婚約者の好みと価値、私の好みではありませんが妥協します
婚約者に容姿の事で文句を言われた主人公が反撃する話です。
「僕はサファイア令嬢みたいな銀髪に青目の可憐な外見に惹かれてしまうなぁ。」
何気ない婚約者同士の会話の中で、サリーの婚約者であるクラウドは言った。
「せめてサリーもサファイア令嬢みたいな銀髪に染めてくれないかい?」
クラウドの言葉にサリーは、彼に対する気遣いや敬意が無くなっていくのを感じた。
◆◇◆
サリー・ルージュはルージュ伯爵家の令嬢だ。茶髪に紅目の妖艶な外見の持ち主だ。そしてサリーの婚約者であるクラウド・ストン伯爵令息は金髪に緑目の中性的な美青年だ。2人は家同士が決めた政略結婚目的での婚約者であったが、サリーはクラウドにとって良き婚約者であろうと彼女なりに努力していた。
「ルージュ令嬢が優しそうな方で良かったよ。」
婚約者として初めての顔合わせの時、クラウドはサリーにそう言った。サリーとしては失礼のないように最低限の態度を心掛けていただけなのだがクラウドにそう言って貰えた為、クラウドに対して優しくあろうと心掛けるようにした。クラウドが友人と会いたいから書類をやって欲しいと言われれば嫌な顔せず頷いたし、相談事があれば親身になって話を聞いた。クラウドは何時もお礼を言ってくれたし、見目麗しい婚約者を持てた事はサリーにとっても自慢であった為、問題なく過ごしていた。しかしクラウドの言葉でサリーの心中は穏やかではなくなり、怒りで埋め尽くされてしまった。
「あぁ、サリーがサファイア令嬢みたいな外見だったら文句ないのになぁ。」
「クラウド、お前贅沢言うなよ!」
クラウドは彼の親友であるデビット・カルパッチョ伯爵令息とレストランの個室で話をしていた。サリーはクラウドがデビットとレストランで会う約束をしていると聞いており、レストランの従業員にクラウドの婚約者である事を話して個室に案内してもらった。入り口前にいるサリーに、クラウド達はまだ気がついておらず笑いあっている。
クラウドが話すクレア・サファイア子爵令嬢は、銀髪に青目で細身の可憐な美少女だ。庇護欲を唆るような外見は社交界でも有名である。そんなクレアの外見に惹かれてしまうのは仕方がないのかもしれないとサリーは思う。だが、
「全くですね。サファイア令嬢の外見が好きだからといって私にそれを求められても困りますわ。」
思わずサリーがそう言うと、クラウドとデビットはギョッとしたようにサリーに気がついた。
「っ、サ、サリー?!」
「御機嫌よう、カルパッチョ伯爵令息。お話中すみませんがクラウドにこの場で話したい事があって来ました。」
サリーはデビットに挨拶すると、クラウドを睨み付けた。
「クラウド、貴女は私が貴女の好みじゃないからサファイア令嬢のように髪を染めろと言ってきましたよね。それなら貴方にも髪を染めて欲しいです。」
「…え、えぇっ!?」
「ク、クラウドお前、ルージュ令嬢に直接言ったのかよ…。」
デビットはまさか、クラウドが本人に容姿の事を言っているとは知らなかったようで気不味そうな顔をした。
「私、目の色の好みは特にないけれど黒髪で体格はがっしりとした筋肉質。そして男前な顔立ちの方が好みなんです。クラウドよりもカルパッチョ令息の方が私の好みなんですよ。」
デビットは黒髪黒目のいかにも男らしい顔立ちをしている。デビットはまさかクラウドを差し置いて自分が褒められるとは思っていなかったらしく少し嬉しそうな顔をしたが、すぐにサリーがクラウドの婚約者である事を思い出し顔を引き締めた。クラウドは婚約者以外の男を褒めたサリーに対して何とも言えない顔をした後、苦笑いをした。
「っ、あ、あはは。ご、ごめんねサリー。別に君を傷つけるつもりはなかったんだよ! だからそんな当てつけなんてやめてくれないか。」
「いえ、心からの本音ですよ。クラウドが私に対して思っていたように、貴方は初めから私の好みではありませんでした。」
サリーはそう言うと懐から宝石を2つ取り出してテーブルの上に置いた。透き通るような淡い青色の宝石と、黒みがかったような濃い紅色の宝石だ。どちらも相応の値がすると一目で分かる品だ。
「クラウド、貴方はどっちの宝石が好きですか?」
「…。」
突然の質問に戸惑い、暫く間があったがクラウドは青い宝石を指差した。
「えぇ、こちらを選ぶと思いました。貴方は青色を、そして淡くて透明感のある色を好んでますものね。ちなみに、こちらの紅い宝石はどう思いますか?」
「どう思うって…まぁ、綺麗だし価値があるのは分かるさ。」
クラウドは宝石自体は綺麗だと思っている。しかし紅色も、濃くて黒んだ色も好んでいない。それはサリーも知っている事だし何も問題ないと判断し、クラウドは思った事を素直に話す。デビットは何も言わずに2人のやり取りを眺めている。サリーはクラウドの言葉に笑みを浮かべた。
「クラウドのこの紅い宝石に対する思いが、私がクラウドに感じている想いです。クラウド、貴方の事は綺麗だと思いますし婚約者として価値があると思ってます。でも、私の好みではありません。」
