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潮に閉じ込めたきみの後悔を拭いたい  作者: 葉方萌生
第五章 虚の瞳

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不穏な影


『翔を返して。翔はもう、あなたの知らない人なんだから』


 一瞬にして高校時代に翔と離れてしまった時のことを思い出し、すぐに現実へと引き戻される。

 不穏な翳りを帯びた暗い声が、地鳴りのように頭に響いている。受話器を持つ手に自然と汗が滲んだ。


「返すって……一体どういうことですか。あなたは誰——」


 気が動転していたのは確かだ。けれど、電話の主のことが気になった。一体どこの誰が。わざわざお店に電話をしてきたというのか。私が電話に出ることを見越しているようで、恐ろしかった。


『……』


 果たして答えは返ってこなかった。何も情報を得られないまま通話が途切れる。ツーツーという停止音が虚しく響いた。


「なんだったの……」


 茫然自失状態で受話器を置いた。閉店時間をとっくに過ぎた店内が、どこかよそよそしく感じられる。真夏だというのに、寒気すら覚えて冷房のスイッチをオフにした。

 とにかく今日は帰ろう。

 ドクドクと心臓がうるさいくらいに脈打っているのを必死に宥めるようにしてお店を出た。そのまま車に乗り込んで、家に帰ろうとした。けれど、先ほどの電話の声を思い出して、行き先を変える。

 無意識のうちに運転をして辿り着いたのは、かつて翔が住んでいたアパートだった。翔は今も、このアパートで暮らしているらしい。


 相変わらず古びたアパートは、十年経った今、外壁だけ塗装がし直されたようだが、年季が入っていることには変わりない。

 記憶を掘り起こして、彼が住んでいた部屋へと向かう。玄関の前まで来て立ち止まった。ゆっくりと呼び鈴を鳴らすと、中から「はーい」と声が聞こえた。


「どちら様ですか?」 


 顔を出したのは知らない女の人だった。年齢は四十代前半ぐらい。見たことのない顔に、私は「す、すみません」と頭を下げた。


「間違えました。失礼しました」


 パタン、と閉じられた扉の前で途方に暮れる私。

 翔、このアパートに住んでるって言ってたのにな……。

 もしかして嘘をつかれたんだろうか。でも、私に家の場所を嘘つく理由もない。再会した翔は屈託のない持ち前の明るさで私と関わっている。十年前、私に別れを告げた時の彼とは違うのだ。


 翔に連絡をしてみようかと迷いながら、元来た廊下をとぼとぼと歩く。連絡をしたところで、そもそも今日は約束をしていたわけじゃない。突然連絡したって迷惑じゃないか。余計な心配までしかけたところで、不意に「朝香?」とどこからか声をかけられた。

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