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潮に閉じ込めたきみの後悔を拭いたい  作者: 葉方萌生
第五章 虚の瞳

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報道

 翔のことを真剣に考えよう。

 彼がこれからどうしていくべきなのか、一緒に考えたい。

 彼の悩みに少しでも寄り添いたい。

 その日の夜、私は寝床に入ってからもずっと翔のことを想っていた。

 今日はまだ頭の中が混沌としているから、明日、もう一度翔と会って話し合おう。菜々や隼人に意見を聞くのもいいかもしれない。

 大丈夫。そんなふうに考えていたんだけれど。

 現実はそれほど悠長に待ってくれなかった。

 翔とAisaの不倫報道が出たのは、その翌日のことだった——。



『天ヶ瀬翔、Aisaと熱愛か? 不倫疑惑濃厚』


 朝、滅多に開かないSNSの画面を見て一気に目が覚めた。一階のリビングからは母がトーストを焼くチンという軽い音が聞こえた。私はスマホを凝視したまま固まる。


『先月活動休止を発表した俳優の天ヶ瀬翔(二十八)が、タレントのAisa(二十四)と並んで歩いているところを目撃した。後日、Aisaに直撃インタビューを実施したところ、彼女はこう述べている。“天ヶ瀬翔とは恋人関係であることを認めます。夫とは家庭内別居状態で離婚寸前です”。Aisaの所属する事務所関係者からは、事実確認中だとコメントを得ている』


 目の前がクラクラとして、耳鳴りがする。記事は某週刊誌の記者が書いたもので、トップ画像にはAisaと翔と思われる人物が、並んで歩いているところが写っている。確かに恋人だと言われればそう見えなくもないが、単に一緒に歩いているだけと言われたらそれも納得してしまう。こんな、品性のない記事を誰が信じるのか——怒りに震えながら記事の下にあるコメント欄を目にした。


『Aisaと天ヶ瀬翔が熱愛? お似合いじゃん』

『恋愛は自由だが不倫はやばいだろw』

『こんな記事出して、事務所大丈夫? 天ヶ瀬翔、戻って来れないんじゃね?』

『Aisaも開き直りすぎてびっくりww』


 翔とは何の関係もない人たちの心無いコメントがずらりと並んでいることに違和感を覚え、吐き気が込み上げた。みんな、勝手なことを! 何も知らないくせに。この情報はAisaがわざと週刊誌に売りつけたものだ。全部、彼女が翔に復讐をするためだ。私怨を世間全体でぶつけるなんて、許せないよ。


 記事のコメント欄も、SNSのリプ欄も確認するのが胸糞悪くて、私はすぐさまSNSを閉じた。翔が心配だ。こうなることを彼自身が予想していたとはいえ、本人はかなりのダメージを受けているだろう。


 すぐさま翔に電話をかけた。けれど、翔は電話に出ない。メッセージを入れ

てみたが、そちらも既読がつかなかった。この騒動で、スマホの電源を切っているのかもしれない。私が翔の立場だったらきっとそうするだろう。


 焦りを覚えつつも、自分ではどうしようもない事態に、身体が震えていた。今日は土曜日だ。お店を開けなくちゃいけない。ごくりと生唾をのみこんで、朝食を食べにリビングへ向かった。母から「顔色が悪いわね」とツッコまれたけれど、まともに返事ができなかった。


 放心状態のまま香風堂に出勤をしてお店を開ける。お盆明けということもあり、線香を買っていくお客さんは少なかった。たどたどしいながらもやってきたお客さんに、季節のお香を勧める。いつも嗅いでいる香りに満ちた店内も、今日は刺激の強い場所に感じられた。


 菜々がやってきたのは、午後五時を回った頃だ。この時間になると客足も徐々に減っていく。菜々の方はカフェなのでこれからディナータイムで忙しいはずだ。彼女の来訪に、私は驚きを隠せない。


「菜々、どうしたの? お店は?」


「どうしたの、じゃないよ! 朝香も見たでしょ、あのネットの記事」


「……うん、見た。それでウチへ?」


「そりゃそうよ。Aisaとの不倫報道もびっくりしたけど、それ以上に翔がネグレクトだなんて……」


「え?」


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