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スリーライティング・下 Three Lighting  作者: タイニ
第二十八章 それぞれの再出発

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72 辿り着く、遥か彼方に




少しだけ春も近付いた、イットシー事務所。


みんなの中で、もう尚香さんはいない人なんじゃないかと思い始めていた頃だった。




そんな最初からいない人よりも、いない存在になってしまった誰かがいる。

「あれ?」

真理、気になってしょうがない。あの身長、あの頭、あのマスク顔。でも茶髪で雰囲気がちょっと違う気もするので、そっと近付く。誰なのだ。


少しネイティブアメリカン調の服を着て、モコモコしてかわいらしい。あれ?新しいスタッフ?

「…………」


「あ!やっぱり、尚香ちゃん!」

「!」

真理が驚いて言ってしまうも、尚香は慌てて周囲を見渡す。

「真理ちゃん、しっ!」

「え?なんで尚香ちゃんが?それに尚香ちゃん………

前髪がある~!!」

「しっ!」


そう言って奥の会議室に入った。

「尚香ちゃん!」

待っていたナオが嬉しそうに言うも、ナオも驚いた。前髪がある。


真理はうるうるしてしまう。

「尚香ちゃん…かわいい……」

「イメチェンしたの。もう企業とかの新規開拓はしてないから、まあいいかなって……」

流れで何となく新規が掴めたりするが。


「……でも………」

真理とナオは思う。

「子供みたいになったね……」

「………」

恥ずかしくて、手で前髪を隠して赤くなってしまう。

「職場でも散々言われました……。企業回りする企画営業じゃないって………」

大学生でも高校生でもない。中学生みたいである。

「……前髪一つでこんなに変わるなんて……」

ナオが感動していた。


「最初は茶髪だけにしたら、それはそれで似合わないって職場の男性がうるさくて、それで美容師さんが前髪作ったらどうですかとか言うから………」

その男とは、ズバリ兼代である。そして前髪を作ったら作ったで、「まじめさが取りえな部活補欠の今時中学生みたいですー!」と、大笑いしていた。

切ったのは、以前成人式ヘアにしたあの美容師である。もう二度と頼まないと思ったのに、僕が最高のヘアスタイルにします!と、でしゃばってきたのだ。いる時はお願いしている女性の担当さんがいなくて、止める人もいなかったのだ。まあ、髪など伸びるのでなんでもいいが。


お陰で先週会社で大変であった。このコートは川田が、その髪型に似合うから着てください!と、昔、着ていた物をくれたのであった。会社には着て行けないので他で着ているのである。


「でも仕事で外の時は、こうやって前髪を流してます。」

と、真ん中でフワッと両サイドに流した。そうするとパーマがクセを作ってふんわりし、少し大人っぽくなる。


前髪だけでこんなにも人は変わるのかと、こんな業界にいるナオも久々に驚く。新鮮だ。



突っ立っている尚香を抱きしめてしまう真理。

「尚香ちゃん……。」

「………真理ちゃん……」




今日は功と与根は地方に行っている。その合間に尚香は仕事を頼まれたのだ。


実は、良子と大地で叔母である『道子』の手帳などから、PCや外付けディスクのパスワードを探し出したのだ。起動しなかった1台も直してもらっている。そこからデータを見ることになったのだが、洋子がそれに関しては、息子の正二、そうでなければ尚香に中を見てほしいと言ったのだ。


良子も大地もまだ幼いし、大部分は英語だ。どんなに尚香が英語が得意でないといっても、高校生よりは専門分野の英語ができるし、社会経験で判断できるデータもある。


ナオも閲覧の許可を得ているので、真理には出てもらい、作業はナオと二人きりですることになっていた。




役目は、芸能や音楽関係を抽出すること。個人的なものは必要なら別でバックアップしておく。

尚香としては、国際協力関係の物も別途抽出しておきたかった。彼女の残したレポートや資料が、役に立つ時が来るかもしれないからだ。それが彼女への花向けと感謝にもなる気がする。



後に正二に確認してもらうので、女性として伏せたい内容があれば、それもまとめておいてくれと。消すかどうかは洋子や若葉などに確認した上で決める。


写真も見ていいと言われている。




そして……なんていうことだろう。



本当に洋子が正二の母親なのだと改めて思う。幼い正二や二人の親子写真が出てきたのだ。


「……かわいい…」

なんとも言えない気持ちになる。

「お兄さんだよね、この前の……」

ナオはなんとなく悟っていたので心配になってしまうが、尚香はクスリと笑った。


尚香の中で、もう整理が出きていたから。



そして、時々出てくる若きしの章の父。

「なかなかかっこいいねえ……。」

「……そうですねぇ……」

この人が章の父であり、道の旦那でもあったのだ。

「一般人でこれとは……」

これは惚れてしまう。一見すると章とは全然違うタイプだ。


正二を知る尚香は思う。正二と似てはいるが、お父さんの方が見た目も雰囲気もキリッとしている。章は、兄は全部父似だと言っていたが、正二も父親母親と並べると、やはり洋子さん要素も多い。正二の、良子ちゃんのようにフワッと柔らかい雰囲気は母方似に思える。そして明るく凛々しいところも。


そう、正二は『道子』にも似ているのだ。


「……………」

何だか胸がストンと落ちつく尚香。



尚香が惹かれた、正二の持っていたもの。それは、山名瀬と、そしてこの姉妹たちが持っていたものでもあるのだろう。




それからあることに気が付き、ナオも悟ったのかドキッとしてしまう写真が数枚あった。


結婚前だろうか。明らかに姉の洋子より道子の方が、章の父と距離が近そうであったのだ。

「!」

そもそも子供が生まれる前の洋子は、他人にも物事にも関心がなさそうな顔で写っているので、余計にそう思える。それに洋子がこんな感じだから、妹としか写真が取れなかったというのもあるだろう。結婚前の洋子はカメラ目線さえほとんどない。



