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潮に閉じ込めたきみの後悔を拭いたい  作者: 葉方萌生
第五章 虚の瞳

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きみに会えたから

「何度か施設に連れて行かれたこともある。でも数日すると、母さんは“ごめんね”と言って俺を連れ戻しにきた。“ごめんね翔。これからはちゃんとするから。本当にごめんなさい”って俺を抱きしめるんだ。その時、俺の中で不足してた母さんの愛情を感じ取って、俺はなんとも言えない気持ちにさせられた。所詮、まだガキだったからな。母さんからの愛情に飢えていたんだ。だから少しでもそれを感じ取ったら、母さんのところへ戻らずにはいられなかった。でもお察しの通り、母さんは俺を連れて帰った後、やっぱりネグレクトを繰り返す。俺、いつも学校の給食だけが一日の飯だったんだぜ。育ち盛りになると、毎日お腹が空いてたまらなかった。道端の花を摘んで食べたこともある。もちろん腹を壊したけどな。それでも、空腹でい続けるよりはましだった」


 幼い翔が、田んぼの畦道で「お腹が空いた」と泣いていた記憶が蘇る。「うしお丸」に乗って渦潮にのまれた時のことだ。あの時、過去の翔に出会った。薄汚れた保育園のスモッグを着た翔は、まさに母親から食べ物を十分に与えられていない状況だったのだ。だからこそ、私が渡した駄菓子のラムネを貪り食うようにして食べた。その時は、よっぽどお腹が空いていたんだろうとしか思わなかったのだけれど、翔にとってはあのラムネが、大事な生命線の一つだったのだ。


「東京に引っ越したのは、母さんの病気がひどくなったタイミングだった。ばあちゃんたちが気を利かせて、声をかけてくれたんだろうな。一度目は俺が小学校に上がる前。でもばあちゃんたちは俺が中二の時に亡くなってしまって。そのタイミングでまた淡路島に戻ってきた。他に行く当てもなく、母さんがふと“淡路島に帰りたい”と言ったせいだ。俺は、なんで自分を捨てた男が好きだった地に戻りたいのか、意味が分からなかった。必死に反対したけれど、母さんはまるで俺の声なんか聞こえてないみたいに俺の言葉を無視し続けた。結局あの人にとって、俺はお荷物でしかないんだ。あの人の一番は、父さんだった。捨てられた過去なんか忘れたみたいに、父さんを求めてる。俺はやるせない気持ちになりながら、それでも母さんについていくしかなかった。それが中二の秋」


 幼い子供が、たった一人、自分を愛してくれるはずの母親の視界にも入れてもらえない。そんな現実をリアルに想像して、ぶるりと身体が震えた。


「結果的に、淡路島に戻ってきたことは俺にとって幸運だったよ。高校で朝香に出会えたから」


「翔……」

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