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第九話

 ヴァージニアを連れてギルドに戻ると、入り口に立っていたレナードがメガネを直しながら静かに口を開いた。



「帰ってきましたか。ヴァージニアは仕事に戻ってください。本日のクエストは全てチェスターが持っていったとはいえ、書類仕事もあるのですからサボりは許しませんよ」

「わかってるわよ。それじゃアタシは仕事に戻るから」

「ああ、わかった」

「頑張ってください、ヴァージニア姐さん」



 ヴァージニアが受付業務に戻っていく中、レナードは私達に近づいて話しかけてきた。



「その様子だとヴァージニアの正体を知ったようですね。ですが、それは内密にお願いします」

「ああ、わかっている」

「ヴァージニア姐さんの正体が知られたら面倒な事になるからな。ちゃんと秘密にしとくさ」

「その方が私も望ましいです。色々面倒というのもそうですが……」



 他の受付嬢と話しながら仕事に励むヴァージニアを見ながらレナードはポツリと言う。



「ヴァージニアはここの職員ですからね」

「レナード、お前はやはり仲間思いなんだな」

「さて、どうでしょうね。ところで、もうクエストはありませんが、あなた達はどうしますか?」

「そうだな……せっかくだ、チェスターの様子でも見に行こう。チェスターが持っていったクエストは何がある?」

「色々ありますからね。それを答えても今そこにいるという確証はありませんよ」

「たしかにな……そうなると、チェスターの居どころを探るのは骨だな」



 アレックスが腕を組みながら考えていたその時、ギルドの扉を開けてチェスターが入ってきた。



「無事にクエストを達成した。対応を頼む」

「ん……なんだ、チェスター帰ってきたじゃ――」



 アレックスの言葉はそこで途切れた。それはそうだろう。何故ならば、扉を開けて入ってきたのは一人だけじゃないからだ。



「こちらも終わった」

「同じく任務を遂行したぞ」

「しっかりとクエストを終わらせてきたぞ」



 一人、また一人とチェスターがギルドに入ってくる。私やレナードにとっては見慣れた光景だが、アレックスとバウルからすれば初めての事であり、アレックスが口をあんぐり開けながら見る中でバウルは警戒した様子で吠え始めた。



「な、何が起きてるんだ……? チェスターが何人もいるぞ……!?」

「ああ、そうだな」

「いつもの事ですね」

「いやいや! リサ姐さん達からすればいつもの事でしょうけど、俺とバウルからすれば何が起きてんのかわからないですよ!?」



 アレックスが狼狽している内にチェスター達は次々に受付へと歩いていき、ヴァージニア達にクエストの達成の証拠となる物を渡し始めた。



「あれがチェスターのやり方だ。そもそもここに所属している冒険者は私とチェスターだけなのだが、クエスト自体は次々に出てきてしまう。そうなると、達成出来ていないクエストが増えていき、ギルドの仕事が大変になってしまうだろう?」

「それはたしかにそうですね。それだといつか溢れてしまいます」

「そこでチェスターが編み出した魔法が活きる。あれは『分身魔法(ディビジョン)』という魔法で創られたチェスターの分身で、その戦力は本体と同じだ。だから問題なくクエストもこなせるし、加えて『移動魔法』も使えるから遠方でのクエストでも問題ないんだ」

「あの、リサ姐さん……愚問かもしれませんけど、チェスターの冒険者としてのランクって……」



 アレックスが恐る恐る聞くと、レナードが静かに答えた。



「Sランクですよ。これはグランドギルドでも認められている事ですし、証明書もあります。今さら疑う余地はありませんがね」

「そんなチェスターがこのキジョのギルドにいるべきではないと言う奴もよそにはいるみたいで、Sランクの冒険者が所属しているという事実が欲しいだけでスカウトにくるギルド長や冒険者パーティーもいるが、チェスターはそれを全て断ってここに居続けている。本人曰く、ここでの暮らしに満足しているし、よその人間との関わりに興味はないんだそうだ」

「まあチェスターの出自を知ったら好奇の視線を向ける者は多いでしょうし、なんなら迫害しようとする者も出るでしょうからね。ここならそういう者もいませんし、チェスターからすれば過ごしやすいのでしょう」

「そうだな。さて、チェスターも戻ってきたし、他のクエストもない。私達も今日のところは帰って休むとしよう」



 アレックス達が頷き、ギルドを出ようとしたその時だった。



「ん……おい、一人足りなくないか?」



 チェスターの一人が辺りを見回しながら言った。



「レナード、今日のクエストの枚数はわかるか?」

「ええ。たしかにそれを考えるとチェスターが一人足りませんね。普段ならば全員がほぼ同じタイミングで帰ってくるのですが……」

「もしかして、その一人の身に何かあったんですかね……」

「可能性はあるな。レナード、残ってるクエストはなんだ?」

「少し待ってください。いま確認しますから」



 レナードは真剣な顔をしながらヴァージニア達が受け取ったクエストの紙を確認していく。そして最後の一つを確認し終えると、深いため息をついた。



「……なるほど、それですか」

「なんだったんだ?」

「ここから西方へ行った先にあるダンジョンでのクエストです。たしかに難易度としては高いですが、チェスターほどの実力者ならば問題ないほどのクエストのはずです。恐らくイレギュラーな出来事があったのでしょう」

「イレギュラーな出来事……姐さん、チェスターに何かあってからじゃ遅いですし、俺達で様子を見に行きませんか?」

「ああ、そうだな。レナード、クエストの内容は?」



 レナードは真剣な顔のままで答えた。



「ダンジョンの奥深くから聞こえるという謎の声の調査です。それ自体はさほど難しくはないですが、道中で遭遇するモンスターのほとんどがAランク級なのでその点からこのクエストはAランク判定されています」

「なるほどな……」

「リサ、チェスターが一人戻ってこない以上、私達の想像を遥かに超える事態が起きている可能性はあります。十分に気をつけて行ってくださいね」

「ああ、もちろんだ。よし、準備したらすぐに出発するぞ!」



 アレックスとバウルが頷いた後、私達はチェスターを助けに行くために準備を始めた。

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