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潮に閉じ込めたきみの後悔を拭いたい  作者: 葉方萌生
第四章 闇の星

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秘め事

 中から取り出した小ぶりの箱をぱかっと開ける。

 出てきたのは、ゴールドのブレスレットだった。波打つようなデザインでとてもおしゃれだ。


「可愛い……ありがとうっ!」


「朝香に似合うと思って。ねえ、付けてみて」


 頬を染めてはにかむ翔の前で、私はブレスレットを左腕に通した。サイズはぴったりで、装飾品を一切つけていなかった腕が、一気に華やかに輝く。


「お、すげー似合ってる。良かった!」


「うん! めちゃくちゃ可愛いし気に入った。本当にありがとう」


 素敵なブレスレットをいただけたこともそうだけれど、何より彼が私のことを想ってプレゼントを買ってくれたことが嬉しかった。世の中にこんなに嬉しい瞬間があるのかと、馬鹿みたいに思った。


「実は私からもプレゼントがあるの。これどうぞ」


 今度は私の方が、翔にラッピングされた袋を渡した。

 中身は男性用のペンダントだ。シルバーの羽の形のモチーフがあしらわれている。


「うわ、ありがとう。すごくいい」


 翔は早速ペンダントを首につける。胸元できらりと光るそれが、圧倒的な存在感を放つ。


「翔っぽいなと思って選んだの。どうかな?」


「ああ、これ、気に入った! こういうおしゃれなペンダント欲しかったんだよな」


「そっか。何あげたらいいかすごく悩んだから、気に入ってもらえて嬉しい」


 私たちは、交換したプレゼントを互いに見つめ合い、似合ってるね、と褒め合った。

 初めて食べる上等なコース料理に舌鼓を打って、大切な人と幻想的な海を眺める。心も身体も満たされた、幸せなひとときだった。



 高校二年生になると、なんと私と翔、菜々と隼人は同じクラスになった。もともと学年で四クラスしかクラスがないので、友達と同じクラスになる確率は高い。だが、仲良し四人組で同じクラスになれたのは奇跡だった。


 学年が上がっても、私は相変わらず翔とラブラブだ。

 同じクラスになったクラスメイトからは、「惚気やめてー」と毎日のように言われる日々だ。決して惚気ているつもりはないが、翔の方が日々屈託のない笑顔で私に話しかけてくるものだから、みんな私たちのラブラブっぷりを見せつけられている気分になったんだろう。


「翔ってさー、本当に朝香のこと好きだよなあ」


 二年二組の教室で、隼人が微笑ましげに翔を見つめていた。菜々も会話に参戦する。


「ほんとほんと。私、最初は朝香の方が翔にぞっこんなんだと思ってたのに、翔の方がよっぽど朝香を好きなんだもんね」


「えー違うよ。私の方が翔を好きなんだって」


「うわ、出た出た。朝香、すぐそんな風に惚気るんだから」


「え、これも惚気に入る!? だったら私、そもそも恋バナとかできなくなるんだけど」


「もうお腹いっぱいだってー」


 菜々はそう言いつつも、ケタケタとお腹を抱えて笑っていた。ただ私を揶揄っていただけなのだ。私はむっとして、それでもちょっと離れた場所で男友達と笑顔で語らう翔の横顔をうっとりとした気持ちで見つめていた。


「ちぇ、いいよなお前たちは相思相愛で。俺なんか、何度アタックしてもダメなんだからさあ」


「何度アタックしても? 隼人、あんた一体誰にそんなに何回もアタックしてんの」


「そりゃクラスのマドンナたちだよ」


「はあ? いろんな人に声かけてるってこと?」


「こういうのは数撃ちゃ当たるんだよっ」


「呆れた。呆れてものも言えない。あんたも翔と朝香の純愛を見てるでしょ。二人の爪の垢煎じて飲みな」


「うわ、爪の垢飲むなんて汚ねえからやだね!」


 ことわざを文字通りの意味で受け取った隼人に、菜々はやっぱり「はあ」とため息をついた。隼人は本当におバカだけれど、私は隼人の言葉に一つの嘘が含まれているのを知っている。


 隼人はたくさんの女子にアタックしてなんかいない。

 一年生の時にはそういう時期もあったのかもしれないけれど、今は違う。だって隼人が気になっているのは他でもない、菜々なんだから。

 だけど菜々は隼人の気持ちが自分に向いているなど、微塵も思っていないのだろう。二人の距離感をもどかしく思いつつ、私はあえて触れないでいた。



 こうして高校二年生の一年間は、菜々たちと四人で楽しくわいわいと過ごした。

 二年生の終わりには修学旅行があり、私たちは北海道へスキー旅行に出かけた。修学旅行中、こっそり部屋を抜け出して翔とキスをしたことは、人生最大の秘め事だ。


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