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スリーライティング・下 Three Lighting  作者: タイニ
第二十九章 LAST SONG

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83 泡に消えても

少しエピソードの順を変えて再投稿しています。




ビール1瓶持って、新郎新婦両端の予備席に座る人物。


「へ?久保木さん??」

「尚香さんおめでとう。章もおめでとうな。」

「普通来ます??」

普通来ないであろう。

「ジノンシー側の名簿で招待されてるからな。」

「!!」

ジノンシー恐ろしい。



大人ジノンシーは後方の席で大人な人たちと座っている。もちろんお父さん部長や企画営業の面々もいたのだが、まさか久保木までとは。

「まあ、手つなぐしかしてないからな。」

「!」

尚香はそれを聴いて赤くなってしまう。それ以上していたら、さすがの久保木もここには来ない。


「なになに?ここで、ドロドロバトルとかやめてくれません?」

「え?そのために呼んだんじゃないの??」

少し離れた所にいる柚木と兼代は気が気でない。



久保木は章が飲まないと分かっていても、グラスにお酒を注ぎ、章もいただくふりはした。


「まあ、章。お前は俺に一生感謝することになるだろう。」

「はい?」

「まあいい、幸せになれ。」

「……はい。」


それから尚香の方に向く。

「尚香さん、きれいだよ…」

「あ、はい!ありがとうございます。」

そう言って久保木は戻って行った。尚香が赤くなっているが、章も分かる。自分も久保木と自分なら、久保木を選ぶであろう。


今日は兄と彩香は仕事で来日できず。さみしい思いと安心が両方あったのに、久保木が来て章は頭が混乱するのであった。



ジノンシーは、イットシー関連で来た多くの人々と交流を深めている。恐ろしい集団だ。というか、どういうお金で主催しているのか知らないが、両者元以上のものを取る気であろう。なお今回会費以外、ご祝儀は受け取らないことになっていたが、たくさんのお祝いが集まっってしまった。なので、とりあえず会場費や交通費などの清算は、できる限りご祝儀で済ませたのであった。




***




彩香(さやか)ー!動画見たか!」

「見た見た。」


「信じられない………。なんで章と尚香さんが………」

既に報告を聞いてはいても、意味が分からな過ぎて混乱しているのは兄正二(せいじ)である。


「やっぱり章君かっこいいね。はは、でもこの目つき、こんな時くらい笑えばいいのに。大地君とそっくり。……あ、尚香かわいい!」

「……なんで、彩香は二人が仲いいって分かったんだ?むしろなんか雰囲気悪かっただろ……」



そう、彩香が言ったのだ。


なぜ最近、弟に嫌われているのか。

なぜ、弟はいつものごとく自分にお喋りをしてくれないのか。何も言わなくても、ペラペラしゃべっている弟だったのに。


「尚香と同じ大学で、年も近くて、現実的なお兄ちゃんが嫌なんでしょ。」

「なんで??」


「章君、尚香のことが好きだったんでしょ。」

「え?」

「好きだったから!」

「ええ??」

なぜそんなことに。正二的にはいつどこで二人にそんな距離感ができたのか分からない。


「結婚するのに現実的な兄が隣りにいて、コンプレックスなんでしょ。」

「!!!」


そして正二は少し考えて気が付く。

「………章、俺に嫉妬してたの?」

「……そうなんじゃない?」

「かわいい!」

正二から見たら、章や大地たちは今も小さな子供だ。巻なんて未だ赤ちゃんである。自分を置き去りにして成長しきってなくてうれしい。


そういうわけで、一応、弟が尚香を好きだったと分かったのであった。




「でもなんで章が、俺が越えられなかったものを越えていくんだ?」

正二は嫌われて終りであった。あの章が、自分より女性に気の利く話ができるとも思わない。


彩香はため息をつく。

「尚香だよ?いろいろ言い合っても、うまくやって来たんだよ。」

「…………」

横を向いて考えるが、尚香さんはそういう性格だ。よっぽどなことをしなければ、自分から人を嫌ったりしない。あの元婚約者の父の病院にも、破談が決まった時きちんと挨拶に行くような性格だ。今も、元婚約者のことを全部悪く思っているわけでもない。ただ、かわいそうな人だとは思っているが。



「それ以前に、繋がりはそこまでないと思ってたから………」

本当に母の家に遊びに来ているだけだと思っていたのだ。これまで章と洋子はほとんど会うこともなく、用事で仕方なく会ってもそれだけであった。

「日本は日本でいろいろあったんだよ。」

彩香は美香にいろいろ聞いていたが、男たちは端々を自分なりに報告するだけで、細かい話など何もしていなかったのである。まさか尚香と美香が、章や道、イットシーとそこまで関わっていたとは、さすがの彩香も予想外であったが。



