第十二話
「勝てた、か……」
流石に力が尽き、私の身体が揺れる。けれど、倒れきる前にヴァージニアがしっかりと支えてくれた。
「大丈夫なの?」
「ありがとう、少し力が抜けただけだ。そういえば、今のは……」
「地の四天王の屍術師トスタよ。リサが戦った時は全盛期の姿だったかもしれないけど、普段は穏やかな性質のおじいさんなの」
「なるほどな……という事は、私との手合わせの時に使ってきたのは全て……」
「ええ、リサ達が倒してきた四天王達の力よ。私、結構四天王達から可愛がってもらっていたからか四天王達が倒されると同時にその力が私の中に入ってきてたし、力を借りる際にはあんな風に会話も出来るの。だから、いつも四天王達が私を見守ってくれてるわ」
ヴァージニア、いやニアが嬉しそうに言う。それだけニアにとって四天王達はやはり大切な存在であり、身近な存在だったのだろう。そんな四天王達の力を受け継ぐと同時にその死を感じた時、ニアは大きな喪失感を味わっただろう。たとえその後、また会話が出来たとしても。
「そういえばどうしてヴァージニアがここに? 受付業務はいいのか?」
「あ、そうだった……さっきの奴の相手をして疲れてるかもしれないけれど、すぐにあなた達に戻ってきてほしいの。キジョの街が、みんなが大変な事になっているのよ」
「大変なこと? ヴァージニア姐さん、一体なにがあったんですか?」
「勇者が、『白金の翼』達が大群を率いてキジョの街にきているのよ。あの街はこの世界に相応しくないとか言っていて、街を壊滅させた上にみんなを捕まえて捕虜にするらしいわ」
「なんだと……!? 」
ニアの言葉を聞いて私は驚愕した。たしかにあの男は身分が低い者や素行が悪い者を毛嫌いするところはあったが、だとしてもそこまでする必要はあるのだろうか。
「それはまずいな……レナードやアルバートはいるが、キジョの街で戦える奴はそんなに多くない。俺達の到着が遅ければ、街は壊滅して全員が捕虜として捕らえられてしまうぞ」
「そうだな。ヴァージニア、伝えに来てくれてありがとう。私達もすぐに戻るから、お前は先に戻ってみんなを避難――」
「いえ、私も戦うわ」
ニアが真剣な顔で言う。その目には怒りがこもっており、勇者達の傍若無人な言動にたしかな怒りを感じているのだろう。
「お父様の敵討ちもしたいし、私だって戦うだけの力はある。だから、私だって戦うわ」
「ヴァージニア……」
「いえ、今の私はニアよ。今だけはギルドの受付嬢のヴァージニア・リッジウェイじゃなくて魔王ディザスターの娘のニア。四天王達と一緒にお父様の無念を晴らすのだから」
「……わかった。だけど、無理だけはするな。お前が死んだらもちろん私達が悲しいが、今ごろ冥府で私達を見ているディザスターに死後とんでもない目に遭わされてしまうからな」
ニアは一瞬キョトンとしたが、やがてクスクス笑った。
「お父様ならあり得るわね。とりあえず私も『移動魔法』は使えるから、一緒にキジョまで戻りましょう。チェスター、あなたまだ魔力は残ってる?」
「ああ、問題ない。たとえ疲れていても、街のみんなが大変な時に一人休んでなどいられない。すぐに街に戻るとしよう」
「そうだな。よし、戻るぞ!」
全員が頷いた後、私達は『移動魔法』を使ってダンジョンを後にした。そしてキジョの街に戻ってくると、門番達が苦しそうな顔をしながら門の前で倒れていた。
「お前達、大丈夫か!」
「く……ああ、リサにチェスターか」
「お前達が戻ってくるまでは食い止めようとしたんだが……流石は勇者、俺達では歯が立たなかったぞ……」
「街のみんなはまだ無事か?」
「今はレナード達がどうにかしてるはずだが……」
「それでもきっと長くは持たないはずだ。早く行ってやってくれ……」
門番達は苦しそうにしながらも先に行くように私達を促す。二人のその様子に私は心がズキズキと痛んだ。
「……ニア、二人の手当てだけしてやってくれ。その後になら追いかけてもいいから」
「リサ……ええ、わかった。けどあなただってさっきの戦いの傷はまだ癒えてない。無理はしないようにね」
「わかっている。それじゃあ頼んだぞ」
ニアが頷いた後、私達は門をくぐって街の中に入った。街の中では勇者達が連れてきたと思われる兵士達が街のみんなを捕まえようとしており、兵士達の表情は弱いものいじめを楽しんでいる物だった。
「くそ……みんなを離せ、この痴れ者がー!」
近くにいた兵士を突き飛ばしてソイツに捕まっていた酒場の女主人を助け出す。
「おい、大丈夫か? 怪我はないか?」
「ケホッケホッ……ああ、リサかい。アタシは怪我してないけど、他の女連中やガキ共が心配だ。勇者なんて言うけど、結局は自分の勝手にしたいだけのガキでしかないんだねぇ……」
「アイツはそういう奴だったからな。とりあえずみんなはどこかに避難を――」
「てめぇ……はぐれ者の分際でよくも……!」
突き飛ばされた兵士が逆上して向かってくる。途端にアレックスが言っていた事を思い出す。
「“ヒューマンのように勇敢と蛮勇をはき違えるような奴はモンスターにはいない”か。たしかにその通りだな」
「何をごちゃごちゃと……!」
「己の強さと相手の強さすら比べられないような愚か者に用はない。そこを通してもらうぞ!」
剣を抜くまでもなく私は抜いた拳で兵士を鎧ごと殴り付ける。すると鎧が大して手入れをされていない物だったのかピシッという音を立てながらヒビが入り、鎧を通して衝撃を受けた兵士は白目を向いて泡を吹きながらその場に仰向けで倒れた。
「ふん、大した訓練も積んでないような未熟者が。お前のような奴に使われる鎧も武器も可哀想だ」
「流石だねぇ、リサ。とりあえずアタシはまだ捕まってない奴らを見つけて一緒に逃げておくから、レナード達の方は任せたよ」
「ああ、わかった。アレックス、バウル、お前達はこの辺りで街のみんなを助けながら兵士達を倒していてくれ。その内にニアも来るだろうからその時はギルドの方に向かったと伝えてくれ」
「承知しました、姐さん!」
「バウ!」
アレックスとバウルが答えた後、私はチェスターと頷きあってからギルドがある方へと向かった。