪を洗い始めた。


「やはりいい石鹸じゃないと、泡ってなかなか立たないですね」

「ははは。そりゃそうだよ」


 なにを今さら。


 指が頭皮をゆっくりなぞっていく。


「…………」


 んー……。


「くすぐったい……」

「力、強いでしょうか?」

「そうじゃなくて。ふふふ」


 指が耳の後ろに触れるたび、肩が小さく跳ねてしまった。


「次は背中を洗います」

「わかった」


 桶でゆっくりと湯を流されてから。


 ノインの指が肩甲骨のあたりをなぞった。


「……っ」


 信じられないほど、オルガの体が震えた。


 ノインの指の動きが……止まる。


「どうしました」

「な、なんでもない」


 声が、萎んでいく。


「…………」


 つつぅ、と指先が背中を上から下へと滑るように動く。


「っ、ひ」


 ぐっ、と変な声が出て前のめりになる。


 待って。


(いま)


 今!


 両手で口元をおさえる。


(変な声が出そうになった!)


 危険信号が突然頭の中で鳴り始める。


 今まで。


 ノインは自分の正面側ばかり触り、キスをしてきていた。

 身構えている自分に対してだからではある、と思う。


 それに自分はいつも仰向けにされて、彼にされるがままの状態になる。


 そう――うつ伏せ状態にされたことは、今まで一度もない。


 だから背中側を触れられたことは、ほぼない。


 うなじや、肩口ならある。でも。


「……へえ」


 なにが、へえ、なの!?


 なんだか……背中をノインがじーっと観察している気配がする。嘘でしょ、ちょっと待ってよ……。



 体を流し終えて、二人で浴槽に入ることになった。

 オルガはほっと安堵する。


 湯は胸のあたりまでの高さ。

 木の縁に手をつくと、じんわりと熱が伝わる。


(あったかいお風呂、いいなぁ……)


 じゃない。


 少し体をずらすと、後ろからノインが入った。


(うわ~、前と違う。ちが……)


 狭いな~ってなっていたけど。


 うん……でも。


 背後からノインが抱き寄せてきた。


(うええええええええ!?)


 近い近い近い!


「へ、へ……そ、そんな近く、なくて、も」

「そんなに広々とはしてないでしょう?」


 そりゃそうだけど!


 小さく背後で笑いながら、ノインの腕がおなかのあたりに回ってくる。


(ぎえ)


 背中に、胸の感触が触れる。

 耳元に、ノインの呼吸。


(わああああああああああああああ!)


 湯の中で肩をすくめて、視線を伏せる。


「……嫌ですか」

「い、いや、ではない、よ」


 喋ると振動がこっちに伝わる……!


 落ち着け。


 べつに前と一緒だよ。そう、一緒。


(そういえば前は貯金の話をされたっけ……)


 思い出して少し体の力を抜いた。


「ちゃんと二人で入っても大丈夫な大きさですね」

「……そうだね」


 まあ、ノインが大きくて、自分が小さいからバランスがとれているのかもしれないけど。


(後ろから抱きしめられるのも、いいなあ)


 あたたかいお湯の中でぼんやり思っていて。


「――っ」


 声。


(変なの、おっきく出た……!)


 ノインの右手が、こちらの背中を撫でてきたから、だ。


 待っ。


 そう思ったのに、続けて声が出てしまう。


 背骨を指先でなぞられた。


 呼吸が乱れて、オルガは信じられない気持ちになる。


 なに。まさか。


 ノインの腕が少しだけ強く、抱き寄せるようにした。


 湯が、小さく揺れる。


「好きです」


 え。


「大好き」


 うそ。待って。


 そっと、肩越しに小さく背後を見ると。


 うっすらと笑うノインと目が合った。


 あ……えっと。


(あぁ)


 なんでも叶えるよ、って言ったのは。


(私だ――!)



 いつもはキスから始まるのに。


 しないの?


 いつもと、ちがう……これ、は。


(わあぁ)


 どうしよう、どうしよう!?


 あれ?


 声、出していいんだっけ? 我慢するんだっけ? 出さなくてもいいって、どう? どうだっけ???


 だめ、だ。


(こえ、でちゃう……!)


 なんで。なんで!?


 お腹の奥が変だよ。

 体に力が入っちゃう。

 呼吸が、整わない。


 オルガは浴槽の縁を握った。


 湯の中で体が揺れる。

 木の浴槽が小さくきしむ。

 湯が波立つ。


「っ!」


 オルガの指が、縁を強く掴んだ。


「……ま、待って……」

「わかりました」


 いきなり動きが止まった。


 だけど、腕の力は逃げさないとばかりに強い。


「耳が赤いですね」


 軽く耳にキスされて、オルガの全身に妙な感覚が走った。


(あ……)


 やさしい。

 ノインが、とってもやさしい。


「ぅ……ま、待たなくて、いい」

「はい」


 動きが、わずかに変わったのに気づいた。


 ああ、なんてことだろう。


(わ、私、いつからこんなにノインに弱くなったの……?)


