まばゆい光
「表情が変わったな。朝香も翔も。すげえすっきりしてる」
「本当だよー。一時はどうなることかと思ったけど、色々と解決したって思っていいのかな?」
八月が終わった。九月初旬、菜々の経営するお香カフェ『海のいろどり』に、私と翔、菜々、隼人の四人で集まっていた。九月になったとはいえ、まだまだ夏真っ盛り。半袖のシャツをぐっしょりと汗で濡らした隼人が翔の肩をパンパンと叩く。翔が帰ってきてからこうして四人で集まったのは、何気に初めてだった。
「二人とも、心配かけてごめん。この通り、俺たち昔みたいに付き合うことになりました。遠回りしたけど、これから朝香と一緒に生きていきます」
恋人の両親に挨拶をするような初々しさで翔が二人に報告をする。菜々と隼人は顔を見合わせてにっこりと微笑んだ。
「良かったじゃん! いやー、十年前も、どうして二人は別れちゃったんだろうって思ってたんだ」
「翔と朝香以上にお似合いのカップルはいないよ」
そう言う菜々と隼人の右手には、お揃いの指輪がはめられている。二人のことも、後で根掘り葉掘り聞かないといけないな。
「ありがとう。本当に心配ばっかかけたけど、これからは大丈夫だから」
「そっか。でも仕事はどうするの? 例の報道に関しては、ちょっとずつ熱も冷めつつあるけど、まだ活動休止中だよね」
「うん。事務所の方に連絡を入れたら、今あの報道の件で、俺のために必死に闘ってくれているみたいなんだ。俺が戻って来られるように、事務所関係者の人たちが頑張ってくれてる。その話を聞いて、俺も闘わなくちゃって思ってる」
「へえ、さすが人気俳優は違うね。翔なら大丈夫だよ。ちゃんと事実を伝えていけば、ファンは翔の味方をするはず」
「そうそう、一部のアンチなんて気にすんな!」
隼人が突き出した拳を、翔が両手でキャッチする。「ありがとう」と明るい調子で彼らの励ましを受け取った。
「翔が仕事を再開したらさ、朝香はどうするの? 東京についていくの?」
「それは、今考えてるところ。しばらくは遠距離になると思う。でもね、今お父さんが東京に支社を出すことも考えてて。もし支社ができたら、私に東京支社を任せたいって言ってくれてる」
「えーそうなの!? それじゃあ、淡路島から出ていくんだね。寂しくなるねえ」
菜々は心底残念そうな顔をしたが、すぐに「でも翔のそばにいられる方がいいよね」と励ましてくれる。
「その時は、二拠点生活になると思う。やっぱり私は淡路島の方でも、お店を守っていきたいから。大変だけど、淡路島と東京、二つの場所で頑張るよ」
「それならまだ付き合い続けられる? 朝香がいないと、うちのカフェのお香、どうなっちゃうかと思って〜」
「もちろん。菜々のお店ともずっと付き合っていきたいって思ってるよ」
私の返事を聞いて感極まったのか、朝香は私に飛びついてきた。女子二人の友情劇を見た男子二人は微笑ましげにあはは、と笑っている。この感じ、懐かしい。高校時代に戻ったみたいだ。菜々と翔と隼人。みんな、別々の道を歩んではいるけれど、淡路島を通して繋がっている。潮風に当たれば、四人で過ごした青春の日々がいつでも色鮮やかに甦ってくる。私が淡路島を捨てるはずがない。だってここは、大切な私の故郷だから。
「翔が復帰したら、みんなで東京に行かない? 東京旅行しようよ!」
「お、いいなそれ。俺スカイツリー登ってみたい」
「隼人、スカイツリー登ったことないの?」
「ふん、どうせ俺は田舎もんだっ。いいんだよ、これからいくらでも翔に会い
に行けるんだから」
「ふふ、そうだね。みんなで翔に会いに行こう。休みの日は全力で翔に合わせるし」
「みんな、ありがとう。楽しみにしてる」
翔を囲んでみんなが心から笑っている。十年前に翔と別れたばかりの自分には想像できなかった未来だ。
十年間、後悔していたばかりの自分にさよならを。
潮の向こう側、手を伸ばした先にあったのはたくさんの後悔の上に手に入れた、まばゆい陽の光だった。
【終わり】




