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第六話

「そういえば、お前とこうして何度か手合わせはしているが、それでも剣が届いた事はないな」

「まあね。何かあってもアタシにはこの扇子があるし、魔法で防御も出来る。並大抵の攻撃ごときでアタシを傷つけられると思わない事ね」

「たしかにな。だが、今日こそは私の攻撃を届かせてみせる! さあ、戦いを続けよう!」

「アンタってほんと戦い好きよね……まあでも、アタシも何だかんだで戦うのは好きだし、今日もアンタが疲れ果てるまで付き合ってあげる。感謝しなさい」

「ああ。さて、今度はこれだ!」



 私は剣を頭上に力いっぱいに放ってヴァージニアに向けて走り出す。そしてヴァージニアの警戒が宙を舞う剣に向く中、私は拳を固めながらヴァージニアとの距離を縮めた。



「受けてみろ、旅の中で出会ったモンクから習った格闘術! くらえ、『飛翔龍撃(ひしょうりゅうげき)』!」



 足のバネをうまく活用しながら踏み込み、ヴァージニアのアゴをえぐるようにしながら固めた拳を上へと突き上げようとした。しかし、それもまた余裕そうな笑みを浮かべたヴァージニアの扇子に阻まれる。



「残念。それもお見通しよ」

「本当にそうかな?」

「え?」



 ヴァージニアが疑問の声を上げる中、頭上に放り投げていた剣が縦に回転をしながらヴァージニアに向けて落下し始めた。真っ正面から向かっていって攻撃を見切られるなら、死角からの攻撃ならすぐには対応出来ないはず。そう思っていた矢先、ヴァージニアは扇子で私の拳を受け止めながらニヤリと笑った。



「へえ、アンタらしいいい考えね。でも、それすらも私には届かないわ」



 その瞬間、ヴァージニアの足元から何本もの骨の手が伸びていき、それらはヴァージニアに向けて落ちていた剣をいとも簡単に受け止めた。



「くっ……!」

「中々見せる機会がないこれを披露しないといけない辺り、やっぱりアンタはすごいわね。まあでも、この『死者の手(ネクロハンド)』を久しぶりに見られて私も少し嬉しいわ」

「なるほど。まだまだヴァージニアには私も知らない奥の手があるという事か」

「アタシだって色々な戦い方が出来るからね。さて、『死者の手』にも出てきてもらったし、それなら他の奴らにも出てきてもらいましょうか!」



 ヴァージニアは嬉しそうに言うと、地面に手をつけた。すると、『死者の手』が消えていくと同時に地面からは大量の水が溢れだし、私達の身体は少しずつ水に包まれていった。



「なんだこれは……『水柱魔法(フラッド)』のようにも見えるが、これは違う魔法なのか……?」

「ふふ、よく見なさい。油断してるとその間にこの子達にズタボロにされるわよ」

「む……こ、これは……!」



 よく見ると水中では透明な魚が泳いでいた。大きさや種類も幅広い透明な魚達は私にぶつかると一瞬形が崩れ、通りすぎると同時にまた元の魚の形に戻った。



「まさかこれは……水で出来た魚か?」

「その通りよ。これがアタシの『水中遊泳(ウォーターサーカス)』。そしてどうせならこれも見せてあげるわ!」



 ヴァージニアが両手を合わせるとその背中から緑色の光の翼が生え、その翼でヴァージニアは空に飛び上がり、翼を羽ばたかせながら私を見下ろした。



「これは『緑嵐の翼(ストームウイング)』。別に『水中遊泳』の中でも息は出来るけど、せっかくだからアンタの事を上空から見下ろしたかったのよね。普段とは逆にね」

「く……!」



 身体が完全に水に包まれて空気を吸えずに苦しさを感じる中で上空に浮かぶヴァージニアは手をかざした。



「さあ、行きなさい! アタシの可愛い魚達!」



 その言葉と同時に自由に動いていた魚達は一斉に私に視線を向け、次々に襲いかかってきた。



「くっ、この……!」



 私は拳で魚に対して応戦していたが、水の魚だからこそいくら攻撃を加えても一時的に砕けるだけでまた再生し、再生した水の魚達は攻撃を加える時のみ硬化して私に鋭い牙で噛みついてきた。



「ぐっ……!」

「ふふ、いいわねえ。そのまま魚達に遊ばれていなさい!」



 ヴァージニアが楽しそうに言う中、私は水の魚に対抗する術もなくただ攻撃を受けるだけになっていた。そして肌が裂け、そこから染み出した血が水を赤く染めていくと、水の魚達も同時に赤く染まり、より魚達の位置を見つけづらくなった。



「どうにかしないといけないが、どうしたらいいんだ……!」



 ヴァージニアの攻撃への対策が思い付かず、ただなぶられるだけになっていたその時、ふとヴァージニアを見ると、その表情がどこか焦ったものに変わっていた。



「アイツ、どうしたんだ……?」



 その疑問を投げ掛けようとしたその時、ヴァージニアは指をパチンと鳴らした。すると、私を覆っていた水はパチンという音を立てながら消え、私の身体が倒れていく中でヴァージニアが翼を使って降りてくるのが見えた。



「ちょっと、大丈夫!?」

「あ、ああ……大丈夫だ。ここまでやられるとは思っていなかったから驚きはしたが、このくらいは平気だ」

「そう。それならいいけど……」



 ヴァージニアがホッとしながら言っていた時、私はある疑問についての答えを知る事にした。



「そういえば」

「ん?」

「ヴァージニア、お前はさっき焦っていたようだがどうしてだ?」

「え……そ、それは……」

「もしかして……」

「え……?」



 ヴァージニアが驚く中、私は頭に浮かんだ答えを口にした。



「トイレでも我慢していたのか?」

「……は?」

「そうか、それなら勝負を中断してでもどうにかしたいと思うな」

「え、ちょっと待って……」

「いや、さっき安心した顔をしていたな。つまり、お前はも――」

「漏らしてないからー!」



 ヴァージニアが声を出すと同時に空から雷が落ちる。そしてそれは私をすり抜けてアレックスへと当たった。



「な、なんでオレなんですかー!?」



 雷に打たれたアレックスが倒れながらまたシクシク泣き、それに対してシルバーウルフが慰めるように前足を置く中、赤い顔のヴァージニアはどこかへと走り去っていってしまった。



「ん、まだトイレは済んでなかったのか。そんなに焦ると転ぶぞー」

「リサ、あなた本気でヴァージニアがトイレを我慢してると思っているんですか?」

「そうじゃないのか?」



 私が首を傾げる中、レナードとアルバートはため息をつき、広場のみんなは私達の戦いの感想を言い合いながら賑わい始めた。

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