第十四話
アレックス達に後を任せて走る事数分、ギルドの前に着くとそこには多くの兵士と戦うレナードとアルバートがいた。
「レナード! アルバート!」
「おや、リサにチェスター。チェスターの分身が一斉に消えたので何かあったのかと思いましたが、二人とも無事でしたか」
「二人ともお疲れ様っす!」
戦いの最中でありながら二人はなんて事ない様子で答えてくる。流石は実力者の二人だ。レナードは長身な自分の身長よりも大きな鎌を振るい、アルバートは邪神シヴォーが有する魔力を弾にして次々と撃ち出して戦っている。だが、レナードの鎌は容赦なくアルバートすらも切り裂かんばかりに振り回されていて、アルバートは器用にそれを避けながら戦っていた。
「おっと……ギルドちょー、今日もいい振り回しっぷりっすねー!」
「ありがとうございます。ですが、一々あなたに気を遣って戦う気はないので避け続けないとあなたも死にますからね。勝手に気を付けててください」
「うっす!」
アルバートが嬉しそうに答えていると、シヴォーがアルバートの身体を借りて喋り始めた。
『この男、邪神たる我ですら少々気味が悪いと感じる。だが、その強さは折り紙付きだ。ならば利用するのみだな』
「言い方悪いなあ、シヴォー。けどまあ、俺はギルドちょーの事は好きだし、その戦い方を否定する気はない。このままギルドちょーとガンガン頑張ってくぜ!」
「まったくあなたという人は……」
レナードは呆れたように言ってから鎌を下ろす。
「あなたはとても危なっかしい時が多く、まだまだ未熟です。ですが」
メガネを指で押しながら言うと、再び大鎌を構えた。
「私もあなた個人を好ましいと思っています。いつもまっすぐで苦難を何でもないように乗り越えては常に笑顔を浮かべている。私にはない物ですし、邪神をその身に宿しながらもそうなのですから評価に値すると考えていますよ」
「ギルドちょー……」
アルバートはポカーンとした後にパアッと顔を輝かせた。
「シヴォー! ギルドちょーが評価に値するって言ってくれたぞ!」
『落ち着け、アルバート。ならばその嬉しさを噛み締めながら奴のために戦えばよいだろう?』
「へへっ、だな! うっし、そうと決まればもっとはりきってこうぜ!」
『本当に単純な小僧だ……だが、このまま愚かな民草どもにアルバートを討たれ、アルバートの命を盾に我が傀儡の真似事をさせられるのは我慢ならん。よって、我らに仇なす愚民達に力の差を見せつけてやるとしよう』
「おうよ!」
アルバートが力強く頷きながら答え、レナードも再び鎌を振るい始める。他の職員達の姿が見えないが、きっと街のみんなを避難させているんだろう。
「ここは二人に任せてよさそうだ。チェスター、私達は今回の騒動の首謀者である勇者を探すぞ」
「ああ、そうだ――」
「リサ姐さーん! チェスター!」
その声を聞いてそちらに顔を向けると、ニアを伴ってアレックスとバウルが走ってきていた。
「お前達、大丈夫か?」
「はい! 『白金の翼』のメイジーとクラリスの二人が現れましたが、難なく倒してきましたよ!」
「アレックスったら私の魔法を受け続けた事で他の相手からの魔法ではダメージを受けるどころか気持ちよさそうにしてて、それで受けてもらいながら私の力とバウルの攻撃で圧倒出来たのよ」
「ニア姐さん……気持ちよさそうという言い方だけだとなんだか違う感じになりません?」
アレックスが少し困ったような顔で言っていると、チェスターが何かを思い出した様子でポンと手を打った。
「そういえばそういった奴を指し示す言葉をこの前聞いたな。たしかマゾヒ――」
「そういうんじゃなくて! ただ単にニア姐さんの魔法を連続して受けてたからかアイツらの攻撃程度じゃビクともしなくなっただけだって!」
「まあそれはいい。ところで、メイジーとクラリスはどうした? どうにかしたとはいえ、アイツらを放っておいたらまた何かしでかさないか?」
「ああ、それなら問題ないですよ。そうですよね、ニア姐さん」
アレックスの言葉に対してニアが頷いた。
「ええ。私の『捕縛魔法』で動きを止めた後に『吸収魔法』で魔力を吸収して完全に無効化。その後になんだか二人して騒いでたから私が創り出した『欲望魔法』で欲望を解放させたらなんか二人でくんずほぐれつし始めたからそのまま放置してきたわ。今ごろ色々見せられない状態になってるんじゃないかしら」
「色々見せられない? なんだ、何が見せられない状態になっているんだ?」
「あの……リサ姐さん? 一応聞いておきますけど、リサ姐さんってこれまで色恋とかって興味持ってきました?」
「色恋か……昔から剣の修練ばかりしてきたし、私より弱い男には興味がなかったからな。それに、私には魅力がないのか街の男衆も一切それらしい話をしてこなかったから、色恋に関わった事もなければ興味関心もさほどないというのが正直なところかもしれないな」
もっとも、私にそういった事を言ってくる男がいたところで、やはり私より強いのかどうか確かめるために一度手合わせをして、負けるようであればそのまま去ってもらう事にはなるだろう。
「そう考えると……私にとって理想の相手はニアになるのか?」
「へえ、あなたの理想は私なの……は!?」
「そうだな。ニアは私よりも強く、そして知識や技量もあって教養もあるようだ。それなら私にとってニアは理想の相手で、ニアは何かと世話も焼いてくれるから私も色々と言いやすく共に生きていっても私は幸せを感じられるだろう」
「ちょ、ちょっと……」
「ただ、ニアは同性だからな……伴侶という形にはならないのか。ふむ……中々難しいものだな」
ニアが膝をつきながら呆ける中、アレックス達は顔を見合わせながらため息をついていた。
「お前達どうした? やはり疲れているのか?」
「いえ……こう、なんて言えばいいのか……」
「リサ、それならニアが異性だったならお前は伴侶として選んでいたのか?」
「そうだな。さて、この話はここまでにしてそろそろ行こうか。アイツを、アーノルドの奴をどうにかしないといけないからな」
アレックス達がため息をつきながら頷いた後、私達はアーノルドを探すために歩き始めた。