68 緑川祭
羊雲が留まる、すがすがしい秋空。
緑川祭、2日目最終日の午後1時。
体育館で軽音部が2曲歌う。なかなかの演奏だ。他の高校に比べればノリがいいが、反応が分かれるところがこの時代感を否めない。
「そして……最後に一曲!」
と女子生徒のボーガルが言うと、まだ歌うのか…という空気もあれば、わーー!!と盛り上げてくれる子もいる。そして替わる演奏メンバー。軽音部は何人かいるので入れ替わりだ。個々でバンドを組んでいるのではなく、10人もいないのでみんなで一つのバンドである。
次はLUSH+のカバーだ。
響く、みんなが見知ったメロディー。
有名曲なので聴きやすく、また歓声が沸く。
そして、あれれ?となる。
「サックス?」
分かる人には分かる。生のサックスの音だ。吹奏楽部も共演?え?
え?
ええ??
それにギターが違う。ギターは?この重さはベースだ。ウチの学校にベースいたっけ?電子音?となる。既に一部は期待していた。
ボーカル女子が歌い出すとともに、もう一人、新人ボーカルか。
「?!!!」
ここで、会場が明らかに騒めき………
「うわああああああああーーーーーーー!!!!!」
という歓声に変わった。バック幕から登場のこの男。
「え?え?え?え?え?え?マジ??!!」
「ウソ!!!!」
バーーー!と手が掲げられ、一気に体育館が盛り上がった。
功であった。
この時間帯は基本全生徒、体育館での総合発表。演劇や吹奏楽、ダンス、軽音部などの発表があり、招待客や連帯している他校生も後ろで見ることができるため大勢の人がいた。
毎年賞を取る創作ダンス部がトリなのに、なぜ今年は軽音部が最後なのかと思っていたが、やっと分かった。
この人たち登場だからである。
「アイラブみなさーーーん!!!!」
1曲終わってめちゃくちゃ手を振るのは、緑川の制服を着た真理。
「キャーーーーーー!!!!!!」
「サックスマリリーーーーン!&ベース、愛しの与根ちゃーん!!」
同じく緑川の制服を着て誰だか分からなかったが、手を振るのは与根。
「ギター、りりあんアンドあーちゃん!!!!」
軽音部二人が端で手を上げる。
「アーンドアーンド、ドラム、パンサーナッキー!!!!」
ナッキーこと直輝君は、春にドラムをしてくれた軽音部の彼だ。
「ナッキーーーーー!!!!!!!」
「パンサーーーー!!!!!」
と、直輝コールも起こり真理は続ける。なお、パンサーと言う名は気分で真理が付けただけだ。
「ピアノぉーーー…………、いなっちーーー!!!!!」
すると、軽快な音が響く。ピアノは伊那であった。ピアノなら音響がいらない。
「いろいろあれこれ~、ミンミン、ちかりん、と~の!!!」
「そして………ボーカルぅ………」
「おおおおーーーー!!!!!!」
と沸くも、勢いを溜め込んだ真理のマイクを、この男が取り上げる。
「ちょっ!!やめて!!まりが言いたい!!」
自分のマイクもあるのに、真理の頭を押さえてパッと離す。
「わぁ!」
真理を支えてマイクを返し、何か掲げるとそれはA4白黒コピーのライブ告知であった。
「フライヤーマン…………マンガ部、山ちゃーーーーーーん!!!!」
ヤマーーーー!!!!!と、沸くも、山田は観客の中である。僕?!っと戸惑っている。
今回功のお願いで、山田君が緑川のボーカルとLUSHのメンバーのイラストで、チャリティーライブ告知広告を作ってくれたのだ。普段はアニメっぽい絵を描くが、LUSHにも似合うようにと少しカトゥーンっぽくデザインしてくれていた。
皆さんチラシは見ていたが、有名バンドを呼ぶのは難しいという話も広がっていたし、高校の学祭の意図からは外れるので、軽音部のカバーライブだと思っていたのだ。なのに本人登場である。
ただ、春にLUSHが歌ったと噂が立っていたので、期待している者はそれなりにいたのか、体育館は通路を開けてあとは満員。泰以外、全員来たのだ。
功は、最後にボーカルの腕を掲げて、
「……ボーカル。…………軽音部ピューマ三河アーンド…………」
サンガーーーー!!!ピューマ!!!!!と笑いと歓声が沸き…
「功!!!!!!!!」
と、両腕ガッツボーズで言い切った。
なお、本当は「サンガ」さんは「みかわ」さんである。配信するのであだ名だ。
「わああああああーーーーーーー!!!!!!!!」
「キャああああーーーーーー!!!!!!!!!」
「こうーーーーーーー!!!!!!!」
そうして大声援の中、ライブが始まった。
ホッとする大和たちと、なんでうちの学校にまたLUSHが?何繋がり??と、驚きすぎる光や鈴。結花など泣いている。
誰かの母校なのか。Lushクラスティンと付けたから、どこかで聞いて乗ってくれたのか。実際、今回集めた寄付金は外部の大きな組織に半分。それ以外はLushクラスティンや他の地域貢献活動にも分配される。
「……俺の制服、借りてかれたのはあれだったのか……」
背の高い男子はやっと分かる。与根は山ちゃん、伊那は大和から、真理は藤野、功はバスケ部で一番背の高い男子の服を借りたのである。
