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潮に閉じ込めたきみの後悔を拭いたい  作者: 葉方萌生
第六章 真の光

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旅立ち

 朝日が昇ると同時に、大きなリュックを背負って家を出た。

 ダイニングテーブルの上に、「しばらく遠出します。お盆が終わる頃には帰ります」と書き置きを残した。メモを見た両親は、怒るだろう。会社が一番繁忙期の時期に家出するなんて信じられないと後で罵詈雑言を浴びせられるに違いない。でも、構わなかった。二十八歳の私は、この十年で両親に反抗するだけの図太さと、経験を得たのだから。


 翔との待ち合わせはあわじ南高校の校門前だ。翔と落ち合う時はいつもここで待ち合わせをしていた。私が校門に着くと、彼も同じようにリュックを背負い、帽子を被って待っていた。昨日同様、今日も長袖を着ている。早朝なので、昼間に比べると暑さはだいぶましだが、日差しは強い。私を見つけると、彼は「よっ」と思ったより明るく微笑んで片手を挙げた。


「おはよう。早速行こうか」


「うん」


 無駄なやり取りは一切なく、私は翔の手を取って歩き出した。昨日、翔の口から「別れよう」という言葉が出てきたのを確かに聞いたが、彼の本心ではなかったという確信が持てた。それでも、二人の間には少しばかり緊張感が漂っている。


 神戸行きの高速バスに乗るのに、福良港の近くにあるバス停まで歩いた。発着時刻は把握しているので、少し待つとバスがやってきた。昨日の夜に予約しておいたWEBチケットを見せて、バスに乗り込む。


 窓から差し込む朝日の眩しさに、思わず目を細める。翔が私に、自分の帽子を被せてくれる。


「いいの?」


「ああ。日焼けするだろ」


「ありがとう」


 私は、ろくに日焼け対策もせずに家を出てきてしまったことが恥ずかしくなって顔を伏せた。リュックを抱え込むようにして並んで座った私たちは、バスが発車してしばらくすると、うとうととし始める。淡路島の中央部まで進んだ頃には、二人して眠ってしまっていた。

 目が覚めたのは、バスが神戸三宮までたどり着いた頃だ。


「翔、到着したよ。起きて」


 翔は私の肩に頭を乗せて眠っていた。私が彼の肩を揺らすと、「ん……」と頭をもたげる。


「ああ、もう着いたんだ」


 翔の右頬が赤くなっているのを見て、私はくすりと笑ってしまった。寝起きの顔は子供のようで、翔の保護者になった気分だ。二人一緒にバスを降りると、すっかり目が覚めた街の風景に、一気に遠くに来たという感覚が芽生えた。


「やっぱり神戸の街はでかいな」


「そうだね。一人だったら怖気付いて歩けないかも」


「というより、朝香は迷子になりそうだな」


「む、ひどい〜。今時スマホがあれば迷うことなんてないって!」


 威勢よく言い放ったものの、歩き出した方向は反対方向だったらしい。


「ぷっ。言ってる側から間違えてやんの」


「こ、これは、マップのGPSが狂ってたんだって」


「にしても、看板見れば分かるだろ。駅はあっちだ」


「う〜」


 いつもの調子の翔にツッコまれて、ぐうの音も出ない。大人しく翔について歩く。東京に住んでいたことがある翔は街中に慣れているようで、看板を見ながら迷いなく進んでいった。

 三宮から新神戸駅までたったの一駅だ。ものの数分で新神戸駅に着くと、今度は新幹線乗り場へと向かっていく。さすがに私も駅の中を歩くのに要領を得てきて、「新幹線のりば」と書かれた場所までは迷いなく辿り着くことができた。


——逃げるって、どこに行くんだ?


——うーん、そうだね。東京とは反対がいいな……そうだ、九州とかどう?


——はあっ? 九州? 遠すぎないか?


——いいじゃん。さすがに私の両親も、そこまで追いかけてきたりしないと思うし。


——俺は全然いいけど、本当に大丈夫か?


——うん、任せて。


 昨日の夜、別れ話をしていたはずの私たちはあっさりと九州に行くことに決めた。「東京とは真反対で、できるだけ遠いところ」という短絡的な考えで決めた目的地だった。二十八歳の私は何度か九州を訪れたことがあるが、十八歳の私は初めてのはずだ。新鮮な気持ちであることを装って、翔と新幹線の切符を購入する。お盆期間なので座席が空いていないことを覚悟していたが、直前のキャンセルで空きが出たようで幸運だった。


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