 湯が何度も揺れる。


(お湯の中、つかれる……!)


 お湯の抵抗で、体が動くたびに余計に力がいる。


 呼吸が、浅くなる。


 なんか、ぼんやりする……。


 力、抜ける……!



 浴槽の中でしばらく呼吸だけが響く。


 静かに湯気が揺れる中、オルガは縁にもたれたまま、息を整えようとしていた。


「……う……ダメ……だ」

「なにがですか」

「ちから……はいらな……」


 足に力を入れて立とうとするけど、膝がふらついた。


「……あ」


 体が、傾く。


 その瞬間、ノインの腕が支えてきた。


「歩くのは無理ですよ」

「だ、大丈夫。た、立て……る」


 もう一度試そうとするけど、足が震える。


 ノインは一度小さく息を吐いた。


 そしてなんの前触れもなく、オルガを抱き上げる。


「うわ、な、なにす……」

「連れて行きます」

「ま、待って、濡れてる! 拭かない、と」

「問題ありません」


 湯から出ると、床に水滴が落ちた。


 湯気の中で、ノインはそのまま浴室の外へ向かう。


 オルガは慌てて腕を首に回す。


「自分で歩ける、よ……!」

「試して失敗したのを見たんですけど」

「うっ」


 なんか、体温があがってるせいか頭がぼーっとする……。


 浴室の扉が軋みもなく開かれる。


 灯りを消してからしばらく経っているから、廊下は窓から落ちる淡い月明かりだけがうっすらと残っている。


 普段は気にもしない、その暗さにオルガは思わずノインのほうに身を寄せた。


 少しだけ抱え直したノインが、うかがってくる。


「大丈夫ですか?」

「……ん」


 返事というより、息に近い音。


 ノインはそれ以上なにも言わずに、廊下を歩く。


 いつもは居間に行く。


 そこで「あがったよ」とノインに声をかけると、ノインがお風呂へ向かう。

 彼があがってくるまでお茶を飲んでゆっくりする時間……。


(はぁ……)


 二階へ続く階段へとノインは迷いなく直行した。


 居間は? とぼんやり思うけど、それよりも。


 暗いのにノインは一切気にせずに歩いている。見えてる……みたいに。


(でも見えてるわけじゃない、って……言って……たっけ……)


 さむい……。

 早く拭かないと、風邪を……。


(ノインだって……)


 ノインは肩で扉を押して、開ける。


 寝室の中は……当然だけど、真っ暗。


 窓にはカーテンが引かれていて、外の光もほとんど入ってこない。

 眠りを邪魔されたくないという、ノインの……こだわったカーテン……。


 迷う様子もなく中に入ったノインは、ベッドに近づく。


(あ……)


 私。


(濡れたまま……)


 片腕でこちらを抱え直し、もう片方の手で布を引き寄せるように動いた。


 ベッドの端に畳んで置いてあった布を掴むと、広げて敷くなり……そっとそこに下ろしてくれた。


「…………」


 ……まって。


(え? すごくない?)


 濡れた髪を肩に張りつかせたまま、オルガは暗闇の中で少しだけ目を凝らす。


 片手で、だっこしたよね?


 困惑してしまう。


 ノインはチェストのほうへ向かったのか、引き出しを静かに開けた音がした。


 目が闇に慣れてないから、不安になる。


「の、ノイン」


 どこ?


 と思ったら、「ここです」といきなり目の前で声がした。


 柔らかい布で全身を包まれて、ほっと息を吐き出す。優しく髪も、体も拭いていく。


「肌着も持ってきました。腕を上げてください」

「ん……」


 丈の長い肌着を軽々と着せられ、細かく整えられる。


 終わるとノインが立ちあがる気配がして、壁のほうへ手を伸ばした。


 小さなランプに火が入ると、室内に柔らかい灯りが広がる。


「あ」


 オルガは動きを止めてから、視線を逸らした。


「ノイン、濡れたまま……!」


 というか、全裸なんだけど!


「あっ」


 採寸の時の違和感の正体がわかった!


(服着てるとすごく細く見えるけど、脱ぐと筋肉あるってわかるんだ!)


 いや、えっと。


「ノイン、は、はやくなにか着て……!」


ここまで読んでくださってありがとうございます。

楽しんでいただけたら嬉しいです。

続きを読みたいと思っていただけたら、さらに嬉しいです。

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