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アラサー男の週末異世界キッチンカー出店記   作者: 英 慈尊


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もう一度異世界へ!

 マイカー。

 男児であるならば、否応なしにテンションの上がってくる言葉だ。

 都心で暮らしならばなくてもどうにかなるし、迂闊に購入すると維持費で苦しむが、オーナーとして車を所有するという行為へ憧れを抱く者は多いだろう。

 俺自身、現在も日常の足として活用しているエブリイを購入した時は、チャチな軽自動車をヴィン・ディーゼル気取りで乗り回したものである。


 かように気分をアゲてくれるのがマイカーという存在であるわけだが、そのクオリティ・オブ・ライフ向上効果を極限まで高めてくれる素敵なオプションがこの世には存在した。

 すなわち……マイガレージ。


 エルフトラック改造のキッチンカーに大きさを合わせた結果、一般的なものとは異なりシェルドーム式なのがうちのガレージ。

 ぶっちゃけちゃうと頑丈ででかいテントに過ぎないため、最初に完成品を見た時は、ちょっと拍子抜けしたものだが……。

 実際にキッチンカーを収納してみて、考えが変わったね。

 閉鎖空間の中で静かに眠るマシンというのは、一種独特の格好良さがあるのだ。


 車を収納した状態で入口の幌を閉じるだけでもかなりの秘密基地感を得られるが、俺はせっかくなので、整備用の消耗品や工具もDIYして壁掛けしている。

 そうして生み出された光景は、カッコイイのひと言であり、その気になれば、これを肴にバーボンなど舐められるくらいであった。というか、舐めた。


「なかなかのもんじゃのう。

 まあ、あちらにある冷蔵庫と冷凍庫のせいで、少しばかり雰囲気が損なわれておるが」


 背後から告げられた声が指摘しているのは、ガレージ内の片隅に設置された家庭用大型冷蔵庫と業務用冷凍ストッカーのことである。

 確かに、自動車を手入れする品で固められたガレージ内において、食にまつわる設備であるこれらは、調和を乱しているといえるだろう。

 だが、飲食業をやる以上、これら二つは最低限にして必須の設備であった。


 むしろ、最小限度に留めているくらいである。

 エルフトラックを改造したキッチンカーは最大規模の大きさであるが、それでも、一日に捌ける客数の限界は150人程度だろうからな。

 そのくらいならば、家庭用の大型冷蔵庫と業務用冷凍ストッカーでなんとかなるだろう。


「仕方がないですよ。

 キッチンカーの付近に、これらは必須ですし」


「自分が住んでる家へ備えとけばいいのではないか?」


「住んでるマンションは墨田区です。

 そこから食材を運び込むのは、現実的じゃないですね」


 ちなみに、食材の仕入れで使っているのはプレコである。

 あそこは、通販サイト並みの気軽さで対応してくれるのが嬉しい。品揃えも豊富だしな。


「じゃあ、いちいちここまで通っとるのか?

 ようやるのお。

 正直、採算が合わんのではないか?」


「まあ、今はFIRE中なんで。

 経費と維持費を捻出できたらいいかなーくらいに思ってます。

 正直、お金目当てでは、あんな提案を受けませんよ」


「なるほどのお。

 お主は、ロマンに生きる男というわけか」


「まあ、そんなところです」


 答えながら、俺が振り返った先に立っていた人物……。

 それは、荘厳な装束で身を包み、背には不可思議な力で宝輪を背負った銀髪の美幼女――商業神ビタ・クエトであった。


「驚かんのか?」


 にまにまと笑いながら、俺を見上げてくる商業神だ。


「驚きましたよ。

 驚きましたけど……俺は、へそ曲がりなもので。

 驚いたのを素直に見せると、何かに負けた気がするのです」


「ははあ、へそ曲がりか。

 よいのお。物事を多角的に見れるというのは、大変な長所じゃ。

 本日この後も、あちらの世界を様々な観点から捉えるがよい」


 見た目は幼い女の子だが、鷹揚な精神性はさすがに神様ということか。

 商業神が、うんうんとうなずいてみせる。


「それで、時間ぴったりにどこからともなく入り込んできた神様。

 手筈通りなら、この後にまたあの場所へ向かうわけですが、どうすればいいんですか?

 俺は、ここで立っていれば」


「いや、車へ乗り込んでもらった方が、わしもやりやすい」


 商業神に促され、キッチンカーの運転席へと収まった。

 当然、ガレージの幌を閉じた状態で乗り込むのは初めてなわけだが……。

 こうしていると、ロボットアニメの発進シーンみたいで、やはり少し楽しい。


「ようし、それではレッツゴーじゃ!」


 果たして、自身も乗り込む必要はあるのか?

 俺に続いて、商業神も助手席の方へ勢いよく乗り込み――。


 ――ガリッ!


「「あ」」


 おい、今「ガリッ」って音がしたぞ「ガリッ」って!


「あの、神様?」


「い、いやー……あれじゃのう。

 猿も木から落ちるとか、弘法も筆の誤りとか、お主ら人間はなかなか含蓄深い言葉を残したもんじゃのう。

 まあ、そこまで言うと大袈裟ではあるが、例えば足の小指をタンスへぶつけるように……。

 不意の出来事というのは誰にでも存在するもので、想定外を織り込んだリスクマネジメントの徹底こそが寛容であると、商業神的には思うわけじゃよ」


「そんなバカでかい輪っかを背中へ浮かべているからでは?」


 「ガリッ」という不吉な音の正体……。

 商業神が背後へ浮かべている謎の宝輪を指差しながら、問いかける。

 そんなもん背負った状態で乗り込もうとしたら、そりゃドアや車体にぶつけるというものであった。


「あー、えっと……これはな?」


「……引っ込められますか?」


「……うす」


 観念したようにうなずく駄神の後ろで、宝輪が消失していく。


「……やれやれ」


 よじ登るようにして商業神が乗り込んでくるのを見ながら、眉間を揉み込む。

 コンパウンドで消せればいいのだが。

 お読み頂きありがとうございます。

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