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スリーライティング・下 Three Lighting  作者: タイニ
第三十章 ふたりで

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88 ふたり

最終話です。




結婚式を挙げてから2か月ほど、功は正式に結婚の発表をした。



まず全てのファン、そして関係者へのお礼と共に、会社員の女性と今年春に結婚し、7月の始めに結婚生活を始めたこと。功ママたちのへの感謝も。


ライブ中のトークが変ったので既に勘付いていたファンも多く、世界中からSNSにお祝いが届いた。



すごいニュースにはならないけれど、音楽好きなら誰もが少し気になってしまうほどのニュース。




既に出産した真理のSNSからもメッセージが。


『功くん、結婚おめでとう!


功のお相手は、まりの親友でもありイットシーの恩人でもあります。大切に大切に育んできた関係です。皆さん、ゆっくり見守っていてください!』






尚香は少し不安になる。


「章君、いろいろ批判来てない?」

「来てなくはないけど、お祝いの方が多いよ。掲示板の奴らは裏切り者とか、クソとかうるさいけどな。」

「掲示板は見るなって言われてるのに………」

「大丈夫。それも挨拶。やつら流。」

「…………そうなの?」

「多分!」


タオル女が結婚してしまったと分かってしまう人がいそうだ。

「尚香さん、心配?」

「少しは…。」

「大丈夫だよ。功ママがいるから。」

功ママとは、アイドル時代から功の実質的将来までを応援してくれているソンジ含むファンたちである。


「私を見たことあるライブファンは、嫌がってないかな?」

尚香はPC関係でイットシーに行って以来、事務所にもライブにももう行っていない。

「ちゃんと説明してるから大丈夫だよ。噂してただけで、みんなきらってるわけじゃないし。」

「………そう?」


「うん。だから今度は、俺が功ママたちの幸せを祈るよ。」

章は笑う。





***





少し後の話になるが、ある日尚香に両親に関する連絡が入った。


実父母のことだ。



生まれが英語圏ではない壮年と若い男性が、代表で来日。尚香と金本夫妻は、急いで招かれた国の大使館に向かった。



尚香たちの予想通り、父は小さな箱に入って戻って来た。

ただまだ確定ではなく、様々な鑑定が必要だ。




そして、覚悟はしていたものの、尚香は自分の世界とは縁遠い話を聞くことになる。



27年ほど前、彼らの国は内戦や近隣国と紛争をしていた。


教授をしていた武田夫妻は、日本にしばらく戻って来ていた頃、教え子たちに緊急で呼ばれたのだ。社会学の校舎にも襲撃や空襲が来るかもしれない。先生たちとの研究が全部火の粉になるかもしれないと、十数人の学生たちが校舎から離れないので助けてほしいと。


彼らの説得のためと、有力者への交渉のために夫妻は飛行機を準備をした。


初めは夫だけが行くつもりだったが、両国に伝手があったためお互い両方にアプローチすることになったのだ。この地域は国が分かれていても、歴史の中の正確な民族や文化の境界はあいまいになっていた。分裂に分裂、同盟に分裂を重ねているからだ。一般人には内戦なのかテロなのか、他国からの攻撃なのかも分からなこともある。




彼らは英語が話せ、通訳が入りながら尚香は話を聞く。


「重要な文化財や資料だけ共に移動させ、先生は生きていれば何とかなるからと、学生たちに避難を促してくれました。国に残ると言っていたメンバーを説得して、海外に出ることができた者もいます。」

大学を守ろうとした学生はいくつかの組織から反勢力扱いのため、捕まったら処刑、もしくは収容所に送られる可能性もあった。

「……そうですか……」


この遺骨は確定ではないという。


先生が到着して数日後、大きな襲撃が起こり街のあちこちが火の山になった。大学への襲撃回避はできなかったが、欧米資本の伝手も頼って亡命や避難のルートを数か所提案できた。


襲撃の後は、現地の人でさえ遺体が見付からない、危険で探せない現場が多々あり、火が上がった場所の遺体は男女も分からなかった。途中からは生活自体が混乱し、夫妻がいつまで一緒だったのかも分からない。


