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4 レイン再開も



尚香のレインのバイブがまたうるさく鳴っている。



『おねえさーん。そろそろ焼肉のお願い、果たす時ですよ?』


『サンギョプサル?マクチャン?テジカルビ?ソコギ?モクサル?オリヤンニョム?』

『それともフェ?』

『分からなかったら、響きの良さで選んでください。勘が試されます。』


意味の分からない尚香は無視。そもそもこの人の一方的約束である。冗談かと思っていたくらいで、今も冗談半分なのか本気で焼き肉がしたいのかよく分からない。


『サンギョプサルは脂の多いバラ肉の焼肉ですよ~。食べ方教えてあげます。』

『僕が奢りますよ。』

『焼けば脂は落ちるので大丈夫です!』



『功君とお仕事で6月に会うんですよね。彼と好きなだけ焼肉してください。私は仕事です。』

と返しておく。本人に直接言えばいいのに。



『怒ってますか?』

『日帰りで来れるのに?』

ソンジはわんこスタンプと共にこのメッセージを送るが、尚香がそんな萌え心を持っていないとは知らない。日本人はみんなかわいいが好きだと思っている。


『美容にもいいサムゲタンにしますか?』

『黒い鳥バージョンもいますよ。ちょっと高級です。』


『功君関連は、三浦さんに連絡してください。私は昼休み終わりです。』


『いけずですね。』

『エナドリのチケット送りますよ?韓国来てください!』

『KOU君見ますか?カッコいいですよ。』

『ご安心ください!女性スタッフ付きでお供します!』

『日本語できる人呼びます!コウが来ればいいけど。』

『知ってます?僕たちのツアー、コウも少し入るんです。』


前に泣かれて、エディミックスことエナドリのリーダーソンジとレインを再スタートするも、またもや、しつこい。しかもなぜこんなにも日本語が出来るのだ。



そんなやり取りの後に、『ごねんね、忙しいです。ソジンさんも忙しいと思うので、再度店じまいしますね。』と送ろうものなら、秒速で『やめて―!!』『ご乱心を!!』『悲しい!』『いじわる!』スタンプが送られてく来た。


もずく君含むどうしようもないキャラデザのスタンプで送られてくるので、素早いダンスができるのかと思う長身に、あのキリっとも甘くもある顔で、何を考えてこのスタンプを送ってくるのだと訳が分からなくなる。彼は、忙しい人ではないのか。


が、考えてみれば中身はまだ20歳くらいである。学生気分の抜けない子供ではないか。大人に囲まれた業界にいれば、普通とは違うこともあるだろうが、それでも今時の20歳でもあるのだ。

それに彼と焼肉などしたら、マスクを取らねばなるまい。あんな造形美に囲まれた生活をしている人の前で、功の恋人候補と思われてマスクを取るのは絶対に嫌である。


考えてみたら、おそらくソンジは尚香の顔を知らない。功が大好きサリカちゃんタイプだと思われては困る。スタイルで察してくれればいいが、それでも期待値と実物を見た時の落差が対馬海峡を越えそうだ。

知らない周囲はいつもの如く付き人と思ってくれるだろうが。


際沢事件の当事者が10歳近く年下の男子と噂になったあげく、その友達とも交友があった知られては困る。やっぱりそういう人間なんだと思われ自分がダメージを受けるどころか、功の評判も駄々下がりであろう。しかも最近ネットには、日本だけでなく韓国の芸能人のニュースまで事細かに上がってくる。

今まで尚香が知らなかっただけかもしれないが。



「…………」

昼休みの食堂で尚香はため息をついた。

この人にこの状態から『功君とはお付き合いしません』など送ったら、騒がれそうだ。このチャットは秘密にしておいてくれるのか。章のようにマネージャーにチェックされないのか。


彼には章と付き合っているとか言ったわけではないのに。


『お互い忙しくて、功君とは会わないことになりました。』

それだけ送ると、ショックスタンプの後に、怒涛の『悲しい、涙、なぜ?』が来る。



尚香はそれを無視して、スマホを閉じた。



どうすればいいのだ。

尚香だって分からない。ただ会わなければいいだけだ。


ちなみにソンジは年長から4年生までアメリカにいて、アメリカ当時から日本人に日本語を習っている。加えて前回会ってから、間に入るがごとく猛特訓したのだ。




***




6月。



韓国での4日間のコンサートの仕事は最大5万人規模の会場も使用。全席完売である。



「……あいつらスゲーな。」

数万人の観客を見ながら、他人事のようにつぶやく功。


歓声、ライト、空気の興奮が凄い。


こんなステージに初めから最後まで全て組まれた演出で出演するなど、もう今は考えられない。アイドル当時は、単独でここまでの規模の箱はあり得なかったが。


「功、次インだ。大丈夫か?」

「大丈夫かな?」

「前方限界のバミリ分かるか?」

「あの辺の蛍光黄色。」

「よし。」

段差もあり、LUSH+に比べたら複雑な舞台構成。心配そうな功に三浦が復習させると、待機した韓国側のスタッフが誘導し、その場で軽く飛んで体をならす。



「コウ、カジャ!」

そしてそのまま大歓声のステージに入って行った。



さらに大きく上がる歓声にホッとする三浦。

ステージにさえ出れば大丈夫だ。功はそこでは誰よりも動きがいい。心配事は、調子に乗ってくると予定にない動きをすることだ。今回は韓国の社長から、どうせ部分だし好きなだけ楽しんでいいと言われているが、時々主役より目立ってしまうし、どのメンバーやスタッフにもそれが受け入れられるわけでもない。

