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アラサー男の週末異世界キッチンカー出店記   作者: 英 慈尊


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3/12

とある地方の遊園地

 かつてこの国には、バブル期と呼ばれた数年間があったらしい。

 現在の日本経済を思えば、夢物語としか思えない圧倒的ボーナス期間。

 その間は、もう日本中が狂騒的な雰囲気で、ありとあらゆることに金がつぎ込まれ、それはもうすごいことになっていたんだそうだ。

 俺たち世代にとっては、生まれる前にあったという伝説でしかないけれど。


 とはいえ、大昔の文明が史跡として形を残すように、令和の現在に至っても、当時を思わせる遺物のような存在は時折発見することができる。

 赤坂アークヒルズなんかがその代表例で、なるほど、これほどの代物をポンとこしらえたのだから、常軌を逸するほどの超好景気だったに違いないと思えた。


 そういう金にモノを言わせた大規模施設というものは、地方においても時折見られるものであり、俺が購入したてのキッチンカーを飛ばして駆けつけたこの遊園地も、まさにそのようなバブル期の残滓と呼ぶべき施設である。

 いや、残滓と呼ぶのは失礼が過ぎるか。

 ここは2025年現在においても元気に営業中であり、県内の人々を楽しませ続けているのだから。


「どうです? ディズニーとかに比べれば、そりゃあ劣るでしょうが、ここもなかなか悪くないでしょう?」


「いやいや、悪くないどころじゃありません。

 ここは、いい。

 こういう、なんていうんでしょうね?

 遊園地らしい遊園地というものは、そういえば、なかなかお目にかかる機会がないかもしれません」


 だから、今回のイベントを取り仕切るYさんに言われた俺は、素直な感心と共に答えたのである。


「そう言って頂けると、嬉しい」


「ここで、ハロウィンイベントをやるわけですか?」


 時勢ということだろうか。平日の遊園地内はインバウンドと思わしき客たちで、そこそこの賑わいを見せていた。

 なんでもない日でこれなのだから、休日……しかもハロウィンのイベントともなれば、かなりの集客が期待できるに違いない。


「そうなのです。

 キャストたちも、それぞれ予算がないなりに工夫したハロウィンの仮装となりましてね。

 普段より営業時間も伸ばして、大いに盛り上がるんですよ。

 まあ、これも、渋谷とかのに比べれば劣るのでしょうが」


「バカを言っちゃいけません。

 あんなのは、悪い例でしかありませんよ。

 まあ、私もネットの写真でしか見たことありませんが、とてもじゃないけど、楽しめるイベントとは思えない。

 我々は、節度ある楽しいイベントを作りましょう」


「作りましょう、ですか。

 ははは、これはいい」


 グワアアアアアアアアアアン!


 穏やかに会話する俺とYさんの頭上を、名物のジェットコースターが駆け抜けていく。

 遊園地という施設は、頭上の空間まで含めて有効活用しているのだ。

 ……もっとも、それが及ばない箇所もまた、存在するのだが。


「しかし、よいのですか?

 林田さんが希望されているのは、なんというかこう……袋小路みたいな場所ですが?

 まだ場所は余裕ありますし、他のキッチンカーと一緒に料理を提供してもらうことも、十分に可能ですよ」


「いえ、いいのです。

 今回は、私の実験を兼ねていますから」


 首をかしげながら尋ねるYさんと共に、我がキッチンカーのデビュー予定地へと辿り着いた。

 なるほど、これは、袋小路みたいな場所というか、袋小路そのものである。

 三方向を他の施設に囲まれていて、もはや他に行き場がないのだ。


「せっかく、個人でキッチンカーを購入したわけですから。

 私は、他のキッチンカーでやらないことをやってみたい。

 とりわけ、初回である今回は、キッチンカーの限界に挑戦してみたいという思いが強いわけです。

 それで考えたのが今回提供する料理であり、このような料理を提供するなら、人通りが多い場所よりも、こうして立ち止まってじっくりと食べられるような場所の方がいい」


「ははあ、なるほど」


 俺の言葉を受けたYさんが、感心しきりといった顔になった。

 なんというか、ひと回りほども年上の人にそんな態度を取られると、こそばゆい気持ちになるな。


「それに、当日予想される客入りを思えば、そこまで分の悪い勝負だとは思えない。

 結局、園内に常在する休憩スペースは全て埋まってしまって、あふれる人多数でしょうから」


 頭上で激しく動き回るジェットコースターが、ほぼ満席であることを確認しながら、Yさんに告げる。

 平日でこの客入りなのだから、おそらくは、俺の予想した通りになることだろう。


「そのあぶれたお客様たちが、こういった場所に入り込んでくるわけですか」


「ええ。

 それも、お腹を空かせた状態でです。

 他のキッチンカーで売っている串焼きとかだと、なかなかお腹は膨れないでしょうから。

 だからライバルは、他のキッチンカーというより、園内のレストランですね」


「それなら、我々側からすると心強い味方が林田さんになります。

 結局、レストランだけでは満席でまかないきれず、それでキッチンカーを依頼しているわけですから……」


「そう言って頂けると、腕の振るい甲斐があります」


 そんな風に、終始和やかな会話を交わしながら打ち合わせ兼視察は終わりを告げた。

 あとは、当日。

 俺の狙いが、当たるかどうかだ。


 だが、今回の試みは遊びみたいなもの。

 と、いうより遊び八割である。

 だから俺は、かつて人生をかけて『立ち食いらあめん林田』を開業した時と違い……極めてリラックスしていたのであった。


 当然、この後に待ち受ける思わぬ事態など、まったく想像もしていなかったのである。

 お読み頂きありがとうございます。

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