今もまだ、その地はくすぶっている。



けれど、引き取りや判定が難しい遺体のある施設に、日本製の金属の時計を着けていた記録のある火災現場からの遺体が見付かったのだ。他にもそんな遺体はあったが、周りより一回り背の低い男性。自分の国もままならないまま、調査に何年も掛けた元生徒たちの執念だった。




「……その時、先生と共に資料を移動させ、海外に亡命した一人です。」

通訳は彼をそう紹介し、彼も深く礼をした。生き残った多くは、様々な国やコミュニティーの要所に就いている。


「自国に残り亡くなった学生も多いですが、私は息子二人と娘を授かりました。」

隣りの若い男性も礼をする。

「先生には感謝しています……。」

と、金本のお父さんにも厚い握手をしてから、自分の息子と抱き合って泣いていた。


現在、亡くなった学生たちの両親が生活に困っていれば慰労金を渡したり、文化維持の活動を続けているという。





あの、両親が飛行機に乗る前の、日も登り切らない早朝。




武田夫妻は子供の預け先がなく困っていた。


東京の親戚たちに、娘を1か月だけと預けに行くが、文系に進んで何の研究をしているのか分からない彼を疎んで、誰も預かってくれない。また何をしているのだ、非常識だと。

そこで、たまたまネットに出て来たサンサンハウスが目に入り、気になった母は愛知県まで飛ぶ。真夜中に着いたサンサンハウスでもかなりの強い言葉で断られ、一旦は東京に戻ろうとそこを出た。



けれど、レンタカーの中で尚香の母は思ったのだ。彼らなら……と。



話をしながら信頼したのだ。園長と瑛子夫人を。


もう、朝が明けて次の午後までには空港に行かなければならない。これ以降は渡航やVISAがどうなるか分からないのでとにかく急ぐ。現地にはそのまま入れず、乗り換えや別の国経由だ。



最後の手段として、園長夫妻に全てを託して尚香をサンサンハウスに預けたのだった。

ほぼ、置き去りという形で。



今の時代なら、多くの批判を浴びる行為だ。その当時でも。

なんてひどい親だと思いながらも瑛子先生は、小さな尚香に駆け寄る。信じられないことに腰紐で逃げられないようにしてあった。ここから離れないように。尚香も、しばらく静かにしているように言われ、トイレに行きたくなるまで泣かないでそこでじっとしていたのだった。


