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潮に閉じ込めたきみの後悔を拭いたい  作者: 葉方萌生
第三章 波の音

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逢瀬

 その日を皮切りに、翔とは頻繁に連絡を取り合うようになった。何かの枷が外れてしまったみたいに、翔は私の日常に舞い込んできた。そのことを香風堂にやってきた菜々に話すと、「まじ!?」と心底驚いている様子だった。


「やっぱりあんたたち二人、お似合いだったもん」


「いや、そういうわけじゃないけど」


「私は信じてたけどなー。二人、別れちゃったけど絶対いつかまた惹かれ合うって」


「そうなの? そんなふうに思ってたなんて、初めて知ったよ」


「そりゃ、本人を前にしては言わないわよ。とにかく、朝香が翔とまた仲良くしてくれるなら良かった」


 菜々はいつだって、私と翔の味方をしてくれる。きっと隼人もそうだ。私たちは高校時代、四人でよく遊んでいたけれど、菜々と隼人が私と翔を見つめるまなざしはいつも慈愛に満ちていた。


「ありがとう、菜々。どうなるか分からないけど、翔、しばらくこっちにいるみたいだし、またみんなで集まれたらいいなって思ってる」


「それ、最初の集まり断ったあんたが言う〜?」


 ケラケラと豪快に笑う菜々が私には清々しく映った。

 翔がどんな事情で仕事を休んでいるのかは分からないけれど。これからはまた昔みたいに、四人で顔を合わせられるかもしれない。なんだか同窓会みたいで、まだそんな予定もないのにすでに楽しみだった。



 翔と私は十年ぶりに、何度も逢瀬を重ねた。

 新しく西海岸にできたカフェに行ったり、翔が主演を務めている映画を見に行ったり。映画に関しては、本人は「恥ずかしいから一緒に観たくねえ!」と反対していたが、私が強引に連れて行った。観終わった後喫茶店で翔の演技を褒め称え、そして「ここが足りない」と偉そうにアドバイスなんかして。冗談だったのに、ダメ出しを真に受けた翔は「朝香には俺の苦労なんて分かんねえよ〜」と嘆いていた。悔しそうにする彼が可愛らしくて、意地悪を言ったのは私の方なのに、もっと揶揄いたくなってしまった。


 カフェや海に遊びに行く時には、高校生の時とは違って車で移動できるようになったからとても楽だった。ドライブデートも何度かするうちに慣れてきて、助手席から翔の横顔を眺めるのが日常になった。デートは私の仕事の関係で平日が多かったからか、目的地はいつも空いていた。そのおかげで、俳優の翔がぶらついていても周囲の人間にほとんどバレることはない。そもそも誰も、淡路島にあの天ヶ瀬翔がいるなんて思いもしないのだから。


「淡路島は開放的でいいな。外歩くのも人目を気にしなくていいし」


「ええ、都会とは一線を画しますから」


「玉ねぎも甘くて美味しいしな」


「玉ねぎは別に甘くなくていいよ」


「朝香、嫌いだったっけ?」


「甘ったるいのが苦手なだけ」


 あはは、と豪快に口を開けて笑う翔にちょっとむっとした。どうせ、高校生の頃から変わってないと思ってるんだろう。あの頃も甘すぎる玉ねぎが苦手だったから。


「俺、やっぱり朝香の匂い、好きだな」


「匂いって、お香の?」


「うん。すっげえ落ち着く匂い。東京にいた時、朝香の匂いが恋しくなったことがある」


「なにそれ、変態みたい」


「変態でいいよ」


 別れた恋人の匂いが恋しいなんて、こいつがそんな甘えたことを言うなんて思ってもみなかった。


 大体、先に別れを切り出したのはそっちじゃないの。

 そんな悪態は口には出さず、ごくりと唾をのみこんで止めた。

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