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スリーライティング・下 Three Lighting  作者: タイニ
第二十章 飛び出すクイーン

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14 もうひとつのLUSH



星が丘付近の会議室。



「皆さん。今回は皆さんのワークにお誘いくださり本当にありがとうございます!曽良高志(たかし)です!」


公民館の一室で大陸まで突き抜けてしまいそうな勢いの男が、高校生の前で楽しそうに挨拶をする。


「…………」

尚香の又従姉弟、武田大和をはじめとする東京の高校生たちは、尚香さんが訳の分からない奴を連れて来たと、唖然として見てしまう。

末席では兼代や高垣、四谷などジノンシーのメンバーも、他の大人たちと楽しそうに見ているので、このスーツの大人たちは誰だと最初ビビっていた。


数日前の飲み会で今日のワークの話が出て、兼代が盛り上げてしまい、みんな見てみたいと言い出したのだ。

営業や企画は何でも仕事に繋がると思っているので、気分は半分仕事である。




今回の司会は高校生の光。


メインスピーカーは、高志君。

途上地域で地域開発に関わった尚香の大学時代の友人だ。大学は関東圏ではなく、中部圏の名北大で土木科らしい。みんな、『メイ大』に混乱する。

「メイ大?東明治?」

「中部で名大って言えば、名北だぞ。」

「中部と言わずも、名北大だろ。」

「頭いいの?」

「めっちゃいいぞ。」

「土木科って工事の仕方勉強するとこだろ?」

「土木科?近所の高校にもあるし。」

後で知るのだが、名北大の建築・土木は工学部である。



そして、尚香さんが高校生とおもしろいことをしていると聞いて遊びに来たジノンシーの兼代と高垣は、なんで地方にまでこんな知り合いがいるのかと、金本さんにあきれるばかりであった。





まず、高志の30分ほどの講話。

彼は正にわけの分からない人物であった。


英語の勉強をしたいと思っていたところ、大学の先生が補助する民間の有志で作った国際NPOに行けと言われる。そこで、海外キャンプに参加したことがきっかけで人生が一変した。


友達になった現地大学生があまりにも涙もろい男で、仲良くなった高志が帰国の際に彼が号泣。死ぬわけでもないのに、こんな時代にこんな情深い男がいるのかと感動。初対面なのに、動画通話で田舎の家族まで紹介される。

海外には日本の物差しで測れない、いろんな奴がいるのだと知った。


2年生ではカメラマンを努め広報補助としてキャンプに同行。そこで組織やイベントづくりの基礎の実践を叩きこまれる。


全てにおいて最も重要なのは信頼と安全と学ぶ。世の仕組みは単純であった。



コツコツ活動を続け、最終的にワークショップで出会った関西メンバーと共に別の国で事業を立ち上げてしまった。紆余曲折を経て、日本現地共に利益が出るまでに至っている。


そこまでの経緯が、金を着服されたり、歯医者で歯を失うかと思ったなどめちゃくちゃで面白い。

自分の学生時代よりはどこもだいぶ良くなったが、東南アジアのタイ近辺国の場合、手術はバンコクに行けという、コアな情報まで教えてもらった。保険はどうなるのだと聞きたい。


なお現地国の都会人や金持ちより、田舎では覚悟を決めてキャンプに参加した日本人の方が弾けていて、濁った水もボットン便所や穴の便所も使うので、トイレも沐浴もチャレンジャーであった。

それにも情深い彼の友人は感動して泣いていた。


尚香も一度だけこのキャンプに助っ人で呼ばれて参加したことがある。そこで彼らと縁を深めた。





「では、今いるメンバーで………、そうですね……。今回は少し人数が多いですがみんなで輪になりましょうか。」

自己紹介である。友人や親も来て30人ぐらいになるので、いつもだったら2、3グループに分けるが、今回は高校生を中心に大きく輪を作って見学人は後方に。


「さて、ここで基本は?」

結花が手を上げる。

「はい!新しいメンバーが1人でもいる時は、毎回全員自己紹介をするということです。」

「そうですね。」

「はい。」

「まだありますか?では君!」

「人数が多くてグループに分けた時は……、次の時もシャッフルして、また自己紹介をする。」

「パーフェクトです。」

高志君がグッドサインを送る。


いつも会える面子ではないので、覚えられるように何度も自己紹介をする。大勢いるので挨拶は名前と好きなこと1つのみ。次の人には、尚香の時のように自己紹介した人が次の誰かを指名する。後ろで隠れていた人も、全員自己紹介をさせられた。



そして、大きなグループの括りごとに代表者が自分たちの活動の挨拶をする。


まずは、今回の講師側チーム。

当時、自発的に集まった全国組織の総務であった三木さんという方が紹介。

「……ウチは個性的な人間が多過ぎて、人の話を聞かなくて…………大変でした。とくに高志と、………彰隆(あきたか)!国内移動でホーチミンって言ったのに、ハノイに行って予定を狂わされました!!」

みんな驚く。強者過ぎる。ジノンシーも驚きまくる。どうやったらそんなミスをするのだ。でもおかげで、ハノイの大学生たちまで連れて来たらしい。そんな彰隆君は現地スタッフなのに1日遅れてワークキャンプに参加した。



