表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
潮に閉じ込めたきみの後悔を拭いたい  作者: 葉方萌生
第三章 波の音

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/79

渦潮観光船

 翔と約束した七月十三日月曜日、この日は最高気温が三十五度と、猛暑日だった。


「あっちー! 天気予報見てなかった! ミスった」


 香風堂の前で待ち合わせして早々、予想外の暑さにわーわーと騒ぎ立てる翔。都会と違って、淡路島には日差しを遮るような高い建物がないので、直射日光がかなり厳しい。私は慣れているので日傘にアームカバー、サングラスと日差し対策は万全だが、身一つでやってきた翔は帽子一つ被っていなかった。


「これ、被る?」


 私は、自分が身につけていた帽子を翔に差し出す。翔は顔が小さいから私の帽子でも入るはずだ。


「え、悪いよ」


「私は日傘があるから大丈夫。帽子ぐらい被らないと、紫外線で肌が荒れちゃうよ」


「それもそうだな……ありがたく使わせてもらう!」


 翔が、帽子を被ると顔の半分くらい影になったのでほっと一息つく。

 それにしても翔、俳優なのに日焼けとか気にしないのかな。

 疑問に思ったけれど、休暇中だから気分も緩くなっているのかもしれないと思い直す。

 活動休止——その言葉が頭の中でフラッシュバックする。

 翔はどうして、俳優の活動を休止しているのだろうか。私も菜々も隼人も気になっていることだ。本人に直接聞けたらそりゃ楽だけど、そんな勇気はない。


「朝香、どうした?」


「え、いや、なんでもない。今日何するのかなーって」


 咄嗟についた嘘に、彼は気づかない様子で「そうだな」と顎に手を当てる。


「俺、船乗ってみたいんだよねえ」


「船? 渦潮観光船のこと?」


「ああ。嫌か?」


 彼が私の顔を覗き込む。その瞳は相変わらず宝石みたいに綺麗で、ドキリとしてしまう。


「嫌じゃないけど」


 私は、かつて子供の頃に渦潮観光船に乗った時のことを思い出す。渦潮の中に落ちて、不思議な体験をしたこと。自分の身体が過去に戻り、見知らぬ男の子に会ったこと。

 あの体験のあと、なんとなく怖くて、渦潮観光船には一度も乗っていない。

 まあ、落ちなければいい話だし……大丈夫よね。

 そう自分に言い聞かせて「いいよ、渦潮観光船」と翔に返事をしていた。


「やった、ありがとう。暑いし、すぐに行こうか」


「うん」


 私は翔と自宅から乗ってきた車に乗り込んだ。運転席に座ろうと思ったのだが、


「俺が運転するよ」


 と男らしく、翔が運転席に座ってくれる。 


「ありがとう」


 翔の運転かあ。

 高校生の頃はもちろんまだ免許なんて持っていなかったので、二人でドライブをするのは初めての経験だ。助手席に座り込んだ私は、履いてきたスカートの模様をじっと見つめる。翔とデートをするからと、勢い込んでクローゼットの奥にしまい込んでいた白いスカートを引っ張り出してきた。お花の刺繍が随所に散りばめられていて、清楚な女の子が着るタイプの服だ。


「それでは、出発進行!」


 子供みたいに掛け声をかけて、翔は運転を始めた。チラチラと横目で彼の横顔を眺める。真剣なまなざしに、笑ってしまいそうになった。

 緊張してるのかな。

淡路島で運転するのは初めてだろうか。都会に比べると交通量が少なくて楽だと思うけど。慣れない道を行くのはやっぱり大変だろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