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第十話

「さて、着いたな」



 レナードからの情報通りに向かう事数十分、私達はチェスターが向かったダンジョンへと来ていた。ここはバウルと出会ったところとは違って神殿のような場所であり、雰囲気もどこか厳かだった。



「ここの奥深くから謎の声が聞こえてくるらしいが……チェスターはその声の主と遭遇したのかもしれないな」

「ダンジョンの奥から聞こえてくる声……可能性としてはここを縄張りにしようとしてるモンスターですけど、だとしてどんなモンスターがここにいるんでしょうね」

「それはまだわからないな。何にせよ慎重に行こう」

「がってんです! バウル、お前さんの鼻でチェスターの匂いは探れそうか?」

「バウ」



 バウルは頷きながら答える。そして地面の匂いをしばらく嗅いでいたが、やがて困ったような様子で私を見上げてきた。



「バウ……」

「ん? もしかしてバウル、チェスターの匂いがわからなかったか?」

「バウ、バウバウバウン!」

「どうやらここはモンスターの匂いが多すぎてまだ嗅いでから日が浅いチェスターの匂いを嗅ぎ当てづらいんだそうです。となると、結構ここでは戦わないといけないかもですね……」

「それは覚悟の上だ。とりあえずここの最奥を目指しながら私達も進もう。何があっても大丈夫なように細心の注意を払ってな」



 アレックス達が頷いた後、私達は神殿の中を進み始めた。神殿内にはたしかにモンスター達の姿がちらほら見受けられ、これは厳しい戦いになるかと考えていたが、モンスター達は私達を遠巻きに見るだけで襲っては来なかった。



「襲っては来ないようだな。私達としては助かるが、何か理由でもあるのか?」

「ふむ……ここの連中のランク的に俺が睨みきかせてるから襲ってこないわけじゃないでしょうしね。姐さん、適当な奴を捕まえて事情を聞いてみます?」

「そうだな。そうしてみてもらえるか?」

「了解です! 大丈夫だと思いますけど、一応ダメだった時のために戦いの準備だけしておいてくださいね」

「ああ」



 私が頷くとアレックスはドラゴンの姿に戻りながらモンスター達に近づいていき、警戒するモンスター達に対して友好的な笑みを浮かべながら話しかけ始めた。



「ふと思ったんだが」

「バウ?」

「こういう時にニアがいたらモンスター達に話を聞くのも容易だったのかもしれないな」

「バウ」



 ニアはあまり表には出てこないそうだが、それでも魔王の娘だ。モンスター達ならその気配を察知し、何かあるのなら自分達から近づいてきたかもしれない。そんな事を考えている内にアレックスが戻ってくる。



「お待たせしました。思ってたよりも穏和な奴らだったみたいで話もすんなり聞けましたよ」

「そうか、お疲れ様。それでなんだった?」

「それなんですがね……ここ、邪神のシヴォーを信仰する邪教のアジトの一つだったそうで、禍々しい力を使うヒューマンが来てからは信者達もいなくなり、ここを住みかにするモンスター達が増えたんだそうです」

「禍々しい力を使うヒューマンというのはアルバートの事だろうな。そうか、ここが邪教徒達のアジトだったのか」



 軽く周りを見回していたが、話の続きが気になって私はアレックスに話しかけた。



「それで、チェスターの姿を奴らは見たのか?」

「はい、見たそうです。ここに来たチェスターはモンスター達が襲ってこないのを不思議そうにしながらもそのまま奥へ進んでいたみたいですが、やがて険しそうな顔をした後に壁を強く叩いて、怒りに満ちた顔をしながら奥を目指して走り去っていったそうです。きっと、ここが邪教徒達のアジトだと気づいて両親を殺された憎しみが募ったんでしょうね」

「そうだろう。最奥への道は聞いてるか?」

「もちろんです! いま案内しますね」



 アレックスの案内に従って私達は歩き出す。そしてモンスター達に見守られながら歩き続ける事十数分、開けたところに出るとそこは祭壇がある広間のようだった。



「ここが最奥か……祭壇もあるようだから、ここで邪教徒達は儀式などを行っていたのかもしれないな」

「ですね……ん、あそこに誰か倒れてません?」

「あれは……間違いない、チェスターだ!」



 倒れているチェスターの姿を見つけ、私達はすぐさまチェスターに近づいた。様子を確認すると、まだ息はあるようだが、少し呼吸は荒くなっていた。



「チェスター! おい、しっかりしろ!」

「ぐ……り、リサ達か……」

「そうだ。ここで何があった? ここから聞こえるという謎の声の主と遭遇したのか?」

「あ、ああ……だが、気をつけろ。声の主の正体は――」



 チェスターが声の主について話そうとしたその時、広間に何者かの気配が満ち始めた。



「なんだ……?」

「気配が一つ二つ……いや、それだけじゃない。数えきれない程の気配がし始めましたよ!?」

「グルル……!」

「チェスター、これは一体?」

「奴らだ……」

「奴ら……まさか、アルバートによって殺された邪教の連中か!」



 その正体に気づくと同時に私達の周りには何人ものゴーストが出現し、恨めしそうな顔で私達を見るゴースト達はやがて一ヶ所に集まり、一つに混ざり合い始めた。



「なんだ……?」

「アイツら、混ざり始めましたよ……!?」

「リサの予想通り、アイツらはアルバートによって命を奪われた邪教徒達のゴーストだ。奴ら、信仰してきた邪神に命を奪われたのは身体を失くしてからが真の信仰だと考えているのか生者の俺達を無理矢理仲間にするために襲いかかってくるんだ。例の声もコイツらが出す声だ」

「なるほどな……チェスター程の奴がそう簡単にしくじるわけがないと思っていたが、こんな奴らがいるとは……」



 幾つもの顔や腕、足が至るところから伸びた異形のの怪物を見ながら言っていると、チェスターはどうにか立ち上がりながら異形の怪物を睨んだ。



「コイツら一人一人が実力者なのか混ざり合った奴らは俺の予想を超えた強さを持っていた。一度どうにか退けたが、それでも撃破まで出来ていない。油断するなよ、リサ」

「当然だ。アレックス、バウル、気を抜かずにいくぞ!」

「はい! さっさとコイツを倒して、キジョの街に戻りましょう!」

「バウ、グルルオン!」



 異形の怪物がモゾモゾうごめく中、私達は戦う態勢に入った。

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