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潮に閉じ込めたきみの後悔を拭いたい  作者: 葉方萌生
第三章 波の音

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心の準備

 船は淡路島から徳島県へと繋ぐ鳴門海峡の方まで進んでいく。一度は乗ったことのある船だが、こうして久しぶりに乗ると、移り変わる海の景色に早くも心を奪われていた。


「うわ〜風が気持ちいいな!」


「ええ、本当に」


 私も翔も、風で前髪がサーっと後ろへと靡いている。お互いの顔を見合わせてどちらからともなく「ぷっ」と吹き出す。


「こうして船に乗ってると、案外スピード速いもんだな」


「そうだよね。下見てよ。波がすごいから」


「本当だ。すごい水飛沫」


 船は遠くから見るとすごくゆっくり進んでいるように見えるけれど、実際に乗ってみると進みは速い。それでも、渦潮観光船は所要時間一時間のクルーズだ。約三十分かけて渦潮を見られる鳴門海峡までたどり着いた。


 渦潮は、その日の潮流によって、大きいものが見られる日もあれば、まったく現れない日もある。時間帯によっても変わってくるので事前に「渦潮予報」を調べるのが鉄則なのだが、今日はやってきた船に飛び込んだから、どうなるんだろう。と、心配していたが、杞憂だった。


「うお、大渦だ! めちゃくちゃでかいっ」 


 翔が指差した前方に、大きな渦を巻く渦潮が見えた。船に乗っているお客さんたちが「ワッ」と声を上げる。みんな、初めて渦潮を見る人ばかりだろう。私は初めてではないものの、やはり自然現象でここまで巨大な渦潮が見られるのは、新鮮だった。


「すげーすげー。あんなふうに見えるんだな、渦潮。本当に存在してると思ってなかった」


「え、そりゃ存在はしてるよ。もしかして翔、疑ってたの?」


「ちょっとだけな。どうせ大したことないんだろうって思ってた」


 翔の気持ちは分からなくもない。

 実際に自分の目で見るまで、信じられない気持ち。渦潮に限らず、そういうことは人生において多々ある。

 船がその場に止まり、お客さんたちにシャッターチャスを与えてくれた。私も翔と一緒に写真を撮る。カシャリ、という小気味良いシャッター音がそこかしこから響いた。


「二人で撮ろうぜ」


「え? うん」


 自撮りモードにした翔が、私の隣にぴったりくっついた。久しぶりの距離感に、思わず心臓が跳ねる。


「いくぞ」


 シャッターを押す笑顔の翔の隣で、私はぎこちなく笑っていた。


「はは、なんだ朝香の顔。むすっとしてるじゃん」


「だって、心の準備がっ」


「心の準備ってなんだよー? もっかい撮るか?」


「うん」


 翔に促されてもう一度写真を撮った。今度はむすっとまではいかないが、やっぱり私の表情は堅かった。恥ずかしさや懐かしさ、別れた元恋人同士なのに、という事実に対する複雑な気持ちが混ざっていた。


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