取り敢えずリハーサルは無茶なことはしなかったので、今日とあと3日、きちんとこなしてくれればいい。




そんなふうに、残りの日々が過ぎていく。




全てが終わり、打ち上げをしてイットシー関連のチームのみんなと別れると、その翌日は現地に残って、大仕事以外の様々な動画の撮影。主にネットに上げるショーツ動画だ。



すると、大手事務所のフロアで功を見付けて走ってくる、韓国人の女性。

「コウ~!!」

「うわっ!ティティカさん!!やめて!!」

「あんた何で逃げるわけ??」

ガッとTシャツを掴まれてから、サッと手首を掴まれる。

「先輩に挨拶しないとか、最悪なんだけど?」

「セクハラですけどー。」

「私にそれを言うわけ?」


ティティカが愛称の姉さんがまたガッと服を掴むと、そのままあれこれ撮影される。彼女は世界的グループ『ファーブ』のメンバーで、練習生の時に数人のメンバーと章を助けていた一人だ。お姉さんというよりお姉様でトータルした知名度はエナドリより高い。


実力もすごく男女共に一目置かれているので、ソンジや功を構ってもあまりいろいろ言われない。


「アイドルに戻って来たら?」

「嫌です。」

「即答するなよ。愛嬌ってもんがないの?」


「ユPD(ピディ)、ティティカさんとも撮っちゃいます?すぐ、他のメンバーも来ますけど。」

「だって。」

と、ティティカは功を見る。

「え……三浦さんが………」

「三浦さーん。いいですよね~。」

「お好きに。」

功は嫌だなと思うのだがもう撮影が始まっていた。


「ファーブの振り知らない………」

「絶対知ってんでしょ。観念しなさい。」



というところで、また入口を見て章は停止してしまう。


「え?」

ティティカそっちのけで、入口に釘付けになってしまう。信じられない人物が入って来たのだ。

「え?え?」

「………」

三浦ともう一人付いて来たマネージャーも止まってしまう。遂に出会ってしまった。

「……え?サリカちゃん?」



そう。功が大ファンのサリカちゃんであった。


と、その女性グループのメンバーたちが周りに挨拶して、後輩だが自分たちより売れているファーブにも丁寧に言葉を交わしていた。



そして誰もが気が付く。功が一人に釘付けだ。


「……あの、コウさん……ですよね?」

メンバーの一人が声を掛けると、功は先までの不愛想さがウソのようにうんうん頷いている。

「……コウ、後で覚えてろよ。」

と、ティティカが怖いが、もう今は何も恐れない。

「ティティカヌナ、なんでサリカちゃんいるの??」

「最近、事務所関係なくコラボするんだよ。」

「えー?何それ!」


そしてみんな知っている。公言していたので、功がサリカのファンだということを。周りも軽く挨拶をして、ちょっと照れている功はサリカちゃんの前に立った。


「あの……」

「はじめまして。功さん……初めてですよね。」

日本語で話しかけたので、日本語で答えてくれる。

「功です……。功クンって呼んでください……。」

「功クン?」

「はい!」

超ニコニコ。


「僕……。すっごいいいタイミングで仕事に来ました!」

「あ。そうですか?うれしいです。」


「………あいつ、ライブの時点でもう帰りたい、与根に会いたいとか言ってたくせに………」

三浦が馬鹿でも見るような顔をしている。この明らかな機嫌のよさ。最近非常に真面目に仕事はこなすが、あまり笑わなかったので、この変わりようは何かと問い正したい。


世界的人気のティティカとは渋っていたのに、こちらのメンバーとは超笑顔で対応の上に、みんなに気を遣ってもらい、サリカとツーショットまで撮って大満足である。ティティカとはポーズも全く遠慮がないが、サリカちゃんにハートマークをしてもらうと、恥ずかしがって微妙な距離を取っている。


「何あいつ、小学生なの?」

遅れて入って来たファーブの他のメンバーも一人はよく知る仲。

「ウチらが、サリカ取っちゃおうよ。」

と、一緒に仕事だったので間に入って邪魔をする。



実はもともと近日中に予定にあったものの、せっかくなら功の来た時に合わせてあげようとプロディーサーが調整してくれたのだ。


そんな感じで楽しく撮影をして、捕まる前に逃げていく功であった。




***




コンサル会社ジノンシー。



「尚香さーん!」

柚木が楽しそうに話しかけてくる。


「LUSHや庁舎君のアカウント見てます?」

「…………」

無反応で柚木を見る尚香。


「エナドリのライブ参加したじゃないですか。めっちゃ動画上がってますよ!ソンジやエナドリの方も!」

「……そうなんだ……。」

6月にあるのは知っていたが、日にちまでは知らない。

「……なんでそんなにそっけないんですか?」

「そう?」

会社では元々こんなふうなのだが……と思うも、何か滲み出ているのか。


そこに、川田も加わる。

「エナドリとのコラボが上がる度に、LUSH+や庁舎君のフォロー増えてますよ。」

「えっ。」

やめてほしい。

「エナドリやソンジの方に載ると一気に増えるっていうか。」

そんな分析までしないでほしい。前に聞いた時で210万人。それ以上増えてどうなるのか。幽霊アカウントではないのか。物珍しさで見に来る人やアンチも多いので、本当のファンはどれくらいいるのか分からない。


まだ、サリカたちとの動画までは上がっていないが、韓国は日本よりとにかく編集もアップも早い。イベントの総集動画をそのイベントのラストに流すくらいである。韓国のエンタメは分業化が進んでおり、まかせればとにかく仕上げが早いのだ。





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