サリーの言葉にクラウドは固まった。
「誰にだって好みはあります。でも誰もが好みの理想の相手と結ばれる訳ではありませんよね。私達は政略結婚の為に結ばれた縁ですし尚更仕方ありません。だから私はクラウドが私の好みでなくても、貴方に私の好みを押し付けて何かを要求するつもりなんてありませんでした。」
生まれ持った容姿は努力次第で変えられる部分はあるが並大抵の事ではない。髪を染める事だって時間も手間もかかるし、髪は伸び続ける為定期的に染めなくてはならない。そして顔立ちや体格なんかは変えようがない。だからサリーは誰であっても容姿について文句を言わないように心掛けていた。そして、婚約者であるクラウドにも。
「でも貴女は私の容姿に文句を言って、自分の好みのサファイア令嬢に近づけと要求してきた。心底腹が立ちましたし、赦せないと思いました…。」
「い、いや、その…べ、別に文句を言った訳ではないよ。そ、その、ただ僕の希望を言っただけで…。」
「こうして友人や周りに愚痴を言うだけならまだしも、私に直接言うだなんて…私を馬鹿にしているとしか思えませんよ。」
サリーの怒りにクラウドは慌てて言い訳をするがサリーは聞かない。
「まぁ、クラウドがどうしても私に髪を銀色に染めろと言うのならば貴方も髪を黒く染めて下さいね。お互いが相手の好みに近づく為に努力をするという事であれば私も考えますわ。まさか私にだけ自分の好みになれ、などと要求しませんよね?」
「…。」
サリーの言葉にクラウドは渋い顔をした。クラウドは自身の金髪を気に入っていて染めたくないと思っている。しかも黒髪はクラウドにとっては地味な色で好みではなかった。
「…まぁ、外見についてはまた話し合いましょう。取り敢えず私は今後、貴方に優しく接するのはやめますので理解して下さいね。」
「え…。」
どういう事だと言わんばかりに困惑した様子のクラウドに、サリーは真顔で話す。
「私はクラウドが私と顔合わせをした時に“優しそうな方で良かった”と言ったので、少しでも貴女の望む婚約者であろうと思い、優しくあろうと決意しました。でも今後は貴方の書類は手伝いませんし、相談事も乗りません。でも婚約者として必要最低限の礼儀は忘れませんので安心して下さいね。」
「っ、ま、待って欲しい! それは困るよっ!!」
慌てるクラウドをサリーは冷めた目で見返した。
「…優しく接した事で、私は貴方をつけ上がらせてしまったようです。私は優しいから何を言っても大丈夫だろうと貴方は勘違いをした。だから私に容姿について平気で侮辱出来たのですよ…。」
サリーはテーブルの上にある紅い宝石を掴み、掌の上に置いてクラウドの前に掲げた。
「…私は貴方に愛情なんてありません。尊重する想いも消えてしまいました。でも貴方は私の婚約者としての価値があります…いや、私がどう思っても政略結婚である以上私は他を選べません。妥協して受け入れるしかないんです。そして、貴方も妥協するしかない。」
クラウドはサリーの手にある紅い宝石を見た後、恐る恐るサリーを見た。
「…カルパッチョ令息、婚約者同士の話に巻き込んでしまってすみませんでした。」
「…っ、い、いや。」
サリーが申し訳無さそうに微笑むと、デビットは顔を引き攣らせながらも首を振った。
「クラウド、私の悪口は言いたければ幾らでも言って下さいね。でも、私の耳に入らないように配慮して下さい。今回は私が割って入ったので仕方ありませんけど、傷付きますから…。」
「あ…。」
サリーは笑顔だがその笑顔に圧を感じてクラウドは何も言葉が出なかった。
「私は今まで貴方の悪口なんて言った事はなかったけれど、これからは私も言わせて貰いますから気にしないで下さい。勿論、貴方の耳に入らないように気をつけます。では、失礼します。」
「っ!?」
サリーの最後の言葉にクラウドは顔色を悪くさせて固まったまま、サリーが出ていくのを見つめていた。デビットはそんなクラウドを気不味そうに見ていたが、ふとテーブルの上に置かれている青と紅の宝石が目に入った。紅い石はサリーが手に持った後、またテーブルの上に置いたようだ。クラウドにとって青い宝石はクレア・サファイア、紅い宝石はサリー・ルージュなのかもしれないとデビットは思った。そして、
「俺は紅い宝石の方が好みだな…。」
デビットは紅い宝石を見ながらボソッと、クラウドには聞こえない声で思わず呟いた。
ちょっと容姿の事を言われただけでここまで言うの? と思う方もいるかもしれませんが、よほど親しい仲ではないと容姿について何かを言うのは酷い侮辱だと思います。婚約者に対してちょっと思った事を言ってしまったつもりのクラウドですが、それが仇となりました。ちなみに宝石のイメージは青い宝石はアクアマリンです。淡くて明るい青色です。紅い宝石はパイロープガーネットです。黒が多く含まれている濃くて暗い赤色です。女性達はサファイア、ルージュという関係ないけど色だけは同じな苗字にしました 笑
最後まで読んで下さりありがとうございました! もし宜しければ評価して頂けると嬉しいです(*^^*)




