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潮に閉じ込めたきみの後悔を拭いたい  作者: 葉方萌生
第五章 虚の瞳

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大丈夫じゃない

 ねえ翔。

 あなたは今、何を考えてる……?

 閉店まで、終始翔のことを考え続けた。

 大丈夫だ。翔は強い。昨日、彼の壮絶な人生の話を聞いてしまったけれど、それでも翔は我が道を歩いてきたんだ。あんな記事一つで、翔がへこたれるはずがない。菜々と話して確信に近づいた。


 けれど、そんな自分の考えが甘かったことを、私はすぐに思い知らされることになる。


 翔が隼人の元を訪ねたのは翌日の昼のことだった。


『もしもし、朝香? 仕事中? 今、大丈夫か?』


 午後一時、珍しく隼人から電話がかかってきたと思ったら、開口一番切羽詰まった様子だったので、私ははっと息をのんだ。


「うん、仕事は今落ち着いてる。どうしたの」


 翔の記事のことかもしれないと予想はしていた。けれど、次に隼人の口から飛び出してきたのは、記事のことではなかった。


『さっき翔が俺のところに来たんだよ。なんか、様子がおかしかった。最初はいつもみたいにへらへら笑って馬鹿話なんかしてさ。俺も記事の内容を見た後だったから、なんでこいつ、こんなに元気なんだろうって気になって。そしたら翔、だんだん暗い表情になって。俺に向かって“ごめん”って言うんだ。何がごめんなんだよって聞いても答えてくれなくて。とにかくあいつ、謝ってばかりで……。そのままふらっと去っていたんだ。追いかけようとしたけど、ちょうどそのタイミングで父親に呼ばれて仕事に戻らざるを得なくなった。……朝香、あいつ絶対変だよ。あの記事のことが堪えてるはずだ。それに“ごめん”って言うのも気になっちまって。お前のところには、来てないか?』


 捲し立てるような隼人の言葉が、遠い汽笛のようにブゥゥゥゥーンと聞こえたような気がする。ノイズが混ざって、彼が何を言っているのか、上手く解釈ができない。実際ははっきりと聞こえたはずなのに、脳が理解することを拒否しているようだった。


「翔……」


 自分の考えが浅はかだったことを、思い知らされた。翔は大丈夫なんかじゃない。

 翔と今すぐ話したい。そんな衝動に駆られたが、香風堂の閉店まで、まだまだ時間がある。今日はアルバイトの学生が一人来ているけれど、今すぐ店を出ることはできない。


「……っ」


 こんな時にどうして。

 身体を縄で縛られているかのようにがんじがらめ状態の私は、必死に頭を動かすしかなかった。やがて思いついた一つの結論に、ごくりと生唾をのみ込む。


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