高校生の『Lushクラスティン』は、武見(たけみ)が挨拶。


彼はとにかく仕事ができる。

「ウチは大和のおねーさんの邪魔をしに行ったのがきっかけで………」

高校生が尚香を見るので、みんなも注目する。尚香は注目されるのが嫌で首を振るも、またなにかやらかしたのかとジノンシー組が呆れて見ていた。やらかしたのは大和だが。今日来ていた、友人や大和たちの担任も紹介される。



お母さん組は大和の母、由李子(よりこ)さん。

自分たちが親だという紹介まではうまく話せるも、その後どもってしまう。大和は恥ずかしそうに顔を背けるだけ。

「お母さんたちも、この前イベントで子供たちの服の準備を担当してくれましたー!」

と、鈴が手助けすると、わーと拍手が起こった。



そして最後ジノンシーにも振られる。


この集団。前もって全体を把握している人以外正体を知らず、何気に謎だったのでみんな注目する。

誰が代表で紹介します?とその場で話を合わせ、一番先輩の営業の四谷が出た。


「えー、皆さんこんにちは。私たちは、金本(きんもと)と同じ会社の同部署の者です。

わたくしたちは、社会貢献事業部も持っており……」

と簡単に説明し、

「うちの金本が相談役をしている高校生たちを見ておきたいとここに来ました。金本が私たちに仕事を放り投げてまで肩入れしている高校生がいかほどかと……」

と言うと、みんなビビっているので、尚香は違いますと言っておく。




交流とメンバー同士の疎通は、事業を恒久的なものにするにあたって、無難な運営より役立つ場合がある。相手を知りあうことや、関係性を作ること、自ら意見を言えるという事は何より重要だ。


これは、現在の活動や事業の推進だけでなく、楽しかった、よかったという思い出が将来的な人間関係の地盤作りに役立って行くのだ。

この力は、事業が潰れても、何かを成したいという経験と共に強い人間性を形成して、将来違う形でも役に立って行く。


この話は、現役学生の時は分からないが、彼らが社会人になって世間に放り出された時、人生につまずいた時、自分が努力して築いたあらゆるものが崩れてしまった時、本当の意味と力を知る事になるだろう。



ここが一つの人生の起点であり故郷になるのだ。


楽しかった、もしくは努力したこの時代を思い出し、もう一度立ち上がろうと思えるのだ。




「では質問のある人!」

「はい。」

このサークル、Lushクラスティンのリーダーである見た目も頭もいい光が手を挙げた。

「では、光君。……君、何かいい感じだね。」

男の高志君でも言ってしまう。こういうかっこいい子がいると、違う目的で集まってくる人がいるので困るのだ。


そんなかっこいい光君の質問。

「関東にも、皆さんみたいなグループがあるんですか?」

「もちろん。関東の方が数は断然多いですね。中部と関西は近いので、たまたまこの距離感になったんです。結城さん、どう思います?」

と言うと、輪になる前に後方席にいた関西の女性が答えてくれる。


「関東と関西だと性質が違い過ぎて、疎通出来ない場合があるんです。そこに中部メンバーが入ると強いわけで。」

自分たちでも西日本なのか東日本なのか分からない中部人。キョトンとしている。

「礼儀ありきで関東は型にはまり過ぎで、大阪メンバーは何が冗談か関東人には理解不能で……そこに、素直なのか反応しているのか分からない中部メンバーがクッションになってくれます。」

笑いが起こる。

「中部。関西関東に挟まれていると無難に見えるのに、何気に強者が多くて……」

「何気に、(いくさ)しまくってますからね。」


「はい!九州を無視しないで下さい!」

後ろから女性が一人手を挙げる。なんとただの高校生の半日ワークに、九州から飛んできたメンバーもいるらしい。

この後に同窓会もするという理由もあって来たらしいが、その心意気に拍手まで起きてしまった。彼女も、少しだけ自分たちの活動を報告した。




この後、高志に質問はと聞かれ、手を挙げるのは大和である。

「はい。」

「じゃあ、大和君。」


「ご結婚はされていますか?」

「え?」

高志、はじめて質問に詰まった。


「大和、バカなの??」

鈴に怒られるし、同じ会場にいたお母さんに呆れられるも、雰囲気を大事にする高志さん。

「あー!大丈夫。答えます!」


「してません。相手もいません!」

笑っていいのか分からないが、楽しそうなのでみんな笑ってしまう。

「こういうのは理解ある彼女が必要ですからねー。海外行きますし。私の場合、いませんでした!」

と笑う。

「でも、安心してください。そちらの西森さんは私より大変なところに行っていますが、御結婚されています。」

と言うと1人男性が手を挙げて笑っているので皆、拍手をする。


「私の場合、自分が将来こんな仕事をするとも思わず大学で彼女を作ったので……全く方向転換してしまった私に戸惑っていた当時の彼女には申し訳ありませんでした。」

「……彼女いない歴年齢じゃないんですね……」

「あんたほんとに…。」

大和、余計なことを言って遂に鈴に首根っこを掴まれた。


ちなみに大和は彼女いない歴年齢だ。小学校の時、付き合ってと言われて訳も分からず、手を繋がされた数日を除けば。その時の彼女は、自分からは何もしない大和に怒り、勝手に泣いて別れたことにされていた。何だったんだと思う。




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