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第五話

「ありがとうございます、二人とも。これでグランドギルドにいい報告が出来ますよ」



 クエストを終えてキジョの街に帰って来た後にギルドに報告をすると、レナードは淡々とした様子で言った。私の隣には私をチラチラ見ながら腰に手を当てるヴァージニアとしょぼくれた顔のアレックス、そしてその隣には綺麗な姿勢でお座りをするシルバーウルフがいた。



「それで、そのシルバーウルフはもしや飼うのですか?」

「私の喉笛を狙って飛びかかってきていたんだが、ヴァージニアの魔法で返り討ちにあってな。それで回復させてやったらついてきてしまったんだ」

「コイツが言うには、強い奴に従うのは当然の事であり、敵でありながら傷を癒してくれた姐さんには恩義があるから群れを離れてでもついていくべきだと感じた感じたから、だそうだ。まあ気持ちはわかるが、このままじゃ姐さんは剣士を辞めてテイマーにでもなっちまいそうだ」

「だが、クエストを受ける上で戦力が増えるのはいいことだ。今回のような後始末をする場合、少しでも戦力があればより早く仕事を終えられるからな」

「それには同意です。とりあえず今回のクエストの報酬をお支払しますね。アルバート、お願いします」

「了解っす!」



 執務室の隅にある金庫からアルバートが金貨などが入ってるであろう袋を取り出し、私に渡してきた。



「はい、リサさん。今回もお疲れさまっす」

「ありがとう」

「そういえばアンタ、中に邪神を封じてるらしいな。なんでそんなことになったんだ?」

「んー? ああ、俺さ邪神シヴォーを信仰してる邪教の奴らに小さい頃に拐われてさ。抵抗しようとしてた親父とお袋は目の前で殺されちまったんだよ。それでアイツらが俺の身体を依代にしてシヴォーを呼び出そうとしたら、思ってたよりも俺とシヴォーの相性がよくて意識乗っ取られずにシヴォーの力を使えるようになったはいいんだけど俺には有り余る力過ぎて暴走しがちだったんだよ。そんな時にレナードさんと出会って力の使い方やシヴォーとの意志疎通のやり方について一緒に学んでいった結果、俺もレナードさんについてきてここの職員になったんだ。へへ、懐かしいな」

「懐かしいでいいのか、その話……」



 アレックスが信じられないといった顔をする中、私はアルバートから受け取った報酬を持ちながらレナードに話し掛けた。



「レナード、お前もたまには外に出ないか? お前の強さを久しぶりに見たいんだ」

「ボーナスを出してくれるなら考えましょう。それよりヴァージニアを誘ってあげては?」

「ヴァージニアをか……たしかに、久しぶりにヴァージニアとも戦いたいな。ヴァージニア、構わないか?」

「え? ま、まあ……アンタがどうしてもって言うならやってあげなくもないけど」

「ありがとう。では早速やろうか」

「う、うん」



 袋をアレックスに渡してから私達は外に出て、街の広場に向かった。広場では幾つかの店が賑やかに商売をしていたが、私達が来たのを見ると注目し始めた。



「お、リサとヴァージニアが来たぞ!」

「二人とも買い物かい?」

「いいや、久しぶりにヴァージニアに胸を借りようと思ってな」



 その瞬間、ヴァージニアの顔が真っ赤になる。



「む、胸……!? アタシの胸で何しようっての!?」

「ん、何か変な事を言ったか?」

「な、なんでもない! ほら、さっさと力比べするわよ!」

「ああ」



 私とヴァージニアは向かい合った後に軽く距離を取る。そしてそれを見た街のみんなは途端に騒ぎ始めた。



「リサとヴァージニアが勝負するのか! これは目が離せねぇな!」

「ほら、アンタ! さっさとその売り物をしまってアルミラージの串焼きを作るんだよ!」

「酒も用意しないとな!」

「どっちが勝つか賭けようぜ!」

「いいねえ、負けた方は今晩の酒おごりな!」



 そんな声がちらほらと聞こえてくる。昔ならば勝敗を賭け事に使われるのを嫌がったかもしれないが、今は別に気にしていない。むしろみんなが楽しんでくれるならそれはそれでいいだろう。



「ヴァージニア、本気で来ていいぞ。私もたまには本気で戦いたいからな」

「わかったわ。アンタの強さは知ってるけど、それでも言っておくわね」



 ヴァージニアは静かに笑ってから膨大な魔力を漂わせ始めた。



「死なないように気をつけなさいね」

「もちろんだ。さあ始めようか、ヴァージニア!」

「ええ!」



 ヴァージニアがどこからか扇子を取り出す中、私は剣を鞘から抜いてそのまま駆け出した。そんな私を見ながらもヴァージニアは余裕そうな笑みを崩さずに立っており、私はヴァージニアの身体を切り裂くようにして剣を振るった。しかし、その剣は“扇子”に阻まれてヴァージニアには届かなかった。



「くっ……!」

「やっぱりアンタの速度は大したもんね。でも、その速度じゃアタシには届かない。この特別製の扇子があればアンタの剣だって受け止められるしね」

「やはり一筋縄ではいかないか……! だが、これならどうだ!」



 私は後ろに軽く跳びながら詠唱をし、終えた後にヴァージニアに手をかざした。



「『爆裂魔法(バースト)』!」



 狙ったところに爆発を起こす『爆裂魔法』を使うと、ヴァージニアの目の前で爆発が起き、辺りは白い煙に包まれた。



「流石はリサ姐さんだ。これならヴァージニア姐さんも流石に……」

「いや、そんなことはない」

「え?」



 アレックスが不思議そうな顔をする中、白い煙は突然吹き始めた風によって流れていき、白い煙の中から現れたヴァージニアは不敵な笑みを浮かべながら周りに風を纏っていた。



「いい爆発だったわ。でも、この風の前ではそんなの大したことないの」

「やはり厄介だな。お前の“無詠唱”は……!」

「無詠唱……え、ヴァージニア姐さんって魔法を詠唱なしで使えるんですか!?」



 アレックスが驚く中、私は頷いてから答えた。



「そうだ。本来詠唱を終えてこそ魔法は真価を発揮する。だが、アイツは無詠唱でも魔法の威力を最大限に発揮できる。その恐ろしさはお前も知っているはずだぞ、アレックス」

「た、たしかに……というか、魔法の名前すら出さずに使ってたような……」

「そこも厄介なところだな。さて、どう戦っていくか……」



 悠然と立つヴァージニアを前にしながら私は剣を持ち直した。

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