腰紐を解いて、思わずその子をぎゅっと抱きしめる瑛子先生。



「なんてことだ……」

園長は警察に行くか迷い、ひとまずご飯を食べさせてあげることに。



その頃はまだ、彼らが戻って来ないとは誰も思っていなかった。







「章君。」

尚香は両親を送ってしばらく話し合いをし、家に帰ってからずっと章を待っていた。会ったとたん、その日は尚香からぐっと章を抱きしめる。


久々に持ち歩いていたバイオリンも背で弾んだ。今日はデコボコ演奏隊。またもやみんなにはめられ、洋子と演奏してしまったらしい。



そっと抱きしめ返してくれる章。

「尚香さん、どうだった?」

「うん、多分しばらくいろいろあるかな。」

「………後で向こうでゆっくり話そ。」

「うん……」


「大丈夫だよ。一緒に越えていこうよ。」

「…………」

「いいよ、全部、尚香さんの持ってるものも、全部一緒に抱えるから。」

と、そのままぐっと持ち上げる。

「重いよ!?」

「平気平気。援護に徹するから。俺、ふんわり系だし。ふんわり包む。全部。」

「何言ってるの?」

「ふんわりになる。今日は癒し系だよ?尚香さんと守備範囲が違うからいろいろ余裕。」

「章君の言ってること、いつもよく分かんないんだけど。」




そうして二人はお話をし、そっと抱き合う。



ふたりの家で。






***






かわいい双子が中学生の頃のこと。


妹は姉にすっかり困っていた。




どう考えても姉は絡まれやすいのだ。

一見強そうなのに話してみると、2テンポも3テンポも遅い。


そのせいなのか、きつい女子集団にも男子にもよく絡まれる。


妹は姉に、強く、何度も何度も言い聞かせる。


「いい?絶対に男の子に付いて行っちゃだめ!私に内緒っで言う女子にも!」

「行かないけど?」

「それでも何かされそうになったり、されたらどうするんだっけ?」

「逃げて、道子か親戚、先生か教会の夫人に言うの。」

「そうです。それに絶対に人に体を晒してはいけません!」

同級生の男子の何人かが、いつも洋子を見ているのを知っている。



「いい?それは絶対のセイフティー!体は神様のものです。絶対に触らせないこと!!」


それはきっと、いつかのこの子を守ってくれるだろうから。



「でも、ビリーとロマは中学生で愛し合って今も付き合ってて運命だって。」

「くっだらない。本当に相手を思う男が、自分が一人前でも半人前でもないのに、愛する人に手を出すと思う?したいだけなのに。」

ビリーは最近、妹の方を密かに映画に誘ったのだ。行くわけがない。

「マイク叔父さんたちは小学校の頃に出会った運命の夫婦だって。」

「もー!言い訳はいいから!!そんなの100万人に1組だから!!自分がそうなるとは思わないで!!」



「そうしたらいつか洋子だけの王子様が来てくれます。」

そう言い切る妹に嫌そうな顔をする姉。


「王子様なんていらないんだけど。私、道子でいいもん。ずっと道子といるから。」

「なに言ってるの。私が嫌なの!」

「!!なんで?」

姉が急に深刻になる。


「私が私の王子様といたいの!!」

こうでも言わなければ妹離れをしまい。

「……リリーが王子様なんていないって言ってた……。」

「リリーめっ!」

同級生の女子だ。本当にみんな、妹のいない所で姉にいろいろ吹き込むのだ。


「道子!もしかして誰か好きなの?」

「誰とかはいませんが、私はアレク叔父さんみたいな人がいいです……」

そこだけちょっとしおらしくなる妹。

「叔父さん?」



アレク叔父さんとは、京子叔母さんの夫だ。ラテン系で中肉中背の髭が似合う叔父さん。お互い再婚で、誰よりも情熱的に京子おばさんを愛してくれている。


妹はいつも思う。あんな夫婦になれたらって。



母は父のいない所で泣くが、叔母さん夫婦は肩を寄せ合って泣く。



父は母の目を見ないが、叔父さんはいつも叔母さんを探している。


ふたり目が合って、お互い笑い合って抱きしめる。




父と母がそうだったらよかったのに。


そして子供たちも、その間で楽しくて仕方がないの。



けれどどんなに頑張っても、妹にはそんな父と母の姿が浮かばない。

笑顔どころか、母の顔さえ写真を見ないと思い出せない。




ブスーと怒った姉が、妹の肩に寄りかかった。

「他は何にもいらない。道子がいい。」

「………」

「私は道子とずっといる……」

「…………」

「道子しかいらない!」


はあ、とため息をつきながら、妹もこれ以上の話をあきらめるのであった。





二人はお喋りをする。



クスクス笑いながら。



そのお話を聞きたくて、みんな耳を澄ますのだけれど、気が付くと彼女たちはいない。


気まぐれなチェシャ猫のように。





けれどみんな、いつか知るだろう。




大切な大切な、あなたが大きくなって、



また大切な大切な何かを、


温かい光の中に繋げていく歌だということを。






                     完











長い期間、応援ありがとうございました。


本編はこれにて終了ですが、いつものごとくこれから修正などしていきます。


入れたい重要エピソードはほぼ入れたと思いますが、20年以上頭の中をぐるぐる練っていたので、記憶のどこかにそっくりそのまま置いて忘れてしまったものもあるかもしれません。棚から転げ落ちてきたものがあれば、必要なら本編に追加します。


また敬うと言う意味で、身内から見た死の表現も多くの場合、亡くなると言う表現を使わさせていただきました。


イラストデイズさんに、この小説の皆さんのイメージがなどがあります。よかったらご訪問くださいね。

https://illust.daysneo.com/works/8e6b289a234725563f4a0fd9476f5f78.html



本当にありがとうございます。









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