誰かに撮ってもらっただろう、数枚の写真。

「……これ、洋子さんやお子さんたち、見てもいいのかな……」

ナオが驚き、尚香は考える。

「………洋子さんには……大丈夫だと思います。知っているので……」

「?」

「お二人はお見合い婚なんですけど、はじめお見合いするはずだったのは、妹さんの方だったみたいなんです。」

「えっ!?」

ナオがビビってしまう。

「道さんが若葉さんに聞いた話によると、妹さん、好きな方が他にいたらしくて。」




尚香もナオを信頼して少しだけ話す。


洋子が言ったのだ。

「洋子さん。昔、結婚後親戚に『本当のお見合い相手は妹の方だった』と言われて泣いたって。『手間のかかる方をもらって、旦那がかわいそうだ』とかまで親戚に言われてたらしくて……」

正一の生前も、死後も言われていたらしい。

「ええ……ひどい……」



けれど洋子は、自分が蔑まれたことより、妹の幸せを取ってしまったかもしれないことの方がショックであった。


大学で好きな人に出会ったと言っていたが、おそらくそんな人はいないであろう。洋子はそんな気がした。


洋子も自分より道子の方がしっくり来るので、取り返しの付かないことをしてしまったと思った。普通、どんな事情があれど親戚に反論していい言葉だが、洋子は素直にその言葉を受け取ってしまったのだ。



けれど尚香は思う。道の話を聞く限り、

初愛の人を、正一は何よりも必死に愛してきたのであろう。





『私が全部ダメにしてしまったから』と嘆く洋子に、尚香は言った。


『でも私からしたら、洋子さんと結婚したから、正二君や章君や良子ちゃんみたいな子たちに出会えたんです。洋子さんが最高です!』

『大地は?』

『大地?』

『四男。』

え?と思うも、ああ、時々名前が出てきた大地君は四男なのかとやっと分かる。再婚の旦那から見たら長男だ。


『大地君も!』

『不登校で、引きこもりなのに?』

『へ?』

急過ぎて返しがないが、何も知らない尚香が否定できるものでもないので、とりあえず褒めておく。

『大地君もです!』

『ほんと?』

『ほんとです!』

犯罪やネットで悪いことだけはしないでほしいと、ネット被害経験者は願うのみ。


『でも、正一さん、道子と結婚した方がもっといい人生で、もっといい子が生まれたかもよ?』

とまで言うので、みんな誰よりも果てしなくいい子ですよ、と言っておいた。


『でも、彼らが巣立ったら私はおさらばだわ……。もう、既に私の元にはいないけどね。私には価値がないもの。』

『??なんでそうなるんですか?洋子さんも最高ですよ?』

『……私が?どこが?』

『おもしろい人です!』

『何それ。』

そんな風に、洋子さんも大切で。



だって、もう、彼らがいない人生なんて考えられない。




おかしなことに、章も道にそう言っていたらしい。


『俺がいなければ、母さんはもっといい結婚ができて、かわいい子がいたかもしれないのに……』と。

道が、章が一番だからと言うと、

『そう言って、違う人生だったらもっといい子が生まれて、もっと満足だったかもよ。』

と暗い。若い親子二人には明らかに埋められない穴もあったからだ。



血の繋がらない問題児、夫とゆっくり時間も取れなかったまだ若い、何もない後妻の未亡人、もてあます溢れるほどのエネルギーと、寛大な懐。



けれど道にとって、親子三人で過ごした2年弱は、道自身の人生観を全て変えるほど大変で、でも幸せな日々だった。その後の十数年も。


『もう章君がいなかった世界なんて考えられないから……』


シスターという選択もあったかもしれない。でも、結婚という社会的にも責任を伴う中で、たった一つの家族や家系に責任を持つという立場は、全てを愛したかった道に、また違う人生を教えてくれた。



「………」

ナオと尚香はお互い目が合うと、笑ってしまう。





その他には写っているのは、ほとんど洋子やイギリス生活での友人たち。あとは親戚たちだろうか。家庭の風景が垣間見える。変な感じだ。今の洋子と全然雰囲気が違う。この辺りは全部見ずに各フォルダの最初だけサッと確認。全部見ていると時間がない。




けれど、ナオが気になって少しだけ動画を見ていて尚香は気が付く。



洋子さんと道子さん。


似ているのに違うようで、違うようで似ている二人。太陽のように明るい道子。欧米人というのもあるかもしれないが、物をはっきり言う姿勢。


彩香のようだ。


そう、彩香(さやか)に似ている。


あの溌溂さ。頭の回転の良さ。怒っても、次会うと、笑顔で抱きしめてくれる気前の良さ。顔は似ていないのに、彩香のよう。


「………………」


「尚香ちゃん?」

「あ、作業、続けましょう。」

尚香は笑った。





洋子が結婚してイギリスに帰ってからは写真の色味が少し違う。デジカメ初期時代だろうか。デジカメ自体に苦手な色味があったのだろう。この辺も最初だけ見て、後はアイコン全体をサーと見ただけ。



妹は姉が本当に大切だったのと、きっと洋子は写真が下手でいつも撮ってもらう側だったのだろう。そんな気がする。道子の写真は少ない。



そして気になるフォルダを見つけた。


不思議な美人がそこにいる。





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