戻ってきた
「う……っ」
いつかと同じように、船の上で目を覚ました私は、太陽のまぶしさに思わず両手で瞼を覆った。いつのまにかデッキに寝転んでいて、身体が焼け付くように暑い。命の危険を察知してすぐに起き上がった。
「戻って来たか、朝香」
不意に聞こえてきた声に、はっと息をのんだ。
「翔、どうしてここに」
なぜ、目の前に翔がいるのか、分からなかった。
彼とはこっちの世界で今日、吹上浜で対峙してからとっくに別れたはずだ。一体どうして? 状況を飲み込めずに瞬きを繰り返す。
「お前を追いかけて、この船に乗り込んだ。……お前を追いかけて、渦潮の中に飛び込んだ」
「は……? どういうこと」
「そのままの意味だよ。吹上浜で、朝香にひどい言葉をかけてしまったって後悔して。朝香のこと追いかけた。そしたらお前、『うしお丸』に乗ったから、もしかして、と思って乗り込んだんだ。チケットの販売があと一枚だけ残ってたのはラッキーだったよ。船の出発も少し遅れてたおかげでなんとか間に合った」
翔は何を言っているのだろう。
彼の語ることが本当だとして、じゃあ私がタイムスリップをして話していた翔って。
そこまで考えた時、彼が自分のスマホを掲げてみせた。そこには、「幸運」と書かれた梅の形のお守りがさがっている。慌てて自分のスマホを取り出すと、同じお守りがくっついていた。
夢かと思った。
だって、そんなこと。
そんなことって、本当に——。
「福岡旅行——いや、“再生の旅”、楽しかったな。日帰りになっちまったけど、久しぶりに二人で精一杯向き合えて、幸せな時間だった」
「なんで……」
もう聞かなくても分かる。タイムスリップをして私が会っていたのは、向き合っていたのは目の前にいる二十八歳の翔だ。
「なんで渦潮に飛び込んだのかって? 一つはもちろん、お前が死ぬかもしれないって思ったからだ。無謀だけど咄嗟に身体が動いてた。助けたかった。でももう一つは……お前と同じで、過去の後悔を消しにいきたいって思った。朝香が抱いているかもしれない後悔。俺が朝香に別れを告げた日に、俺たちお互いがきっと何かしらの後悔を抱えていた。だからその瞬間に戻って、やり直したかったんだ。半分以上賭けだったんだけどな。普通なら渦潮に飛び込んで死ぬかもしれないって思うだろ。だからまあ、しなばもろとも! って勢いでつい」
つい、とおどけて言ってみせる翔だったが、事が事だけに笑い事ではないことはお互い分かっていた。たまたまタイムスリップが成功したから良かったものの、もしかしたら本当に二人で海の底に沈んでいたかもしれないのだ。




