3 ごめんね
文字数が多いので、1話加えて構成し直しました。
洋子のマンション。
尚香は仕事を終えて、いくつか素材を買って今日は洋子のところに。
「これパックのまま出していいかな?」
「今日は皿に出そう。私がするよ。写真撮りたいし!」
「あれ?手巻き寿司って人参もいるっけ?」
「きゅうりと大葉だけでいいでしょ。」
「ほぼ欧米人がいるからアボガドでしょ!」
「僕、白身好きー!」
真理、太郎朝ちゃん原ママ、ラナ・スン、弓奈と尚香、章の妹良子と巻のすごい大所帯で、今日は手巻き寿司である。
功たちは地方でライブだ。真理は近隣のライブには時々顔を出すが、遠征はお休み。今は、原ママが朝ちゃんと一緒に六三四くんを見ていてくれる。
「里愛ちゃんがまた怒ってる。なんでいつも私のいる時にしないのー!って。」
「いる時にもすればいいんだよね。」
「道さんも来てほしかったなー。」
道は仕事。ここ数か月、里愛は仕事で海外。デコボコ演奏隊にも合わなくて、なかなかみんなと合流できない。逆に弓奈は今年は年末前まで日本だ。
洋子は最初は何をすればいいのかあたふたしていたが、今はソファーに座ってドデンと待っていた。何もしなくてもみんな自動でやってくれる。自分の家なのに、みんなの方が手際がいい。
そして楽しく食べ始める。洋子は手巻き寿司が初めてなのか、やたらと惑っていた。
「ママ下手くそだね。こうするんだよ。」
と、良子がサーモンを巻いてあげている。
「ちょっと!これいい鯛だから、お母様にはこれにしないと!」
と、真理が割り込む。
「いや、イカだよ!」
と巻も差し出した。洋子、好き嫌いは激しいが一応刺身は食べられる。
「もう大丈夫かなー。みんな足りないものない?」
「大丈夫。適当にするから、尚香ちゃんも食べてよ。」
そうして、尚香がやっと腰を落ち着けて座ると、「はい!」と、急に目の前にトロ山盛りと大葉の寿司が出された。
「!?」
えっ?と思うも、ラナであった。
「………」
驚いて一瞬受け取れない。
「……私が巻いたのは嫌?ビニール手袋してるんだけど。」
「…あ、ありがとうございます!」
と、恭しく受け取った。清潔にしていそうだし女性だし、別に素手で巻いたものでも尚香は食べられるが、ラナというのに驚いただけである。それに日本人は、あまり大人同士でこんなふうに人に作ったりしない。
「………」
「…………」
醤油をつけてモグモグ食べる尚香を、ラナがじっと見ている。
「あの……」
「何?」
「………おいしいです。ありがとうございます………」
そして、少しため息がちにラナが言う。
「………ごめんね………」
「…………」
「………ごめんね!」
「!!」
一息ついて、やっと飲み込む尚香。謝られたのだ。
「………え………?」
「だから、ごめんってば!」
「ごめんってば!」
と言った後、黙ってしまうラナに、とりあえず手に持った寿司をパクパク食べてから尚香は答える。
「……いいですよ。」
それ以外、何を言ったらいいのか。
「私も短絡的でしたし。」
「……………」
ただでさえ印象が悪かったのに、気に入らない人たちからしたら、尚香はとんでもなく嫌な女であっただろう。
「あ、私、功のこととか、そこまでじゃないから気にしないでね。道さんの娘になりたかったの。」
「……はい。」
「敬語使わなくていいから。」
と、バツが悪そうだ。
あれだけのことをして披露宴にもこの集まりにも来ているのですごいな、と尚香は思っていたのだが、実は最近洋子と様々なセッションをしている。洋子に追いつける歌手が、功以外今のところラナ・スンだけなのだ。レリアもいるが、彼女はくせが強く、得意とするジャンル以外は洋子の幅には間に合わない。
尚香の義母なので、ラナもこの関係を無視するわけにはいかないのであろう。
「………ごめんなさい。」
ラナはもう一度、今度は自分が敬語で謝った。尚香も改まる。
「…私もすみません。」
「ん。」
そこでラナが手を出すので、何かと思うが握手である。
「…………」
人前であれだけのことをされたので、尚香としては仲直りしない選択もある。
けれど、その手に自身の手を出しラナに笑った。
「ありがとう。」
「!」
ラナは思わず照れる。
