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第十一話

「チェスター、まだ動けるか?」

「コイツを退けた後に少しずつ回復はしていたからな。『分身魔法』で多少魔力は使っていたが、それでもお前達を援護するだけの魔力はまだある。だから俺もお前達と共に戦うぞ」

「それは心強いな」



 久々のチェスターとの共闘に嬉しさを感じていると、異形の怪物は言葉になっていないうめき声を上げながら幾つも生えた腕を勢いよく私達に伸ばしてきた。



「耳障りだな……こんな気持ちの悪い声よりもヴァージニアの歌声の方が聞きたいものだ、な……!」



 伸びてきた腕の攻撃をかわしながら私は鞘から抜いた剣でその腕を絶ちきる。絶たれた腕は白い煙となって消えたが、切られた箇所からは瞬く間に新しい腕が生えてきていた。



「くっ、これではキリがないな……!」

「この様子だと顔や足だってすぐに再生しそうですしね……というか、いまヴァージニア姐さんの歌声って言ってましたけど、聞いた事あるんですか?」

「ああ、あるぞ。前に鍛練の合間に休憩していたらそこにヴァージニアが現れてな。仕方ないから膝枕をしてやると言われたからその事場に甘えてしてもらったら見事な歌声を披露してきたんだ。甘く優しい旋律にいつの間にか私はまどろんでいて、昼頃に鍛練をしていたはずなのに気づいたら夕方になっていたぞ」

「ヴァージニア姐さんがそんな事を……姐さんなりに勇気を出したんだろうなあ」

「ん? 人に歌声を聞かせるのは勇気がいる事なのか? だとすればヴァージニアのあの行動は大したものだが……」

「姐さん、そういう事じゃないです……」



 アレックスがため息をつく中、バウルはなんとも言えない顔で首を横に振り、チェスターは額を押さえながら目を閉じた。なんだかわからないが、少なくともあの歌声はまた聞きたいと感じた。ならばそれとは比べ物にならない程に酷い声を出すコイツを早く倒して、キジョの街に戻ってからヴァージニアに頼む方がいい。



「そのためにもまずはコイツの攻略法を考えないとな。一般的にゴースト系は武器での攻撃が効かず、神官やシスターが使える聖力での攻撃を弱点としている。一応私も聖力を使った攻撃は出来るが、それでも本職ほどの威力はない。だから、ある程度のダメージを与えた後の止め程度に考える方がいいだろう」

「ヴァージニア姐さんもそうですけど、リサ姐さんも結構色々な戦い方が出来ますよね。オレ達としては心強いですけど」

「『白金の翼』にいた頃、剣を振るうだけではいけないと考えて様々な戦い方を身に付けようとしたからな。リーダー達はそんなやり方を好ましく思ってはいなかったようだが」

「結局自分達が全てなんでしょうしね。とりあえずオレ達が援護しますから、姐さんはやられないように注意しながら聖力での止めをお願いします!」

「わかった。みんな、いくぞ!」



 そしてアレックス達はそれぞれの方法で攻撃を始めた。アレックスの焔とバウルの爪と牙、そしてチェスターの多彩な魔法攻撃は少しずつ異形の怪物を追い詰め、怪物もやがて弱々しい声を上げ始めた。



「よし、これなら……!」



 そう思っていた次の瞬間、怪物の腕の一本が目にも止まらぬ速さで私に伸び、それは私の腹部を強く殴り付けた。



「ぐふっ……!」

「姐さん!」

「リサ!」

「バウ!」



 アレックス達の声が聞こえる中、私は苦しさを感じながらその場に膝をついた。『白金の翼』にいた頃から油断はするものじゃないとわかっていたはずだが、どうやら少し気が緩んでしまっていたらしい。



「不覚……!」



 私がやられたら止めの攻撃を使える者はいなくなり、また撃破まで至らずにコイツは退却して回復してしまう。それでは意味がないのだ。



「くそ……このままでは……!」

「なんてざまなの、リサ」



 その声に私は背後を振り返る。そこにはいつもの制服から黒いドレスに着替えたヴァージニアが立っていた。



「ヴァージニア……」



 ヴァージニアはゆっくり歩いてくると、私に手を差し伸べてきた。



「いつものアンタらしくないわね。なんか考え事でもしてたの?」

「なに、コイツの声があまりにも聞くに堪えないのでな。それならばまたヴァージニアの歌声を聞きたいと思っていただけだ」

「あ、アタシの歌声を……そ、そう……」



 ヴァージニアは俯きながら顔を赤くする。怪物は現れたヴァージニアに対しても腕を伸ばしてきたが、ヴァージニアはそれを目視する事なく扇子で切り裂いた。



「邪魔よ、下郎。よくもリサをこんな目に遭わせたわね。その罪、万死に値するわ。とっくに死んではいるようだけど」



 ヴァージニアは怒りのこもった声で言うと、地面から『死者の手』を出現させた。



「地の四天王、屍術師トスタ。死者を司り操るその力、私のために貸しなさい」

『おお、姫様。ワシらにまだ期待をかけてくださるのか。ならば、老骨にムチを打たねばなりませぬな』



『死者の手』からしわがれた老人の声が聞こえてくると、そこから灰色のローブ姿の老人が現れ、老人は怪物を指差した。すると、怪物はたちまち苦しそうにうめきだし、それを見たヴァージニアは私に視線を向けた。



「お膳立てはしたわ。あとはあなたがやりなさい、リサ」

「ああ、すまないな。ヴァージニア、感謝するぞ」

「どういたしまして。ほら、トスタが力を使ってジワジワ体力を削ってる間に決めちゃいなさい」

「ああ、もちろんだ」



 私は剣を構え直す。怪物はトスタの力で苦しみながらも恨めしそうな声を出している。



「お前達のせいで本来の幸せを失い、人生を狂わされた者は数多くいる。死してもなおこの世にすがりつくくらいならば、聖なる力によって本当の意味での死を迎えるといい!」



 駆け出しながら私は剣に聖力を宿らせる。そして怪物の目の前で踏み込んで跳び上がった後、私は怪物を真正面から見据え、力いっぱいに剣を振るった。聖力を纏った剣は怪物の身体を切り裂き、怪物はその箇所から少しずつ煙と化していった。



『オノレェ……!』

『キサマラモォ、シヴォーサマノォイケニエニィ……!』

「生け贄になどならん。私達には私達の人生があり、未来があるのだ。お前達ごときに支配などされてたまるか!」



 カチンと剣が鞘に収まる中、怪物は完全に煙となってそのまま消えていった。

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