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潮に閉じ込めたきみの後悔を拭いたい  作者: 葉方萌生
第三章 波の音

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理解できてなかった

「そっか……そんなことが」


 翔の家庭がシングルマザーであることは知っていた。でもその裏で、翔や母親が抱えているものまで、私は知ろうとしなかった。

 だって高校時代の翔はいつも明るくて、常に笑顔を絶やさない人だったから。

 太陽みたいに眩しく笑っていた。完璧な容姿に恵まれて、他の友達の前でだってきらきらと輝いていて。翔の周りだけが、溌剌としたエネルギーに満ち溢れている。彼と一緒にいるだけで、自分までスターになれるような気がした。

 きっと私以外のみんなも、翔に対して同じ印象を抱いていたに違いない。

 私は、高校時代に大好きだった彼のことを、全然理解できていなかったんだ。


「ごめん、変な空気にさせちまったな。ぶっちゃけそこまで大変とかじゃなかったよ。俺、淡路島好きだし。東京って言っても田舎の方だったから、生活はそんな変わんなかった。ただ距離が遠いだけ。大人になってからは、『淡路島に住んでた』って言うだけで何かと話題になるし、便利!」


「便利って……そんなものかなあ」


「うん、そんなもん。だから朝香が気にすることは何もない」


 不意に、頭の上に何かが触れた。温かく、大きな手のひらの感触。翔の手だった。ドキリとして反射的に身を縮こませる。それでも彼は、めげずに私の頭を撫でた。


「ちょっと、何して」


「朝香、こうされるの好きだっただろ」


「そ、それはそうだけど……! でも昔の話だって」


「いいじゃん。俺がしたい気分なの」


 自分がしたくても相手が嫌ならセクハラになるんだよ——そう悪態をつこうと思ったのだけれど、言葉が喉元に詰まった。

 私は今、翔から頭を撫でられていることを嫌だと思っていない……。

 それどころか、嬉しいとさえ感じている。

 私、どうして——。


「もうちょっとしたら福良港だぞ。帰りは早く感じたな〜」


「う、うん。そうだね」


 いつの間にか私の頭の上から離れていた彼の大きな手は、私の右手首を掴んでいた。


「こうしてたら、落ちないだろ?」


 にんまりと、彼の顔に浮かんだ笑顔がズキズキという痛みを胸に運んでくる。

 手のひら同士ではないけれど、確かに今、私は彼と繋がっている。

 十年前、彼を大好きだった頃、毎日のように二人は繋がっていた。

 私は今、どうして彼の手を握ることができないんだろう——。


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