尚香にとってそれはまだジュクジュクするような傷だけれど、形からでも変えられるものは変えていきたい。周りのためにも、彼女のためにも、自分が強くなるためにも。
きっと章と一緒にいたら、自分ももっと強くならないといけないことがたくさん出てくるだろう。避けるだけではなく、道のようにもっと大きなものを覆える強さも。
そのいつかのためにも。
この後、尚香は真理に世田谷の家まで送ってもらう。章がいないし明日は土曜日なので、実家で過ごすことに。初めて金本家に行った真理は、「やっと来れた~!!」と、訳の分からない感動をしていた。金本夫婦も、人見知りしない六三四くんとたくさん遊んでくれた。
来週には引っ越しをする。この木の家も、もう最後であろう。
こうして、その賑やかなその日は終わった。
***
その週の、道が奉仕をしている修道会の集会。
小さなイベントをしたり、炊き出しの食事がてら昼食をする、老人のワンデーのような集まりだ。
なぜか道と美香に加わり、荻もいる。
「道さん。あのおじいさん、追い出したいんですけど。」
また山野のおじいさんが、よろしくない物を持ち込んでいる。お酒ではないと、ノンアルコール焼酎だ。
「なら今日は、山野さんのお相手を荻さんがして下さい。」
「え?俺がですか?」
「シスターたちが出払っているので叱る人がいません。」
「俺が怒ると周りが委縮するから、シスターに雑用だけしてて下さいって言われたんですけど。山野のじいさん、昔を語りだして止まらないから嫌なんです。」
「今は仕方ないでしょ。私の言う事は聞かないもの。」
美香の言う事も聞かない。それに教えるのがうまい美香は、今、子供たちの相手をしている。荻はいろんな資格を持っているので、今日は古くなった建物の一部修理にも来ていた。
「荻さん、ここのおじいさんはいい方ですよ。さみしくて構ってほしいだけです。時々施設と行くと、捕まらなかっただけでひどい犯罪をしてきた人の面倒を見ないといけませんから。仕事、仕事と割り切らないと何もできない……」
俺は金持ちだったんだ、ケンカが強かったんだ、モテたんだという武勇伝だけならまだ許せる。
けれど時々いるのだ。どうしようもないことをして、過去を恥じてもいない人たちが。様々な施設を回ると、今なら凶悪犯罪をしてきた人でも、することがないのか歳で口が緩むのか、警察に突き出したいほどの過去話をして、何事も無いように人から介護を受け普通に暮らしている。
むしろ、こっちが悪になってでも海にでも沈めたいが、刑務所回りもしているシスターたちを思って我慢している。
「……荻さんなら、海に沈めてくれそう………」
「!?道さん、何言ってんすか?」
当たり前だが驚く荻。
「山野さんは荻さんには逆らえません。バシッと言って下さい!」
院長以外の女性や、年下の男性全てをなめているのだ。ここに来る人たちは穏やかな人が多いから。
「え?いいんすか?俺、今度出禁になりません?」
「…………」
なりそうな顔をしていると思うのであった。
実は道。
金本家の引っ越しが済み、先週山野瀬家から籍を外すことを尚香と章に話したばかりだ。
章はかなりショックを。尚香はいろいろ考えているようだった。
道は、黙り込んでしまった章の頬を優しく包む。
「章。でも、籍を外しても私たちの親子関係はそのままだよ。」
養子でも、親子関係が解消されるわけではない。
けれど、正一と夫婦だった道はどこに行くのだろう。
かなり悪役っぽくなってしまいましたが、本当はラナ・スンは、本編内でもっと尚香と近い存在になるはずでした。イットシー側で真理以外にナオ、和香などが尚香と近い存在が複数いたことと、話が膨らんでしまったため変更。3部以内に収めたいと、ラナとのエピソードを割愛しました。
かなりはっきりした性格ですが、道のことを知って道の人生を守ってあげたいと思えるいい娘です。
同じように、荻もポイントの人物。2部にするはずが3部になって出番が押されてしまい。もう少し前に出してあげればよかったです。いくつかエピソードがありましたが、こちらも本編では割愛しました。
この二人は脇役に関わっての重要人物になるので、このくらいでよかったのかなとも思います。