なお、藤野には大和繋がりと言わない約束を先生を挟んでさせている。先生の知り合いの伝手で、ただ楽しそうだから来てみたという設定だ。
実は今回は完全チャリティー。その代わり必要なら生徒にボカシなど入れてから、イットシーで映像を配信させてもいいことになっている。学校のHPや実績に載せる場合、メンバーが映るものはイットシー提供写真、もしくはチェックの上使う約束である。お互いの広報に関しては写真の使用権は発生しない。
今は学校自体でも校内撮影やスマホについて、生徒と様々な約束をしているので、むやみに写真や動画などが流れることはないだろう。
ライブは途中、吹奏楽部も出て来て、真理の指導でアンサンブルも披露。そこに功たちで歌も加える。ダンス部も出演し、ほぼプロ並みのダンスを披露。アンコール含めて7曲ほど歌い、この日は大いに盛り上がったのであった。今回一部の部には前もって指導動画が送られ、合わせは本番ぶっつけである。
歌に自信のある者に出て来てもらい、その場でコーラスもさせ、先生も舞台に立たせれられる。
学祭の主役はあくまで生徒たち。
失敗しても、功がその場でつなぎ役をすると、それもステージになった。
その後に音楽、エンタメ関係の部活などに指導にも行っている。教室は廊下まで大盛況であった。
***
「すごい!めっちゃ楽しかったね!!」
緑川祭の反省会と打ち上げまで終わって、安心感と大満足の藤野。
「……はあ……でもこれから受験一直線だ………」
「ちょっとそういう事言わないでよ。」
みんな口々に話すも、大和はため息をついてしまう。実行委員ではなかった大和と利帆も結局補佐のようになり、あれこれ雑務をしたので打ち上げに入れてもらった。
みんなと別れて、今は利帆や合流した光たちとファーストフードにいる。
「すごい……。一緒に写真撮っちゃった……」
結花が写真を見て感激している。「わー!この学校にもLUSHがあるー!」と、真理がLushクラスティンの教室で感激してみんなと写真を撮ってくれたのだ。別の場所で功と与根とも撮っている。
コーラをすすりながら、スマホを見ている大和。
「大和、それいい写真だね。」
功が合唱部に何か話している風景が、人のいい先生のように見える。写真マジックだ。
分かったことは、あの男にきちんとした役割を持たせて立たせると、歌以外全然機能しないが、横から好きなことを言っていい自由形式だと、なかなかいい仕事をするという事だ。正直舞台上に関しては、感服せざる負えなかった。
緊張でガッチガチになっている子にも、裏声が出てしまった子にも、茶化すのではなく無理もさせず自然に笑いに変えてその要素のまま音楽に持って行く。舞台に出てみたら自分の出せる声とキーが全く違った子にも、自分がそのキーを歌い、その子にはその子の音を出させうまく対応していた。
信じられない。思い通りにならないと金本家では好き勝手自分を脅していたのに。
普段は暗いのに、舞台には口出ししたくなるのであろう。ただし、どうでもいいことに話を持って行くことも多いので、軌道修正する人間は必要である。
功は「自分は中高校で友達ができなくて、登校できても昼休み隠れてご飯を食べていました。皆さんは楽しく過ごすか、それも人生の味だと思って土や草でも触って、校内の掃除でもして情緒豊かに学校に行って下さい」と話していた。なぜか功には不登校という選択肢はなかったのだが、理由はない。
功は人がいなくても、学校にしかない教室や運動場、その空気が好きだ。一人二人でいい、自分に良くしてくれる先生や生徒がいるその空間も好きだったのである。
ただ、与根に止められて、話を変えていた。
しかし生徒たちも、高1でバンドデビューして、どうやって学校に通っていたのか聞いてはみたかった。ほぼギリギリの出席率であったらしいが、在籍中にヒット曲を出していたので学校に行く必要もあるまい。
「………どうしたの?大和。」
「……いや………」
なかなかいい写真が取れているけれど……尚香に送れないと思うと、なんだか胸にぽっかり穴が開いたようだ。ぽっかり………自分がこんな詩的な男になるとは。
尚香さんは知っているのだろうか。庁舎もやるべきところではやれる男だと。褒めるのは悔しいが、尚香があまりにも山名瀬章をバカを見る目で見ていたので教えてあげたい。
バンドの、音楽のフロントマンとしては言うことなしだと。
「尚香さんも来たら楽しかったのにね……」
利帆もさみしそうだ。
功は、こっちのLushは尚香が発起人だと、真理には言っていないようである。多分、尚香はLUSH+と顔も知りのはずなのだが。
最初に知り合った誰かと誰かが、楽しく笑っていた誰かと誰かが、
ずっとずっと一緒に、幸せになる。
世の中にあふれている物語は、世の中にありふれている事情とは全く違うのだと痛感した、高校最後の秋であった。
※フロントマン……バンドや音楽で中心を担う人物。