「………あ、もしかして、本当に尚香さん、俺のことも悪く思ってなかった?」

やっと気が付く正二。弟が言っていたことを思い出す。


「弟にとられてくやしい?」

「……弟に負けったって意味では悔しいは悔しいけど………彩香に会えたし。」

「………。」


そうは言ってみるも、ククッと笑いだす正二。

「でも、尚香さんって面白いし。最初後輩だと思ってたら2年も先輩で、油断したら中身、美香さんより強いし………」


美香と彩香と尚香、性格も見えた目もタイプも全然違う三人なのに。彼女たちは仲が良くて、大学ではひそかに目立っていたのだ。


誰かがきれいだからとかではなく、サークルや課題に彼女たちがいると楽しくて安心する、そんな存在。



そしてうれしそうに顔を上げた。

「…章を見てくれるのが尚香さんだと思うと、…………なんだかほっとした。」


正二が笑って彩香を見るので、二人は楽しそうにキスをした。




***




披露宴が終わって、都内で先輩の伊藤と飲み直しているのは久保木。



「お前、本当に行ったのか?」

「行った。」

「すげーな。」

好きだった人とライバルの披露宴に行くとは。


「どうせ正二が来たら、ややこしい面子で集まるわけだし。あいつの兄で尚香さんの義兄だからな。ん?義弟か?」

「………」

伊藤、詳しく聞いたわけではないが、何となく事情を察している。



「まあ、よくやった。」

「そうですよね。俺の人生最大の譲歩です……」


久保木もこの期間、ものすごくあれこれ考えたのだ。今ですら落ち込む。


あの頃、金本家を離れた山名瀬章に、一人仕事に没頭する尚香。尚香が現地で予想外に仕事が増えた時、確認もかねてジノンシーから助っ人を派遣していい時期もあったのだ。一時期は、男性に仕事を変わった方がいいくらいの場所だと取引先の女性からも報告があり、久保木も自分が行こうかとずっと悩んでいた。


そろそろ飛行機に乗って仕事をしたい気分だったし、その気になれば尚香とプライベートも一気に距離も近くなるだろう。この仕事でなくても、日本にいる時でもいくらでもそうはできたが。



けれど、章を思い出してやめたのだ。



もし上手いことを言って正二や章と距離を取って尚香に近付いても、それで幸せになるだろうかと考えたのだ。

正二と章と距離を置き、つまり彩香とも離れ、そんな中で彼らを見ることの出来る位置で、尚香は幸せだろうかと。なんだかんだ正二は久保木が切れる位置にいない。自分といると必然的に正二に会い、彩香に繋がり、章にも結び付く。



その間で目を反らすこともなく、笑っていてほしかったのだ。




前職の大きな仕事を捨ててまで婚活に舵きりしたのに、ある意味今が最後の旬と思っていたのに、この2年で一番掴みたかったものを手放してしまった久保木。自分はもう40手前だ。



いくらでも次が狙えるのに、落ち込んでしまった目の前の男が哀れ過ぎて、今夜は伊藤の全奢りであった。




***





あれはいつのキャンパスだろうか。




ソノダ・エリアス教授が1週間滞在していたので、その間は大学にせわしなく通う、少し茶色い髪をなびかせるきれいな高校生。


彼女はいつもバイオリンを背負って、颯爽に学校や街を駆ける。



「先生、じゃあ音楽って有効なんですね。」

「だた、その時々の最優先事項と状況、国民性や地域性もよく考慮しないとね。」

災害地などから来た子供たちの心の回復に何が有効か聞いていたのだ。


最優先はどこでも安全、医療、衛生。次いで、食事、人員の管理力、そして彼らと話してあげることのできる「人」だ。


その少女、少女と言うにはもう大人なその女性は、どの大学に行くかまだ決めかねていた。こんなきれいでバイオリンも弾けるような子がいるのだと、教授も最初はとても驚いた。音楽の道に進まないのかと聞いてみると、国際貢献事業に関わりたいのだだという。


しかも祖父が日本人だったらしく、父から学び、日本語も話せ漢字も書ける。ここでの会話は英語だが、同じ日本繫がりでエリアスに親しみを感じるらしい。



「先生。先日の先生ご夫婦のお話も素敵でした。私もあんな方と結婚したいです!」

「あら、ウチの夫がこんなきれいな子にモテるの?初めてかも。少しお腹も出てるのに!」

「え!違います!」

赤くなるかわいい学生。


「先生たちみたいなご夫婦になれたらって!」

慌てている姿もかわいい。夫は同じ名前になってしまうので、妻は仕事では旧姓を使っていた。


「でもああいう研究肌の人間は、なんだかんだ家庭のこととかすっぽ抜けちゃうからね……。甘い生活はできないかもよ。私もそのタイプだからやっていけるだけで。」

「でも、周りは私のしたいことが無駄だとか、ばからしいという男子ばかりなんです!そう思うと、あんな風にリスペクトしあいながら談話ができるって、それだけで…………素敵です……」

「……あら、かわいい。」

思っていたことが、思わず口に出てしまった先生。


照れているのでもっとかわいい。

「はは!」

「先生!」

「私、ずっと子供のこと後回しで来たけれど、こんな子がいると思うと、やっぱり子供はほしいかな!」

「そんな話してませんけど。それに、姉の方がずっとかわいいんですよ。私はケンカも出来るので、男だって言われます!」



希望に溢れていたあの日。


そんな風に過ぎた日々。



いつかのキャンパス。








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